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5章 海と水の向こう

私の宝物

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 こんなもんかなってキアヌさんが止めてくれなかったらドンドンカー君に追い詰められ、延々野菜のカットをやらされている羽目に為りそうになったけど、何とか止まってくれた。

「つ、疲れた」

 料理ってこんなトレーニングみたいに追い込みするっけ?と若干白目を剥きそうになりながら下を向くと、カー君が嬉しそうに「きゅいきゅいきゅい~」とご機嫌な状態。
 良かったねカー君。もしかしてココに残ったのは私を弄るのが目的だったのかい?とジト目で見ると、つぃ~と目を逸らされた。

「カー君」

「きゅ、きゅぃ~」

 逸らしたまましらないもーんって感じで居る辺り、この…

 確信犯め。

「カー君!」

「きゅきゅきゅー!」

 厨房でカー君追っ掛けたらキアヌさんに怒られました。
 御免。でもここでカー君を問い詰めないとまたやりそうでって言ったら、

「カー君はミウちゃんを弄るのは面白いからだよな?」

 って聞かないで下さいよ。
 そして返事するなカー君。
 頷くなカー君。
 否定してくれよ~!







 * * *







 夕方近くになり、あとは煮込むだけだからと厨房からやっと解放され、カー君の弄り放題からも解放され。気分的にフラフラに為りながらリビングでぐったりぐんにゃりとソファーに埋もれる。

 だらしない言うなかれ。
 ミウちゃんは只今かなりなお疲れさん状態なのだ。

 一緒にリビングに入って来たヒューカちゃんが苦笑しながらレモネードを持って来てくれたよ。ごめんよ、有難う。そしてカー君、君何時かこの報復をするからね覚えてろって言ったら「きゅ~」って目をウルウル潤ませて可愛いお顔で誤魔化して来たよ。

 このやろー!可愛いから許すけど次やったらダメだからねー!
 取り敢えずもふらせろと、問答無用でモフモフモフ。
 流石に悪いと思ったのか、カー君じっとしてくれてたよ…五分だけ。もうちょっとやらせてくれても良いじゃないか~ケチ。

「所でミウちゃん、ずっと来て無いわね国王様達」

 そうなのだ、出発時に居た国王様達二名は何故かずっと「国内で仕事」と言ってホムンクルスに戻ってから一向に現れなくなった。

「そうだね~折角可愛いリボン付けたのに」

 多分クレメンタイン女王陛下の方かなって思ったホムンクルスの方の指にピンクのリボンを結び、
 ガスパール国王の方にはイメージ的に緑のリボンを腕に巻いてみた。似合うかなって思ったんだけど、こうも来ないとなぁ。

「ねぇ、もしかしてこのリボンが原因で来れないとか?」

「いやいや、まさか~」

 でももしかして?と思ってピンクのリボンをゆっくりと緩めつつ解いてみると…

「やーーーーと!これたああああ!」

「「きゃああああ」」

 思わず驚いてヒューカちゃんと抱き着いてしまったよ!
 顎が当たってお互い痛い思いをしちゃったけどね。

「もーっずっと接続できないからこのホムンクルス壊れたのかと思ってたのよ~ああでも良かった」

 と言って席からスクッと立ったクレメンタイン女王陛下は周囲を見渡し、そして私達を見て、更にもう一体のホムンクルスを見て、

「うわ、原因はこれね」

 と慌ててガスパール国王と思われる方のホムンクルスに付けて居たリボンを解くと、

「ぬ!?おお、やっと来れたか」

 目をパチクリしてドワーフのガスパール国王に瞬時に代わって声を発した。

「もー誰よ、こんな悪戯したのは」

 呆れた様にリボンを手に持ち咎める目で此方を見たクレメンタイン女王に私は精一杯の大声で謝った。

「ごめんなさい~~!まさか可愛いと思ってつけたリボンが原因で王様達が来れないなんて知らなくて!」

 一気に土下座ー!としてみたら、

「ジャンピング土下座とは何て高等技術!」

 とか言われちゃったけど、土下座しちゃった私が言うのもアレだとは思うけど、それってアドニス様が言ってた異世界用語じゃないっけ…?









