今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】

柚ノ木 碧/柚木 彗

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3章 今日も学園はゴタゴタしていますが、何故か苗字が変わってしまってコッソリ鑑賞出来にくくなる様です。

閑話 ユリア・ブルックストンの呟き

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 私の名前はユリア・ブルックストン。

 侯爵家の長女ですわ。


 我がブルックストン家には他に兄がおりますの。

 兄は既に成人しており、今は領地に籠って次期公爵当主としての心得や為すべき事を学んでおりますわ。次に会えるのは社交界の時期でしょうか。ふふ、楽しみですわ。

 お兄様は私に優しいので、毎年会えるのが楽しみにしておりますの。


 そして侯爵家当主、私の父親ですが現在ワケあって他国に出向いております。

 本来ならこの様なお仕事など侯爵家当主が行う事等あっては為らないのですが、後継ぎの兄もおりますし、何より国王の指名なので逆らう事は出来ません。

 とは言え我がお父様は喜々として出向いて行きましたが…大丈夫なのでしょうか。

 お母様も追い掛けて行きましたし、大丈夫だとは思うのですが少々心配です。

 大丈夫だと思いますが、変なトコでヘマをしない様に日々祈っておきますわ。


(注:ユリア嬢の父親は外交官みたいな役職に付いています)






 さて、私はこの春で学園へと入学する事になりました。

 幼き時に婚約していた我が国の第二王子である、ユウナレスカ様も共にですわ。


 当初この婚約は我が父に大いに反対され、一時期は国王との不仲説も流れる程だったと記憶しております。

 何せお父様は国王からの使者が来る度に、


「あんの小僧の使者からだと~~~ユリアに見合う男になってから来やがれ!」


 とか、


「は!我が可愛いユリアには足元にも及ばないわっ!1から出直して来い!」


 …。


「百万年早いわーっ!」


「いいかぁ!目に入れても痛くない程に可愛いかわいいカワイイ、いいか、ここが大事だぞ!とても愛くるしく可愛いユリア、我が宝石のユリアの婚約者を希望する等、一昨日来やがれー!」


 …最後意味が分かりませんが、兎に角お父様は私に甘いのです。

 ええ、お母様が時折羨むほどに。

 何でもお兄様曰く「あれは重病な親馬鹿だ」だそうですわ。だとすればお兄様にも御父様は親馬鹿なのでしょうか?そう思って聞いてみたところ、即否定されましたわ。

 お父様ったら、贔屓はいけませんことよ?


 そんなワケですので、当初ユウナレスカ様との婚約は中々成立致しませんでした。

 ですが私が10に為る頃でしょうか。

 その前からも他の高位貴族からの婚約の打診のお話が幾つか来て居たのですが、それらを全てお父様は一刀両断(と、お兄様は言っておられました)で断りまくって居た様です。


 ですが等々痺れを切らした某貴族の子息が、お父様に連れられて偶々来ていた私に偶々パーティー会場で子供達が居る場所に一人で行った途端、


「お前がユリアか」


 それまで見た事も無かった異性から、唐突に話し掛けられて驚きましたわ。

 何せ相手は背丈が私よりも上で、年はわかりませんが爵位は私より下の方。

 私これでも侯爵家の娘ですから、絵姿等で私より爵位の上の方や同等の方のお顔は見て居りますので知って居ります。勿論美化されていらっしゃる絵姿もあります。ですが、その場合は御父様や御兄様が教えて下さるので大体ですがお分かりになりますの。

 ですから目の前で、私の事を呼び捨てで呼ばれた方は私よりも爵位が下、しかも服装から伯爵か子爵の子息ではないかと推測致します。


 …着ている服の生地があまり上等とは言えませんでしたので。


 その様な方が何故私に?

 疑問符が頭の中に浮かびましたが、私は口を開きませんでした。

 理由は爵位の下の方が高位貴族の名を呼ぶのは、まして呼び捨て等本来ならあっては為らない事ですわ。

 ならば私は返事をしては為らないのです。

 この方が罰せられてしまいますので。


 ですがどうも目の前の貴族の子息は、ご自分の立場と状態をご理解して居られない様ですわ。

 周囲の明らかに子爵や男爵のご子息やご令嬢達が顔を真っ青にし、後ずさったり一歩後ろへ下がったりして居られると言うのに。 困ったものですわ。

 せめて最初にご自分から名乗って下されば、此方も言葉を発せる事が出来ますのに。


「おい、聞こえないのか」


 いえいえ、貴方こそご自分の立場が分かっておりませんの?

