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2.5章

不機嫌なウサギ15

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 ミトラさんが来てから一頻り騒動がありましたが(主に服装で)、落ち着いてからアドニス様が淡々と話して行きます。
 そうそう、リアムさんとキーラちゃんですが、学校から帰宅して来たので上の階の自室で着替えてから仕事に付くそうです。午後の御勉強終わったら二人共私付きだし、時間があったら学校のこと聞こうかな?街の事も聞きたいし、普通の人達はどういう風に過ごして居るのかどんなお話をするのか知りたい。二人の休憩の時にお話を聞けないかな?

「やっとエルフの尻尾が掴めた、と言っても少しだけど。エルフの長老は中身が別人だ。皮はエルフの長だけどな。中身はダレン・トーヤ・バジーナ、今の大統領秘書官の義理の弟だ」

 アドニス様が淡々と喋ります。が、つい私はと言うと弟と言うのに反応してしまいます。

「あやつか」

 マルティンさん知ってるのかな?歯軋りをしています。

「昔からあまりいい噂を聞かない奴だったよな」

 黒猫のベルの身体を使っているアドニス様は天井を眺め見て、

「皮は同じ言っても変装してるワケでは無い。何て言うかな、本人だけど中身が別人って言うか、洗脳されてる様な感じだな。むしろ乗っ取られて居るのかも知れない。でもな、確認したくても俺の本体はまだあまり動けなくてな、エルフの隠れ里には近付きたくても行けなかった」

 何でもエルフの隠れ里に接近するにつれて空気が淀み、黒い瘴気が発生して行けなかったとのこと。そして一族の長の依頼として動いたオリアナさんも同じく、瘴気が濃くて隠れ里に浸入するのを断念したとの事。

「ただ不思議な事に、私が調査した段階ではこの黒い瘴気はエルフの隠れ里周囲のみに抑えられておりました。ですが周囲の草木は枯れ果て、長くエルフの隠れ里には実りは無いように感じられました」

 オリアナさんは浸入出来ないならばと、周辺国家や周囲の街まで調べ挙げ、その結果私が元居た地域一帯は木々が青々と生い茂っており、まるで何かから護られて居るかの様に枯れては居ない事、また其処にある街、ファンダムには一切陰りは無いことを聞き安心しました。だって元お仲間のウサギ達のごはんが無かったら…
 其処でふと、竜王様を見ました。
 確か竜王様、グリンウッドに持続的に力を流して居るって言ってませんでした?
 あ、アドニス様やマルティンさんも竜王を見てます。

「残念ながら私ではない。昔はグリンウッド全域に魔力は注いでは居たが、今は解任されたからな、ウィングダス周囲のグリンウッドにこれ以上枯れない様に注いで居るだけだ。ファンダム周囲の件はミトラ姉上でも無いようだが違うか?」

『妾では無いのじゃ、推測なのじゃが誰かは分かっとるのじゃ。だが、ここでは言えんの…察して欲しいのじゃ』

 切なそうな顔付きを竜王様にミトラさんは向け、そのまま目尻を下げます。…こんな表情をミトラさんがするのは初めて見ました。

『恐らく無意識じゃ。周囲の精霊達が大きく活性化し、空気まで正常化させとるしの、第六番目火の精霊フローまでも来ておるのじゃ』

 精霊や自然界に属する者にとって、活性化し清涼とした空気はとても居心地が良いからの、と言い複雑な表情を浮かべております。ミトラさんがこんな顔をするなんて、察して欲しいと言われた人は一体どんな人なんでしょ?ちょっと気になります。

「姉上…」

『よい、幸せなら良いのじゃ』

 妾も今は傍に居れて幸せじゃ、と呟き口を閉ざす。
 それきりミトラさんは何も話さなくなりました。竜王様もマルティンも気にしていた様ですが、ミトラさんの背後に目立たぬ様に居た、以前来たやたら語尾が延びた口調の精霊さんが前に出て、