 * * *










 夕食時。
 今日の調査を終えて帰宅して来たマルティン様達御一行をリビングで迎え、どうやら相当疲れて居るのかフラフラ状態で立ったまま船を漕いでいたウサギを慌ててレノ様が抱きかかえると気が緩んだのか、あっという間にレノ様の腕の中でスヤスヤ眠ってしまった。
「部屋で寝かせて来る」とレノ様が連れて行ってしまったので一旦食事にすることになった。

「ほ、えー…」

 私ことミウちゃんの前で物凄い速度であっという間に料理が消失していっております。

 何故かと言うと、ガスーパール国王とクレメンタイン女王の両名が上品なのにも関わらず、次々と目にも止まらない、いや止まる?と一瞬悩む位の高速で食べ物が消失して行っているからです。

「ほえーじゃないわよ、もう」

 プリプリと言いながらも次々と消え失せるパンに横に居て給仕をしているヒネモスさんは次から次へとパンの補給をし、その後ろをオリアナさんがカートに入れた食材を新たに持って来て居る。
 あれきっと厨房は今戦場だなと先程まで手伝っていた場面を思い浮かべる。
 …後で食器洗うの手伝いに行こう。だってこの事態を招いたの私だもんね、御免ねキアヌさん。そうこそっと心の中で謝る。

「我々ホムンクルスのこの身体は人間と同じで食物を補給しないと動けなくなるんだよ。そして困った事に今の我らは飢餓状態でな」

 苦笑しつつガスパール国王は此方もクレメンタイン女王と同じく次々とパンを口へと運んで行く。
 レノ様がその高速の行動に背後の従者達を憐れんでか、「デザートもあるから」と口にするが、空気を読まなかったのか単に空腹でそれ所で無いのか、クレメンタイン女王が

「もういっそ全部持って来ちゃって」

 と言っちゃってる。
 あ~…マルティン様も困惑顔から苦笑へと変わっていった。うう、皆ゴメンね。知らなかったとは言え悪かったー!

「すいません」

 ペコリと皆に謝る様に頭を下げるとマルティン様は困った様な笑顔を浮かべ、

「知らなかったのですから仕方無いでしょう。ですが次からはやってはいけませんよ?」

「はい」

 あのホムンクルス、締め付ける物とかは付けては駄目なんだそうだ。何でも人が乗り移る時に締め付けられる為に安全装置が働いてしまい、乗り移る事が出来なくなるとの事。
 もし国王が乗り移る事が出来るからと悪漢に知られ、悪事の一つとして何かをされたら困る為と極端に危険な状態回避のための安全装置なのだとか。

「コッチこそ先に説明しておけば良かったわ。まさかこうなるとは思って無かったもの」

 ある程度食べられた為かやや速度を落としたクレメンタイン女王が用意されたワインに口を付ける。ふぅと吐息をついて居る辺り、この後は終わりかな?と思って居たら、

「さ、次はメインね。どんどん持って来ちゃって」

 横にいたヒューカちゃんと顔を見合わせてしまったのは仕方ないと思うんだ、うん。






「遅くなったが私が五番目の竜王だ。今はレノと名乗って居る」

 やっと両陛下が食べ終わり、デザートが出て来た辺りでゆったりと紅茶や珈琲と共に寛ぎ始めた時にレノ様が挨拶をし始めた。本来ならもっと前に挨拶をするべきなのだろうが、両陛下の飢餓状態が怖かったので(目が食い物食わせろー!という妙な迫力があった)後回しになった挨拶を三名がし始める。

「ええと、お兄さんでいいのかしら?」

「名目上はそうなる。だが特に気にしなくて良い」

 そう言って両陛下とレノ様は簡単に挨拶をしている最中、ミウちゃんは『反省』を体現しようと現在従者の皆様方が御皿やらを片付けて居る最中、率先してお部屋の床掃除中です。

 はい、反省。
 これ大事。

 マルティン様がやらなくても良いんですよ?って言ってたけど、食後の運動も兼ねて居るんですって言ったら何も言わなくなった。うん、ちょっとね。リアムさんがさっきから何度もこっちを見るからちょっとお仕事しとこうかなって。ちなみにキーラちゃんはウサギの部屋に先程向かいました。様子を見に行ったのかな。