 もどかしいですわ。私がこの場で口を開いてしまえば、そして貴方に言葉を掛けてしまえばご自分の立場が悪く為る事を理解して下さいませ。

 喋れないと言うのは実にもどかしいですわ。


 そして私、どうやら失敗したのだと理解致しましたの。

 この場所は下級貴族の子供達が集う場所だったようですわ。貴族の子供はどの子も集まる場所は同じ、ですが高位貴族と下位貴族とは位置が違います。

 少し先へ向かえば高位貴族の子供達が居るのですが、皆困惑して此方を見て居ります。中には困惑し、見て見ぬふりをして居られる方もいらっしゃりますけど。


 さて、本当に困りましたわ。

 先程から会場の警備に付いていらっしゃる方々も困惑した状態で居られます。何せ曲がりなりにも貴族の子供ですから、何かしら不備があっては為らないのです。それに警備をしている方が市井の、つまり一般の方でしたら後程捕獲した貴族の方に逆恨みを買ってしまう可能性があります。

 その場合…まぁ、良からぬ事態になるのは目を見るより明らかですわね。

 ですから警備の方々も積極的に行動を起こす事が出来ません。

 勿論不埒な真似をされたり暴力をされた場合は即対応する様にしている様で、先程から此方の様子を窺っている様ですわ。


「馬鹿者!」


「ッ!」


 あら?

 私が困っておりましたら、この方のお父様でしょうか?

 私の名を呼び捨てに呼んだ方の頭を強烈な拳一つ、見事な音を立てて落としております。対して御子息は頭を押さえて痛みを堪えて居りますわ。目頭に涙が浮かんでおられる様で、かなり痛かったのでしょうか。


「ち、父上何をするのですか」


「馬鹿者まだ分からんか!」


 もう一度ご子息の頭に拳骨が落ちましたわ。

 そうこうしているうちに気が付いたら私達の周りには誰も居らず、円形になって人だかりが出来て居ります。

 嫌ですわ、目立ってしまいましたわね。


「申し訳御座いませんユリア様。私は○○領の…」


 ご子息からお父様と呼ばれた方がご挨拶下さいました。

 これで私はやっと口が開けますわ。

 ただその際ご子息が「コイツ口聞けねーんだぜ」とおっしゃったので、ご挨拶する為に開いた口が驚きのあまりに一瞬止まってしまいましたわ。


「馬鹿者!何度叩けばわかる!お前はもう口を開くな!」


「ですが父上っ」


「黙れ!」


「父上!」


 その後も少し親子喧嘩をしておりましたが、何度目かの拳骨でやっとご子息の口が閉じましたわ。


 はぁ…疲れましたわ。

 見るとご子息のお父様も疲れ切った顔をしております。さぞかしご苦労されていらっしゃる事なのでしょう。


「申し訳ありません、ユリア様。この馬鹿者は私の息子ですが、我が妻と年の離れた私の妹が散々注意しても聞かずに甘やかしてしまいました。先日まで領土から出て来た事が無かった田舎者の為、貴族としての立場と自分の今の状況を理解していない様なのです」


 この話は先日お父様から聞いておりましたわ。

 領地で甘やかし放題になってしまい、言われれば周囲がいう事を聞く様になってしまったのですと。その為に慌てて父親が領地から連れて来て、先日から教育をし直し始めたのだとか。


 大変なのでしょうね。

 そしてそのご子息。

 いえ、ご子息のお母さまからですが、私宛に何十回何百もの婚約の打診をして来ており、お父様は始めの頃は丁寧に断って居られました。ですが連日連夜と何度も手紙が来るものですから等々王都にいらっしゃったご当主に連絡を取り、許可を得てから無視をするようになりました。

 何でも幾ら言っても断っても、此方の言い分を無視する形で婚約の打診をして来る者ですから。今後は無視してくれとご当主様に言われたそうなのですわ。

 ですから今後パーティー等でご子息が居られたら、お父様から接触するなと言われて居たのですわ。何でも常識が無いから何を仕掛けて来るか分からないからと。

 すっかり私としたら忘れておりましたわ、失敗ですわね。


 まさかここまで常識が無い方とは思っておりませんでしたし、先日王都へ来たばかりだと言うので油断しておりましたわ。

 しかも教育のし直し中だと言うのに、もうパーティーへ参加しても大丈夫だと思ったのでしょうか。それともこのご当主も、何だかんだ言って甘い方だったのでしょうか。

 恐らく後者だと思われますが、困りましたわね。

 さて、私は何とお答えしたら良いのかしら。

 出来たらこのご子息とは口を聞きたくは無いですし(未だにご自分の名前を名乗っておりませんし、ご挨拶も致しておられませんし)、ご当主のみで挨拶を致しましょうかしら。


「お分かりになりま「やっぱり無視しやがる」」


 …再度口を閉ざしてしまいました。

 このご子息は残念な御方なのですね。

 困惑した視線をご子息に向けるのはイヤですのでご当主に向けると、顔面が蒼白に為ったり赤くなったりと色が次々と変わって行きます。おまけに蟀谷の辺りがヒクヒクと。大丈夫でしょうか、倒れたりしないでしょうか。

