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2章 春の日に兎を釣るよう
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何も音のしない室内の中、ゆったりと目蓋を開ける。
「ん、あれ…」
パチパチと何度か目蓋を開けて閉じて、自分がまた寝てしまったことを自覚する。
しかもどうやらこの感じは本日二度目の…竜王の膝。
今だ竜王から受け取った白い服を着たままで、しかもつい先程告白を受け、そして膝の上で………
は、恥ずかしい!
赤くなる頬に両手をあて、うわーと心の中で羞恥に叫んでいると、
「嬢ちゃん起きたか?」
部屋の入り口の扉の前で黒猫のベル、今の中身はアドニスらしく、軽い口調の声が聞こえて来る。
「嬢ちゃんが居るから大丈夫かと思ったんだがな」
アドニスの視線の先、自分の寝床である膝を貸してくれた竜王を見ると…
「竜…王さま?」
竜王の顔は微動だにせず、その瞳には何も写らず、ただ静かに……
「嬢ちゃん来な、その状態になると暫くは誰も何も見ない」
アドニスが器用に猫の手を使い扉を開き、部屋の外へと誘う。
「そのまま居たいなら止めないけど、俺としては嬢ちゃんに確認しておきたい事があるんだよ」
「確認したいこと?」
この状態の竜王様から離れたく無いとでも言う様に、子ウサギは竜王の顔を再度伺い、そのライトブルーの瞳に何も写さない状態なのを見てーー…泣きそうに顔を歪める。
番でも無理なのか、と小さな声がアドニスから聴こえた。
「嬢ちゃんは何処まで知ってる?」
古城の長い廊下を黒猫と元子ウサギの二人は歩く。
途中アドニスがその格好では歩きにくいだろうと、子ウサギ付き専属メイドのマミュウを呼び、着替えさせた。
(その際服など着たこと無い子ウサギとマミュウが一悶着あったのだが、場の雰囲気が合わない為に割愛)
子ウサギの白いお洋服が着たいと言う希望で、大急ぎで幾つか用意したと思われる既製服の中から白いワンピースを選び、着てきた子ウサギを見て、アドニスは「…あいつ見たら喜ぶだろうな」と呟いたので、一先ず似合って居ない訳では無いと安心する。
出来たらアドニスより先に竜王に見せたかったと少し思い、何故そう思うのだろうと心の中で首を傾げる。
「何処までとはどう言うことなのですか?」
「竜王のこと」
子ウサギの先を先導する様に黒猫、アドニスは歩く。
「私は、何も知りません」
歩を止め、俯いてしまう。
事実だ。
まだ会ったばかりであるし、何より私は少し前までウサギだったのだ。
この世界の事などほんの少ししか知らない、生きるのに必死だったこの世界の最弱者なのだ。
知識等微々たるものだ。
「嬢ちゃん」
黒猫のアドニスは俯いてしまった子ウサギの足元に来ると、黒い尻尾で子ウサギの足をとんとんっと触り、
「責めている訳じゃない。嬢ちゃんの事情も知ってるしな」
そして黒猫の瞳が細い黒目から丸い、大きな目になりーー…
「もし、嬢ちゃんがあいつを好きになるなら……いや、違うな。番として受け入れる覚悟があるなら」
くるっとアドニスは子ウサギに背を向け、
「俺が知ってる事は全て知って欲しい」
「アドニス様…」
子ウサギが困惑した顔付きで見詰めて来るが、アドニスは前を向いたまま、子ウサギの方を向こうともしないで話を続ける。
受け入れない等、番では無い事は解っていたから。
番とはそう言うモノだから。
それでも言葉を紡ぐ。
アドニスにとって、竜王は大事な義理の弟なのだから。
「あいつを受け入れる気がないなら、番だから無理なのはわかるが…」
少し、意を決する可のようにアドニスは子ウサギを振り替えって見詰める。
強い眼光は懇願の色を付けーー…
「あいつから、離れて欲しい」
「ん、あれ…」
パチパチと何度か目蓋を開けて閉じて、自分がまた寝てしまったことを自覚する。
しかもどうやらこの感じは本日二度目の…竜王の膝。
今だ竜王から受け取った白い服を着たままで、しかもつい先程告白を受け、そして膝の上で………
は、恥ずかしい!
