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4章 茜さす樹、影巣食う街

Tears

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 side.ウサギ

 古城に付いてやっとの思いでお風呂に入り着替えてから、普段滅多にしないのだがドサッとべっとに倒れる。

「疲れたね」

「ウサギ様お疲れです」

 そう言いながら隣に居るタマちゃんは頻りに気にしているらしく、ドアの方を向いたりキョロキョロして落ち着かない。
 そんな鳩の身体のタマちゃんの背を軽く撫でながら、ウサギは枕を引き寄せて片手で抱き着く。

「タマちゃん気になる?」

「はい…」

 タマちゃんが気にして居るのは元黒犬さん。
 彼は現在マルティンお父さんに捕まって調査されている。
 調査と言うのは今後二度と離反しないと契約書を書いて血の契約をし、その後身体の隅々までじっくりと邪神の仕掛けが無いかどうかを調べる為だ。

「お父さんの事だから私が嫌がる事はしないしさせないよ」

 だから大丈夫と言って背を撫でるとタマちゃんは目を細める。

「ん~…タマちゃんちょっと気になるからクーちゃん達呼ぶね」

「はい」

 直ぐに召喚獣達三匹を呼び出すと、くーちゃんはのほほんとしているがカー君が即飛び出してシュシュ!とボクサーの様に拳を上げてからあれ~??ときょときょとと周囲を見渡し、みーちゃんはあ、やっぱり?と言った感じでキョトンとしている。

「ごめんね。私が不意打ち喰らっちゃったの。今はもう収束してるから。皆は怪我してない?」

 くーちゃんは怪我の治療で呼び出したので知っているからのほほんとしているが、怪我と聞いてからカー君の傍に寄ってくんくんと匂いを嗅ぎ、ついで手足を触っている。
 問診でもしているのだろうか。
 次にみーちゃんに寄って行って同じようにし、みーちゃんの場合は角から滴を一つ落として付けて居た。どうから何処か怪我をしたようだ。

「みーちゃん怪我してるの?」

 うんうんと頷くみーちゃんに何処?と聞くと患部を見せてくれる。
 どうやら打ち身程度のようだ。そしてその部分が少しばかり毛が無くなっている。
 身振り手振りでどうやらウサギを拉致されそうになった時にみーちゃんが縋った様だが突き飛ばされたらしい。

「そうだったの」

 ションボリしてしまったみーちゃんの頭を撫でて、治療してくれているくーちゃんにウサギはそうだと思い出す。

「くーちゃん、明日もしリアムやキーラちゃんが怪我していたら治療お願いしていい?」

 うんうんと頷くくーちゃんにほっとする。

 あの時。
 拉致される前、キーラちゃん達周辺の人の魔力が急激に減り沢山の護衛の人が気絶をした。あの黒く染まってしまった妖精がウサギの周辺の人の魔力を一気に吸い取ってしまったらしい。
 対策用のアクセサリーや能力があるものは吸われずに影響が無かった様だが、キーラやリアムには対応出来なかった。

「お父さんに頼まないと駄目かもねぇ」

 護衛達に今日の反省として護符やアクセサリーを身に着けて貰う事にしよう。明日話さないと為らないねとカー君が撫でて~と甘えて来た為にグリグリと頬を撫でる。
 ついでにぷにぷにと頬をつつき、いやいや~とフルフルと頭を振るさまを見てほっこりする。
 平穏が戻って来た。
 パタンとベットに大の字に寝ると召喚獣やタマちゃんも真似て転がる音がする。

「ほんと、疲れたね」

「ですね~」

 のんびりとしたタマちゃんの声ときゅ~やらピキュキュやら召喚獣達の声がする。
 うん、癒されたなぁ。
 でも少しお腹が空いたかも。喉も乾いたなぁとベットから飛び起きる。

「きゅぃい?」

「きゅー」

「ぴぃ~」

「ウサギ様どっかいくの?」

 未だベットの上で転がっている召喚獣達にウサギは振り向き、

「ちょっと喉が渇いたのとお腹が空いたかな」

 だから取りに行くと言うと皆付いて来た。
 最も廊下に行けば誰かが警護しているし、さもなくば部屋の前で何時もならメイドが一人は控えている筈。そう思ってドアを開けてみると、

