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2.5章

2.5 毒舌かぁ、ぶれないな

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「な~んか今の身長だと兄貴ってより、俺のが兄貴っぽいなぁ」

「…お前、自分の相手と同じ身長になるか?お前の場合だと赤ん坊になるぞ」

 其処でフローは「ん!?」となるが、まさかと思ったが走りながらも否定する。何故ならフローの恋人で生涯を誓った相手は、先日寿命でその命が尽きたのだから。


 目の前で崩壊して逝った土の精霊アニタ。

 たわやかで穏やかな、一見すると男の子っぽく見られるが実に優美な仕草を持ち、どちらかと言うと火と言う性質の自分とは真逆の性質を持った女性。
 正直自分には勿体無いと何度も思ったが、アニタは穏やかに笑って着いてきてくれた。

 ただ彼女は先見の目を持っており、よく『何かを見ていた』。そのお陰かどうかは分からないが、遺言としてアニタ自身が亡くなったらファンダムに向かうこと。その後に竜王のツガイが見付かったら城に向かうことと約束させられた。

 フローの性格を把握しているらしく詳細な日時は指定して居なかったが(ファンダムにて火事騒動を起こし、復旧作業等の肉体労働を対価に暫く拘束されて居た為)、今にして思えば中々的確な指示だったのでは無いかと思う。

 そうでなければアニタが亡くなり…この先生きて行く目的が亡くなったフローの精神はどうなって居たか分からない。



 だからこそ希望は持たない。
 今まで前例が無かったのだから。



 "アニタの魂"を持ったまま生まれ変わって来る筈が無い。


 脳裏にノホホンとした、何処か幸せそうな笑みを浮かべるアニタが浮かぶ。
 そう言えば最後に何か言って無かっただろうか。
 代替わりをする少しだけ前。
 崩壊していく最に、泣いていた最に。
「大好き…」この言葉の後に口を開いて動かしていた気がする。
 すぐに溶けるように消えてしまった為に聞くことが出来なかったが。

 何と言って居たのだろう。


 …この考えを止める。
 もう居ない彼女には聞けない。
 女々しい考えは止めるべきだ。


 ガリガリと頭を掻いて、ベルの主人であるアドニスの様な仕草をして気分をかえる。

 …悪態をついてしまったが、魔王なれどアドニスの事は嫌いではない。むしろちょっぴり、微々たるモノだけど慕っている。そんな様子は微塵にも出さないけども。
 たが結んだ契約が切れていた事を忘れたまま放置している事が許せなかった。アドニスに取っては些細なことかも知れないが、この契約はフローに取って誇りだと思って居たから。


 アドニスのバーカ。

 子供みたいだな。と愚痴て口の中で小さく声に出さずにしていたら、竜王の視線を感じた。



 ふと、前を走って居たベルが止まって周囲の匂いを嗅ぎながらゆっくりと進み出した。少し進むと道が三ツ股に別れていた。


「そう言えばフロー。確か前は『私』と言って無かったか?それに喋り方が前に戻ったのか?」

「あ~…ミサに気持ち悪いと言われたんで戻した。ミサ曰く『火の精霊が無理して"竜王と同じ話し方"何て気持ち悪いわ』だ、そーだ」

 ミサとはファンダムに居る薬師の事だ。
 以前ミトラが語っていたが、曰く『ファンダムの影の支配者』とのこと。いいえて妙だが、その人となりを見たら、大抵の人は納得してしまう。そんな不思議(不気味とも言う)な雰囲気を持った女性だ。

「…真似してたのか」

「そ。憧れの兄貴だからな」

 あっけらかんと、当たり前と言った風に言うフローに竜王は目を見開く。

「………マルティンには朴念仁と言われるが」

 無愛想で愛想が無くて頑固者。
 近頃はツガイ相手であるレインと話をしたくて、口説きたくて努力を続けて居るから『やっと無口と無愛想が取れましたか。けど御嬢様が居ないと仏頂面になるのは宜しくないですよ』と苦言を漏らされたりする。
 他にもエロ駄竜とか色々言われて居るが、今言っても自滅しかないので黙っておく。

「それ、言い方の参考とは違うし。ってか相変わらずマルティンさん毒舌かぁ、ぶれないな」

 クスッと笑ってから、三ツ股の前に佇むベルの黒い艶やかな毛並みが逆立って居るのを見て、

「兄貴」

「ああ、来るな」
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