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2.5章

2.5 女神の塔

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「あはははははっ」

 空中でクルクル回りながら笑って居る、第二番目原始の風の精霊であり、精霊女王のミトラの配下のゼロが言うには、1度水等で薄めると元のアムリタに戻る事は無く、全く別の性質に変化してしまうらしい。そしてアルコールを加えると性質が安定して効果が向上し、アルコール度数が高ければ高くなる程高品質な品になる。
 おまけに匂いや色迄変化する。そのお陰で元がアムリタだとはバラさない限り知られる事は無いらしい。

 (知られたらヤバイ品と言う事だな)
 ザジとマルティンは竜王が帰って来たらこの件を話し、極秘にしようと話す。勿論部屋に居る他の者達も口止めをし、決して漏らさない様に約束させた。
 何せアムリタと言うだけでも凄い品なのだ。
 それがほぼ魔力全快になる回復薬となると女神の薬以外、他に見たことが無い。
 こんなチート過ぎる品、他国の諜報や敵対している者、または強欲な者達に知られれば、召喚獣の主である御嬢様がどうなるか。
 悲惨な結果しか想像出来ない。
 それでなくても竜王の寵愛を受ける者とし、敵対している者達から狙われて居るのだ。

 何としても知られない様に守らねばならない。

(御嬢様、なんて言う召喚獣を召喚してるんですか…)
 しかも召喚した当人である御嬢様は、呼んだ召喚獣がどれだけ貴重性が高いのか全く理解して居ない。
 アドニス様が御嬢様に説明を聞いた時、「全力で助けてって呼んでみましたっ!」と"頑張りましたよ!"と何処か誇らしげに告げ、アドニス様はアドニス様で「レジェンド級呼ぶって何なんだ~っ!」と頭を抱えて居た。
 今ならあの時アドニス様が頭を抱えて居た理由が解る。
 御嬢様、なんて言うモノを召喚してしまったのですか…

「だから人間って面白い~」

「だったら早く教えて下さいよ」

「ごめーん分かってると思ってたからさ、だから封印しちゃって驚いて居たんだよ~」

「人が悪い」

「ん?ぼく精霊だよ?」

 キョトンとした顔付きでゼロはマルティンの前に舞い降り、小首を傾げてマジマジと見詰め、

「で、居るの?いらないの?」

「「いる!」」

「んじゃ、精霊の領域に送ったのかな?それとも女神のとこ?ぼく取って来ようか?」

「…頼みます」

 女神の塔の聖域に送ったと述べると、「わかった~」とゼロはニコニコしている。

 女神の塔。
 その塔はこの世界に住む者ならば1度は聞いた事がある。
 女神の塔はこの大陸の北にある国の中心にあり、魔王の塔と対になっている。元は世界に仇なす魔王を封じる役目を持った塔である。何度か女神だけでは殺す事が叶わなかった魔王を拘束し、その能力や魔力を奪い、厄災をもたらされた世界の復興用に力を還元し、封じてきた。
 邪神に女神としての力を奪われた為、浄化する力を無くした替わりとした女神にとっての苦肉の策であった。

 だが今から約三百年程前、勇者であったアドニスが敵対する魔王を片っ端から殺し、または倒して従え、その血や魔力を大量に浴びてしまい魔王化してしまった。
 ならばアドニスを塔に封じてしまえばいい。
 女神はそう思ったが、出来なかった。
 女神の弟である竜王が心を開いて接しており、またアドニスからは魔王となりながらも人として他者を思いやる気心があった。
 そして…
 一番肝心な事。
 女神は自分の心に宿った初めての感情に戸惑った。
 アドニスを見ると気恥ずかしくなり、それが会う毎に酷くなる。
 後にアドニスも女神も己の感情に自覚し、夫婦となるのだが、それはまた別の話。
 兎にも角にも、その件があってから《女神の塔のみ》の役割は、現在は聖域としている場所以外は機能して居ない。アドニスが全ての魔王を倒したから必要無くなった為でもあるが、魔王達が起こした災害が無くなり、必要としなくなったからだ。
 そんな訳で現在女神の塔で、夫婦となった"何処か職種が変"な組み合わせの女神と魔王の二人が住んでいるのだが。

「対価は?」

 もしかして端端からそれが狙いだったのでは?と睨むと、「えへ~」と誤魔化した様にゼロは笑って、

「ぼく、うさちゃんの作ったごはんが食べたいな~!駄目?」

 ぼく食いしん坊なのっ!と、エッヘンとマルティンの鼻先にまで飛び、背筋を伸ばして居る精霊にマルティンは苦笑する。
 精霊とは基本裏表が無い性格をしている。
 1度口にした事は本心である。
 その証拠として、長い時を従って来た主人の竜王がいい意味でも悪い意味でも証明している。
 彼等精霊は、余程の事が無い限り嘘が付けないのだから。

「調度良い事に御嬢様達は作りに行きましたしね。良いでしょう、伝えて置きます」

 やったーっ!と万歳をして宙返りをしたゼロはそのまま「じゃ、取ってくる!行ってきます~!」と一声し、宙に消えた。

「…何だか疲れました」

 と呟くザジにマルティンは同意をし、「1度休憩しましょう」と、御嬢様が好きな銘柄の紅茶の缶を取り出し、御茶を入れ始めるのだった。
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