「あれ??」

 誰も居ない。
 不測の事態があったし、本来ならキーラちゃん達が控えているからだろうか。
 それとも人員が足りないのかな。
 もしくはミウ…

「あ」

 ポタリと目頭から滴が落ちる。
 一気に先程の事がフラッシュバックし、小刻みに身体が震える。

「ウサギ様!?」

「た、タマちゃ…」

 吃驚してウサギの胸に飛び込んできたタマちゃんの鳩の身体に顔を伏せ、声をかみ殺して震える。

 怖いこわいコワイ…

 何が恐いって友達を、親友を失うのが一番怖い。
 自分が傷付くのはまだいい。死ぬのだって慣れている。この二千年ずっと繰り返していた事だから頭ではイヤだけど理解もしているし納得もする。本当は良くない事だと言うのも理解している。
 でも、自分のせいで他の人が、親友が傷付くのは嫌だ。

 怖い…

「ウサギ様大丈夫です」

 ふぇぇんとその場で座り込んで泣き出してしまったが止まらない。
 ミウが傷付いた。
 それが、その事がとても怖かったのだ。

「大丈夫です。もう大丈夫ですよ」

 よしよしと鳩の羽根でよしよしと撫でられるのが心地良い。

「タマちゃんわたし、わたしこわかったよぅ」

 うん、うんとタマちゃんの声が聞えその度に撫でられる。

「こわかった…」

「すまなかった!」

「え?」

 少し遠くから聞きたかった人の声が聞え、え?え?と理解の及ばない頭で顔を上げると、速足で此方に向かって来るレノが。

「え、え、え?れの?」

「ウサギっ」

 ぎゅうっと抱き締められ、それでもまだ頭が理解していないのか混乱した声を上げる。

「え、ええ?」

「マルティンから急ぎの連絡が入ったから急いで飛んで来た」

 その間にモソモソとした動きがあったがウサギはそれ所ではなく混乱したままだ。
 ちなみにモソモソしていたのはタマちゃんで、抱き着かれた時に丁度真ん中で挟まれてしまい慌てて抜け出しているらしい。ジタバタしていたが急に動きが無くなったあたり、何とか抜け出せたのだろう、ドサッとした音がした。
 …抜け出した際に恐らく床に落下した音だろう。

「姉上にも数日此方に滞在し、ウサギの側に居ろと言われた。だから、泣くな」

 そう言われても止まらないものは止まらない。

「れの、れの、れのぉ」

 余計泣き出してしまったウサギにレノはただただ抱き締める。
 力は程よい具合に、だが安心させる様に。

「こわ、こわかった。こわかったの。わたし、こわ、くて」

「もう大丈夫だから。私が守る」

「うん、うん」

 ぎゅーとウサギがレノの背に手を回して抱き着き、ボロボロと涙で顔をくしゃくしゃにしているのを横からみーちゃんがハンカチで拭いて行く。
 どこからそのハンカチを?とレノが思ったが、見るとレノの私物。恐らくポケットに入れて居たものを失敬されたのであろう。ついでに言うとみーちゃんはレノの肩に上って来たために少し重い。
 まぁいい今はそれ所ではないとレノはそのハンカチを受け取り、少し落ち着いて来た辺りでみーちゃんを肩に乗せたままでウサギを抱き上げる。

「ぴゃ」

「落ち着いたか?」

「う、うん」

 抱き上げられてしまった為に涙が引っ込んだのだ。
 だがこの体制は所謂お姫様抱っこ。
 何度かレノに抱っこされて来たが、どうにも恥ずかしくて為れない。おまけにレノの心配そうな顔が近くて赤面してしまうのを止められない。

「顔を洗いに行こう」

「あ、あの。自分で」

 行ける。そう言おうとしたら「ダメだ」と遮られてしまった。

「ウサギは今日は思いっきり私に甘えろ」

 え?と思ってレノの顔をみると心配げな顔が少し泣きそうな顔つきになる。

「頼むから」

 切なげに言われては断れない。
 こっくりと頷き了承する事にした。
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