赤くなる頬に両手をあて、うわーと心の中で羞恥に叫んでいると、
「嬢ちゃん起きたか?」
部屋の入り口の扉の前で黒猫のベル、今の中身はアドニスらしく、軽い口調の声が聞こえて来る。
「嬢ちゃんが居るから大丈夫かと思ったんだがな」
アドニスの視線の先、自分の寝床である膝を貸してくれた竜王を見ると…
「竜…王さま?」
竜王の顔は微動だにせず、その瞳には何も写らず、ただ静かに……
「嬢ちゃん来な、その状態になると暫くは誰も何も見ない」
アドニスが器用に猫の手を使い扉を開き、部屋の外へと誘う。
「そのまま居たいなら止めないけど、俺としては嬢ちゃんに確認しておきたい事があるんだよ」
「確認したいこと?」
この状態の竜王様から離れたく無いとでも言う様に、子ウサギは竜王の顔を再度伺い、そのライトブルーの瞳に何も写さない状態なのを見てーー…泣きそうに顔を歪める。
番でも無理なのか、と小さな声がアドニスから聴こえた。
「嬢ちゃんは何処まで知ってる?」
古城の長い廊下を黒猫と元子ウサギの二人は歩く。
途中アドニスがその格好では歩きにくいだろうと、子ウサギ付き専属メイドのマミュウを呼び、着替えさせた。
(その際服など着たこと無い子ウサギとマミュウが一悶着あったのだが、場の雰囲気が合わない為に割愛)
子ウサギの白いお洋服が着たいと言う希望で、大急ぎで幾つか用意したと思われる既製服の中から白いワンピースを選び、着てきた子ウサギを見て、アドニスは「…あいつ見たら喜ぶだろうな」と呟いたので、一先ず似合って居ない訳では無いと安心する。
出来たらアドニスより先に竜王に見せたかったと少し思い、何故そう思うのだろうと心の中で首を傾げる。
「何処までとはどう言うことなのですか?」
「竜王のこと」
子ウサギの先を先導する様に黒猫、アドニスは歩く。
「私は、何も知りません」
歩を止め、俯いてしまう。
事実だ。
まだ会ったばかりであるし、何より私は少し前までウサギだったのだ。
この世界の事などほんの少ししか知らない、生きるのに必死だったこの世界の最弱者なのだ。
知識等微々たるものだ。
「嬢ちゃん」
黒猫のアドニスは俯いてしまった子ウサギの足元に来ると、黒い尻尾で子ウサギの足をとんとんっと触り、
「責めている訳じゃない。嬢ちゃんの事情も知ってるしな」
そして黒猫の瞳が細い黒目から丸い、大きな目になりーー…
「もし、嬢ちゃんがあいつを好きになるなら……いや、違うな。番として受け入れる覚悟があるなら」
くるっとアドニスは子ウサギに背を向け、
「俺が知ってる事は全て知って欲しい」
「アドニス様…」
子ウサギが困惑した顔付きで見詰めて来るが、アドニスは前を向いたまま、子ウサギの方を向こうともしないで話を続ける。
受け入れない等、番では無い事は解っていたから。
番とはそう言うモノだから。
それでも言葉を紡ぐ。
アドニスにとって、竜王は大事な義理の弟なのだから。
「あいつを受け入れる気がないなら、番だから無理なのはわかるが…」
少し、意を決する可のようにアドニスは子ウサギを振り替えって見詰める。
強い眼光は懇願の色を付けーー…
「あいつから、離れて欲しい」
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