 私がそう思っておりましたら、


「いい加減にしないか無礼者」


 サッ人の波が左右に別れ、別れた先から一人の少年が此方へ堂々とした歩調で歩いて参ります。

 その佇まいから上位の高位な貴族の子息だと分かります。おまけに纏っている生地は高価な品で、目の前の野暮な口調の子息の衣装とは雲泥の差ですわ。


「無礼者だとっ!」


 サッと野暮な口調のご子息の顔付が変わった様ですが、咄嗟にその方のお父様がご子息の口を…いえ、口処か首絞めてません?


「馬鹿者!すいません、ユウナレスカ様。我が息子がご迷惑を」


 はやりユウナレスカ様でしたのね。

 ここ数年の婚約騒動で暫く御会いしておりませんでしたので、少しわからなかったのです。最後に会った時は何年前だったかしら。随分と背が伸びておられますわ。それに私と同い年なのに少しだけ高いのですもの、見違えましたわ。


「私は構わんが、ユリア嬢に謝ったのか?」


 この謝った云々はご子息の事でしょうね。

 私は彼とは直接口を開いておりませんのでセーフですわ。

 それは良いのですがご子息のお父様、首、あの…あ、落ちましたわ。ズルリと床に崩れ落ちて行く様に周囲は少しだけ失笑が広がりました。

 ううん、お父様が御可哀想ですわね。

 このままですと貴族の世界で笑い者になってしまい、肩身が狭くなってしまいますわ。


「いえ、すいませんユリア様。この度は私の息子がご迷惑を御掛け致しました」


 丁寧に何度も頭を下げて謝ってくれましたが、出来たら謝るのはそのご子息に謝って貰いたかったものです。最も気を失っている状態では無理なのは分かっておりますわ。


 そうこうしている内に問題のご子息を抱えて去って行った方は最後に、「二度と此奴にはユリア様の前にださせません」と宣言(?)をし、去って行きました。




 気が付いたら私とユウナレスカ様の二人っきりです。

 他の下位貴族の子供達は居るには居るのですが、離れた位置に居て此方を見ないようにして背を背けております。


 …困りましたわ。

 そう恐れなくても宜しくてよ?とは思うものの、今回ばかりは致し方がありませんわ。

 それにしても私ユウナレスカ様に助けて頂いて貰ったのですから、キチンとお礼を言うべきですわね。


「ユウナレスカ様、有難う御座いました」


「いや、いい。大した手間では無い」


 チラリと此方に視線を向けると、少し照れた様に視線を外します。

 このお方は昔からこうなのですよね。

 同じ男性だとそうでも無いのですが、女性相手だとあまり視線を交わしません。王族ですからその様な教育を受けて居るのかも知れませんが、少し失礼なのでは無いのですか?

 等と幼い頃、何度か叱咤したモノです。

 思い出しましたわ、最後私が叱咤した時よりお会いして居なかったのですわね。


「改めて、お久しぶりですわユウナレスカ様」


「そうだな」


 それから少し場所を移してバルコニーで二人でお話ししましたが、その最中に先程のご子息の事も聞きました。

 恐らく廃嫡であろうと。

 そして最悪の場合は当主の妻とは離縁、後当主の年の離れた妹は追放になるだろうと。


「まぁ、そんなに?」


「元々あまり良い噂を聞かぬ女性達だったからな」


 何でも領地の税率を勝手に上げて領民から税を吸い取り、我儘し放題。更に財政難に追い込ませ、現在破産寸前に迄追い込んで居るとか。

 当然息子も我儘に育ってしまい、手に負えぬ様になってしまったと。

 それが先日発覚して慌てて息子を連れ戻し、今領内で次々と手を貸した官僚等を捕獲している最中だと。


「恐らく今回連れて来た息子も手を施し様も出来無い程に酷く、廃嫡を考えて居たのかも知れん。だからこそこのパーティー連れて来たのだろう」


「つまり私は良い鴨でしたのかしら」


「最上の女だからな、ユリア嬢は」


 クスっとユウナレスカ様の口元に笑みが現れます。


 …あら。


 ちょっとドキッとしてしまったのは気のせいでしょうか?


