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2.5章

閑話 精霊と面倒ごと 4

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『まぁそんなわけでの、ちゃんと見送って来たのじゃ』

 マミュウが旅立ってから約二ヶ月後。

 黒猫のアドニスが先行して教えてから数週間後。

 マルティンとアドニスにミトラが城に帰って来た。
 とは言え、マミュウは帰って来ていない。
 アビス(奈落)に入るには単独、独りで行かないと行けないのだそうだ。


「一族入りしたか」

「…はい」

 何処と無く影が差した表情のマルティンに、竜王は元気出せと言わんばかりに肩に手を置く。

 本来ならアビスから帰還した最に出迎えたかったマルティンは、アビスの案内役に「此処に留まるのを禁じる。帰還せよ」と命じられ、袖を引かれる思いをしながらも致し方無く帰って来た。

「出来ればあのまま待って居たかった。マミュウはまだ一族入りしたばかりで、一族として一番年若いのに」

 そんなマルティンの様子を見ていたウサギは、マルティンの容姿にアレ?と思う。旅立つ前よりも、今の容姿は更に若返っていて、どうみても十代後半か二十代前半の様に見えるのだ。

「マルティンさんの御肌ピチピチ?」

「…ええ、まあ」

 竜王に「こら」と言われてそうだったと思い出す。
 マルティンは血を吸うと若返る吸血鬼の始祖。


 ーーつまり、残酷な事をマミュウはマルティンにして貰ったのだ。


「…御免なさい」

「いいえ。気にしないで下さい御嬢様」

 そう言ってマルティンは皆に挨拶した後、部屋を辞した。


『こればかりは仕方無いの』


 ミトラの呟きに、ウサギは何とも言えない気持ちになった。









「此処にいたのか、探したぞ」

 竜王が城中を探したが見付け出す事が出来なかったウサギは、ポツンと中庭のベンチの上に座って居た。
 とは言え召喚獣のカー君も居たし、ジャッカロープのくーちゃんやアルミラージのみーちゃん等は二人仲良くはむはむと中庭の草を食べていた。そんな様子をウットリと見ながらもウサギの側にキーラは側に控えて居たし、リアムもきちんと護衛をしていた。
 ただちょっとウサギがぼんやりしていた為に、竜王が呼んでる声が聞こえなかっただけだ。

「どうした、こんな所に居て」

「ちょっと考え事してました」

「マルティンのことか」

「はい。私もあの様に出来るのかなって」

「ん?」

「もし、です」

 チラリと背後に居るキーラ達をみやり、敢えてもしと比喩する。
 キーラ達は知らないのだ。
 竜王が【黒ノ浸蝕】に侵されて居ることを。

「もし、竜王様が、レノが残りの寿命が少ないなら。私はマルティンさんに頼むのかなって」

「そうか」

 話して居る間に横に座った竜王は、ウサギの頭に手を置いて優しく撫でる。
 慈しむ様な優しい手付き。
 柔らかな感触を楽しんで居た竜王は、ふとその手を止め、

「私なら頼まないかな」

 チラリとウサギは竜王の顔を見る。
 複雑な表情を浮かべて居る様は、グリンウッドの抗争以来黄金色に輝く瞳の色が雲って見えた。

「私みたいな奴は君に会えないと病むからな」

 クスッと自虐気味に笑む。

「今残って居る太古の大精霊は、基本病んでるしな」

 座って頭を撫でて居たと思ったら、いつの間にかウサギの膝に頭を預けて竜王は勝手に膝枕をし始める。

「悪いが膝を借りる。少し寝かせてくれ」

「え、あ、はい」

 そのまま目を閉じた竜王の藐(びょう)を見詰め、穏やかに風が頬を霞めて行く。




 もう君を手離したく無い。





 そう聞こえた気がして竜王に目線を落としてみたが、穏やかな吐息をたてて居るだけであった。
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