「んじゃ、僕からのほ~こく~!」

 と、場の空気を一気に壊して話し出した。



 ***




「その~義理の弟が、大統領秘書官を狙ってま~す~。理由は長年の嫉妬と屈折したねじ曲がった性格の結果かな~?ま、僕には理解出来ないけどね~」

「その件でオリアナの旦那のゲイリーが…」

 オリアナの夫であるゲイリーはこの街一番の鍛冶職人であり、普段は普通に鍛冶仕事をしているが、裏ではマルティン達一族用の武器や暗器に大統領護衛職達等の武器の調整、また滅多に手に入らない鉱物等の仕入れをしているとのこと。これだけ書くと別に対したことでは無いのだが、兎に角やたらと腕がいい。良いなんてモノじゃ無いくらいに。
 普通のなまくら剣が整備に出すと、ミスリル!?と疑う位の切れ味になる程には(この世界ではミスリルは高級品で武器として持つのは騎士の誉れと言う程で、滅多に手に入らない品)素晴らしくなる。
 そしてその技術に目を付け、エルフの隠れ里に来いと長年エルフ達から上から目線で請われ続けて居たのだ。
 当然ゲイリーは無視した。
 元々ゲイリーは長い間オリアナがエルフ達から虐げられて居たことを知って居たし、その件でエルフに不快感を持っていた。そんなワケで元々従う気もないし、何よりゲイリーはドワーフだ。しかも生粋の。そんなゲイリーがエルフ達の言葉等取るに足らんとスルーするのは当選と言える(この世界ではドワーフとエルフはあまり仲は良く無い。しかもグリンウッドに住むエルフの隠れ里の者と、街に住むドワーフとは険悪に近い)。
 そして今、ゲイリーはエルフの息が掛かった者達からの監視がキツク困って居るようだ。

「その件は城下町では話題になって来てるらしいんだよな」

 何時の間にか話の主導権を得たアドニスが、ソファーに座るウサギの側に座り、皆をぐるっと見て話す。余談だが、最初アドニスは"ベルの時の癖"でウサギの膝の上に座ろうとし、問答無用で竜王に弾き飛ばされた。その際とても冷たい眼差しに射ぬかれ、部屋の温度が一気に氷点下にまで下がり、一同が身震いしたが、竜王の横に居るウサギが一番寒がったので即座に気温が元に戻り、マルティンに【魔力を使わない様に】とキツク咎められたりした。
(余談だが、この件が元でマルティンは竜王の部屋にソファーを増やす決意をした。今まで書斎とかは兎も角、これだけの人数竜王の部屋に集まった事が無かった為でもある)

「勿論一般人にはこの手の話題は登らない。口に登ってるのは官僚等の政治関係者達からなんだがな」

「官僚~達の中に~エルフ側に通じてる裏切り者が~居ると言うこと~?」

 すっかりアドニスに話の主導権を取られた精霊は特に気にするでもなく、フワフワ~と空中に浮いたり沈んだりし、時折クルクル意味もなく回転をしてアクロバット宜しく無駄に回って居る。もしかしたら既に話に飽きて居るのかも知れないし、眠気覚ましなのかも知れない。精霊とは基本、自由奔放な性格をしているから。

「そ。で、其奴を炙り出して逆に情報引き出せないかな~って思ってるワケ」

 まあまだ考えてるだけだけどね、とアドニスは言い、

「話は変わるけど、竜ちゃんはグリンウッドの件で嬢ちゃんが関係してるって言ってたけど、どういうこと?」

 クリクリとした瞳でアドニスは見詰めて来る。

「先程話していたグリンウッドの活性化、主にファンダム周囲の事だが、もしかしたらレインいや、レイン達姉弟きょうだいが居たからかも知れないと思ってな」

***

珍しく後書き↓

竜王の居城である古城のモデルは特に無かったのですが、偶々見たプラハ城正面入り口脇の大司教館がとてもイメージに近いので驚きました。もう少し装飾が控えめではありますが。
また、古城には街から商人達が来れる様に三百年位前に作られた水道橋があり、その上を人が歩いて通れる様になっています。その橋でグリンウッドのモンスター達から護る様に敷き詰められておりますが、グリンウッドのモンスター対策としての防護としては強いのですが、水道橋が突破されると弱い一面もあります。
その為、マルティン達一族が暗躍したり、街の自警団といった団体もあります。

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