「だからこそユリア嬢の父上は傍観していたのだろう」


「そうなのです?」


「ああ、心配はしていたようだがな」


 まぁお父様ったら。私結構困っていましたのよ?

 帰宅したら取っちめないといけませんことね。


「程々にしてやれ。親馬鹿で子煩悩な噂がでる程の方だからな、ユリア嬢の父上は」


 それは理解しておりますが、それとコレは別ですわよ?







 その件があった事で後程私達は婚約致しました。

 お父様は相変わらず大反対でしたが、私が折れたと言うのが正しい形です。

 このまま婚約をしないでいれば今後似たような事が起こるかも知れません。

 だとしたら防波堤為らぬ婚約をしておけば宜しいのです。


 思えば私はあの時、レスカに惚れてしまっていたのでしょう。

 自覚は無かった様ですが。

 ふふ。


 防波堤が無ければ、今後もあの御子息の様な方に文句を言われるかも知れませんですわ。

 あのご子息は返事が無い私に対して文句を言いたくて仕方なかった様ですしね。再三と言うか何百何千枚もの手紙が来ていたと言うのですから。

 ですが少しでもご自分の…いえ、今言っても仕方がありません。

 少し怖いですが。




 そうそう。

 後日分かったのですが、


「あの子息は廃嫡になったぞ」


 と、喜々としてお父様に告げられて驚きました。

 何でもレスカに言われた通り、『最悪のパターン』を辿った様です。


 ご子息の廃嫡に領土追放。

 元妻と離婚に年の離れた妹の追放。

 携わった官僚の死刑。

 もしくは大量の借金を背負い、強制労働。

 今後支払いをして行くようですが、桁が…恐らく死ぬまで無理だと思われます。

 他にも刑罰があるようですが、まだ幼い私にはお父様は教えて下さいませんでした。きっとかなりキツイ刑罰があったのでしょう。

 そして当主様ですが今回の件で反省をし、引退をして弟に地位を譲る様です。

 時折お手伝いをするようですが、まだお若いですのに大変かと思いますわ。


 それにしてもお父様、何故こんなに詳細を知っていらっしゃるのでしょうか。

 裏技?そう言うのが御ありなんでしょうか。不思議ですわ。









 * * *








 さて、不思議と言えば。

 四月から学園に通う事になったのですが、私達―…


 レスカと私ユリアはこの時期とても仲が悪かったのですの。

 と言うのも私も悪いのですが、レスカも悪かったのですわ。

 つまりお互いに意地を張っておりましたの。

 その最中、ひょんな事から私達との仲に妙な娘が入り込みました。


 アメリー・メメントリー準男爵令嬢。


 可愛らしい容姿で気が付くと周囲を翻弄させ、あっという間に高位貴族の男性陣が彼女の周囲に居る様になりましたわ。

 そして私達女子学生の派閥、この言い方だと本来はイヤなのですが実際は女性達は集団になると派閥を作ってしまうモノです。当然我関せずと孤高を貫き独りでいらっしゃる者も居る様ですが、私達のSクラスには幸いな事にその様な方は居られなかった様ですわ。

 大抵の方は私と同じ派閥に入って居られますが、残念な事に何人かは別の派閥に入っておられ、その中心人物が先程言いましたアメリー準男爵令嬢その人なのです。


 そのアメリー準男爵令嬢ですが、少々おいた過ぎる様です。

 彼女は別クラスにいらっしゃるのですが、度重なる噂…婚約者がいらっしゃる殿方との過度の接触。また高位貴族の殿方との密会。更に私との婚約者であるレスカと、ある時親密そうに話し込んで居たと言います。


 言い方は悪いですが他の方はまだ良いのです。

 ですが私の婚約者であるレスカとの、二人だけの接触は勘弁なりませんですわ。

 しかも準男爵令嬢なのです。

 この事が発覚してしまうと、ご自身所か御両親の貴族としての身分と今後の学園生活に影響を与えてしまいますわ。

 幾ら一代限りの貴族の準男爵とは言え、その様な首を吊る行為は見過ごす事は出来ません。

 正義感からではありません。

 これは…そう、私の醜い嫉妬心からですわ。


 事実とは違うかも知れません。

 ならばと同じ派閥の仲の良いご令嬢達に『お願い』をし、コッソリと様子を見て貰って居りますが、やはりその、悪い事柄ばかりで良い報告は一切聞きませんですの。

 アメリー嬢は御自分の身の置き方を、ご理解為さっていらっしゃらないのかしら。


 数年前の私が巻き込まれた貴族のご子息の様に、罰として追放処分等を下されるとご自身と言う身一つで放置されます。そうなると生活するのは大変になりますのよ?それにご子息の方は男性でしたが、アメリー嬢は女性ですわ。身一つで追放となると、最悪人攫いに攫われて如何わしい事をさせられると聞いた事があります。

