上 下
144 / 255
2.5章

番外編 フローとアニタ

しおりを挟む
 ぺちんぺちん。

「むー!」

 先程からずっとぺちぺち叩いて居るのだが、叩かれて居る相手であるフローは全く目を覚まさない。
 昨晩一緒に寝ようと共に寝たのだが(危ない意味はアニタが赤ん坊の為に皆無)、添い寝した相手はアニタを抱き締めたままでずっと眠って居る。

 ーーお腹すいた!

 べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!べち!ベチッ!

 …バチンッ!ドカッ!

「いっ!いてえ!わっ、ちょっと!」

 腹が立ったのか、お腹が空いた為に不機嫌になったのか。
 最初は手で叩いて居たのだが、一向に起きない為に等々肘を使って殴り付けて来た。はっきり言ってこれは痛い。

「いた、痛いって!アニタ!」

「うー!うー!ばーかー!」

 普段あまり口が廻らないアニタだが、何故かフローを罵倒する時はハッキリと喋る時がある。そう言う時は大抵お腹が空いて不機嫌な証拠なのだが、今正にその状態だ。

「殴るなってば!あ~もしかしてお腹が空いたから怒ってる?」

 ドカドカと蹴り出した事にアニタを抱き起こし、

「ごめんごめん、起こしてくれたんだよな?で、起きなかったから不機嫌なのか?」

 うんうんと頷いたまま不機嫌な様子に、これは相当腹が減ってるなと慌ててベットから降りて着替え始める。

「や!」

 フローがさっさと着替えてからアニタの着替えをさせようとしたら、激しく抵抗されてしまった。

「いや、だからな。着替えを」

「め!」

 イヤイヤを始めたアニタに混乱する。

「あ~えーと」

 アニタの着替えをさせようと、上着に手を掛けると激しく抵抗される。仕舞いには殴られたり泣かれたり。ほとほと困ってしまった。

「でも着替え無いとダメだろう?」

「めーー!」

 ぷんぷんと怒りだしたアニタにフローはどうしたら良いかわからず、

「あにぃ助けてー!」

 兄の竜王にアニタを抱っこしたまま(抱っこはOKらしい)かけこんでいった。





 ***






「何をしてるんだお前は」

「いや、だってさぁ…」

 赤ん坊の扱いはわからないよと言うフローは、アニタとウサギに言われて後ろを向かされていた。ちなみに今、アニタはウサギによってルンルン気分で着替えさせて貰っている。

「アニタちゃん、今日は赤いリボン付けようか?」

「あいっ!」

 ウサギに白いワンピースを着せられて、アニタの髪の毛にブラシを掛けながら横にちょこんと赤いリボンを付ける。ここ暫く甲斐甲斐しく御世話をしていた御掛けでスッカリ手馴れたモノ。
 初めて自分の髪の毛を鋤いた時はグチャグチャになったとは思えない手付きだ。

「うん、可愛いね♪」

「あ~♪」

 すっかりご機嫌になり、「あーがひょ」とピョコンとお辞儀をする。

「何この違い…」

 ガックリと項垂れるフローはまだ後ろを向かされたままで、はぁぁ…と溜め息を1つ吐く。

「当たり前じゃないですか。ね、アニタちゃん」

「ね~♪」

 にこにこと微笑むアニタを抱っこし、ウサギは背を向けたままのフローの前に回り、

「アニタちゃん女の子ですよ?それなのに男の人に着替えさせて貰うってのは無いです」

「です!」

 ふんぞり返るアニタにフローは、

「可愛いけど、末っ子の真似?」

「ちゃーもん!」

 プンッと頬を膨らますアニタにフローはウウム?と唸る。

「あにぃ、何がどう違うんだ?」

「…以外と鈍感だったのだな、お前は」

「あにぃに言われるとは!」

「どういう意味だそれ」

「イヤだって、あにぃってば昔明らかに好意を示して来た女の子の事、悉くスルーしまくってたじゃないか!仕舞いにはベットに誘いに来た娘まで袖に「ストップ!」あ!」

 フローが気付いて慌ててウサギを見ると、顔色は真っ青になり、ショックを受けた顔付きでフルフルと小刻みに震えながら涙目になっている。

「レイン」

「…うん」

「私はレイン以外には興味は無い」

「うん。知ってる」

 ぎゅむっと抱き着いたウサギに竜王は抱き締め返しながら、ウサギの耳元に「好きだ」「レインしか欲しく無い」等と甘く囁く。

 そしてウサギに見えない様に、手だけでフローに対して"しっしっ"と手で追い払う仕草をし始めた。












「フーにょ、ばーか」

 竜王の部屋から出て廊下に出た途端、フローの腕の中に居るちっちゃいアニタに罵倒される。
 恐らくフロー達が部屋から出て来た事で、竜王とウサギ彼等二人が食堂に来るのは大分時間が掛かるだろう。

「…そ、だな。今のは俺が悪いな」

 やっちゃったよ、後で誠心誠意謝らないとな。と愚痴るとアニタに腕をナデナデされる。

「お、慰めてくれるのか?」

「ちょとね」

「おう、ありがとな」

「そゆちょこ、フーのびちょく」

「ん~?」

「フーあやまにゅのエライ。おれいちゅるのエライ」

 嗚呼成る程とフローは頷き、

「そか」

「ん!」

 廊下にでた事で待機していたメイドに連れられ、一階の食堂はまだ修理中の為、二階の臨時の部屋までゆったりと向かう。

「フー」

「ん~?」

「おもい?」

「いや」

 軽いと言い掛けて止める。
 何となく言ったら失礼な気がした。
 腕の中に抱いている彼女はフローの知っていた彼女だけれど、外見は全く違っていて。
 心臓付近が何故かキリッと痛む。

「フー」

「どした?」

「おきがえはメイドしゃんよんで。フーされるにょ、はずかちい」

「そっか。御免な、俺そう言うの鈍くてさ」

「んーん、ちってゆ」

「そか」

「ん」

「…そっか」

「フー…ないちぇるの?」

「…」

「フー、だいしゅきだよ」

「ありがとな」

「フーあいたかっちゃよ」

「御免な」

「フー、なかないで」

「そ、だな」

 二階の踊り場に立ち止まり、フローは袖で目を擦る。
 気が付くと先導していたメイドのエイミーは、フローを見ない様に背を向けたまま止まって居てくれている。

「フーもうはなちゃないでね?」

「…約束する。俺アニタをもう離さないよ」

「ん、フーだいしゅき」

「あ~…えっと、なんかあにぃみたいな気分だな」

「ん~?」

「アニタ、頬にキスしていい?」

「うん!」

 ニッコリ上機嫌になったアニタにフローも微笑む。
 だが次の瞬間盛大にむせた。
 何故かと言うとーー…

「ほほにょりくちがいいにょ!」

 ん~♪と唇を上げる幼女、と言うか赤ん坊にフローは「ゴフッ!」と……




「城に甘ったるい人がまた増えたわね」

 エイミーの呟きに、答える人は誰も居なかった。

 …否。

 黒猫アドニスが廊下の角で、エイミーに答える様に半目になって突っ立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

処理中です...