 もっと酷いのは盗賊に…いえ、この話は止めましょう。

 今はそんな事を考えて居る場合ではありません。

 そうなる前に止めるべきです。


 ではと早速行動を開始致しますわ。

 少なくとも私が現場を見るべきですわ。

 他の貴族子女の方々が「御止めになった方が」とやんわりと止めて下さいますが、私は止まりませんわ。


 私はブルックストン家のユリア。

 侯爵家の娘ですわ。

 その娘が行動しなくてなんとしますか。


 と、その時は思って居たのですわ。

 ええ、カフェテリアの一角から『実に楽しそうに』見詰めて居る、一人の視線を視界に収めるまでは。


 栗色の柔らかそうでそれで居て艶やかな髪、その髪を軽く揺らして翠色の瞳を細めて何処と無く嬉しそうに、楽しそうに見詰める姿。

 何故だかその姿を視界に収めた瞬間、ストンと頭が急に冷えて冷静になってしまいましたわ。

 まるで憑きモノが落ちた可の様にですの。

 それまで焦っていた心が落ち着いて、とても視界がクリアになりましたわ。


 はて、私は?

 とその時思ったものですわ。

 その時の感情は後にも先にも理解しがたかったのですが、何故かその彼女、後にレナちゃん、本名レッティーナ嬢に私はとても感謝してその場を辞しましたわ。

 もしあの時の冷酷な感情のまま突っ走れば、レスカにもアメリー嬢にも迷惑をお掛けしたでしょうからですわ。


 その後紆余曲折があり、少し間を空けてからカフェテラスに居たレスカ達に突撃したのですが、やはりカフェテラスに居た少女に私は、いえ私達は助けられましたの。

 そして今まで見た事も無い、とても不思議な魔力の持ち主によって場の収束をして頂きましたわ。

 氷の属性を持ち、膨大な魔力を持つアメリー嬢が放った魔力によって凍り付いた私達。ですがカフェテラスに居たレナちゃんによって魔力を吸い取られ、無事凍傷に為らずに済みましたわ。それ所か何故かその件から人が変わった様に接して来るレスカに絆されてしまい、気が付いたら…


 私、レスカの事を大好きになってしまいました。

 ふふふ、不思議ですわ。


 レナちゃんが言った言葉、「ユウナレスカ様の頭に犬耳が~っ尻尾が見える~っ」と言う言葉に最初驚いたのですわ。更によくよく見ると、その様な幻覚が見える程に此方の様子を窺い、一生懸命どうしたら最善になるかと思案している姿。

 その姿が可愛くてかわいくて、愛しくて堪らないのですわ。


 ああ、やだわ私ったら。

 あの日助けて貰った日からレスカの事が好いて居たのね。

 だから幼き頃、婚約の許可を出したのですわね。


 そう自覚し、その時からレナちゃんが言っていた犬耳と尻尾の幻覚が見え、今では誰もが認めるカップルになったのですわ。

 勿論親友であるレナちゃん公認ですのよ?

 うふふ。



 ですからね、私今大事に親友を見守っておりますの。

 レナちゃんの周囲にはレナちゃんを大事に思って居る方が大勢いますわ。

 ニキ様にケイン様、それにフォーカス様もかしら?この方は少し分かり難いのですわ。最近は第一王子のガーフィールド様もでしょうか。

 でも他所の方が仰っている様に、私としてはレナちゃんが私と同じレスカへと嫁ぐと言うのも宜しいと思って居りますのですわ。

 それなら何時でも親友のレナちゃんに会えますでしょう?

 でも第一婦人の座はお譲り致しません事よ?

 これは絶対ですの。


 何にせよ、今後はアレですわ、アレ。

 レナちゃんから目が離せませんわ。

 括目せよって感じかしら?

 ふふ、楽しみですわ。

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◇◆◇◆◇ 更新中のお話 ◇◆◇◆◇
新作 BL ※ とある商店街のお茶屋さん
https://www.alphapolis.co.jp/novel/789277952/192520360

BL ※ ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか
https://www.alphapolis.co.jp/novel/789277952/488408600

NL ※ 今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/789277952/571182846

宜しかったら見て頂けると嬉しいです(*´ω`*)

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