 そうそう、ウサギが寝たらあっという間にカー君達は消えちゃいました。最後にチラッとカー君を見たら、此方にバイバーイって手を振ってたよ。可愛いね。

 …弄って来なければだけど。

 見た目は可愛いのに弄るのが大好きなサド気味な召喚獣ってあの子だけだと思う。ウサギもカー君が暴走する時必死に止めてるし。

 主が苦労する召喚獣って一体何なんだろう。
 そして親友の召喚する召喚獣に弄られる私って…





 よし、部屋の床掃除はこんなもんかなと周囲を見回し、ふとクレメンタイン女王と目が合う。

「君はメイドかな?」

「いえ、違います」

「見習い?」

「いいえ」

 パパとママはコックだし、私はその二人の子供。そしてこのメンバーの主要人物であるマルティン様の養女にして竜王のレノ様の婚約者、そして先日発覚したこの星の第十一番目の精霊のウサギの親友のポジションの微妙少女ミウちゃんだ。
 自覚してるから美少女なんて言わないよ。
 ヒューカちゃんのあの可憐な美しさとウサギの持つ愛くるしさな美少女には遠く及ばないもんね。

「ならここのお掃除しちゃだめよ」

「えー」

「えーじゃないの、メイドさん達のお仕事を取っちゃ駄目よ?」

「あ」

 そうだ。掃除には担当さんがいて、そうしてお給料を貰って居るんだった。

「ふふ、ココの掃除は私の担当でしたから別に構いませんが、私の趣味の一環ですから次からはご遠慮致しますね?」

 って、ま、マルティン様がココ掃除してたんですかーっ!
 そういやウサギの義理父の前に執事さんでした!普段そんな気が余りしてなかったけど!
 態度が尊大だからってこれはお口チャックー!

「マルティンお前な」

 ってレノ様が呆れた顔してたけど、あれは多分ウサギが居心地良い様に魔改造してるからだと思う。だってこの馬車そのものがウサギへの父性愛だもんね!

「この部屋とて日々チェックする必要があるのです。何せまだ試作品でして、彼方此方調べないといけませんからね。先日も不具合が見つかりましたし。それに販売するには何事も安全チェックは必要なのですよ」

 レノ様に語るマルティン様。いや~一瞬どっちが主人?とか思ってしまったよ。レノ様目が驚きでまんまるですし。

「まるでどっちが主人かわからんな」

「そうね、『兄』である竜王様が呑まれてますわ」

 ガスパール国王様とクレメンタイン女王様も苦笑している。
 私もそう思いますよ。










 リビングでレノ様にマルティン様と国王様に女王様の四名でこの先について会議?があるとかで、場を辞して来たんですけど正直何処へいったら~って思ってたら思い出した。

 厨房!
 ヤバイ皿洗い手伝わないと!
 あそこなら人手が足りないから手伝いなら大丈夫な筈!
 ダッシュで向かうぞー!って思って廊下に出たらリアムさんに捕まった。
 あ、そうだ。さっきチラチラ見られてたんだったっけ。
 うう、何か用事があるのかな?今朝の事を思い出すと恥ずかしいよぅ~。

「ミウちゃん、えーとあの、これ」

 目の前に出された一輪の花。

「可愛い…」

 ちっちゃくて可愛い。
 桃色の花びらが愛らしいけど、ちょっとその辺で咲いてても一瞬存在が分かりにくい花だ。
 なんて名前なのか分からないけど、でもこれどうしたんだろう?
 そう思ってリアムさんを見ると頬を薄っすらと赤くして、

「探索中に見つけたんだ。お嬢様にちゃんと許可を取ったら持って行って良いって言うから。えーとその、可愛らしいなって思ったらミウちゃんの姿と重なって。良かったら貰ってくれる?」

 そう言って手渡された花。
 初めて貰ったプレゼント。

 ど、どうしよう。嬉しすぎる。

 大事にする!って言ってそのまま脱兎の如く逃走してウサギの部屋へ来ちゃった。
 スヤスヤ眠るウサギのベットの下に居たシロワンさんとタマちゃんは私が来た事に驚いたみたいだけど、手に持った花に花瓶に活ける?それとも押し花にする?って聞いて来た。

「え、どうしよう。押し花の作り方知らないんだけど知ってる?」

 と聞いたら、「んじゃやったげるー」とタマちゃんの御厚意に甘える事にした。

「すんすん♪」

 とタマちゃんが歌詞が謎の歌を唄って行くとあっという間に押し花の完成って、魔法でやったのかー!ほぉぉ凄い。乾燥させるだけだからね~って言ってたけど、それって凄いんじゃない?色落ちもしてないし、まるで生花みたいだよ。

「後は紙にくっつけるといいよ~。何なら加工の魔法も使うね」

 と、テキパキと制作してくれた。
 …押し花って一日で作れる物じゃない筈なのに、それこそあっという間に。

 沢山お礼を言ってから大事に折れない様に本に挟み、持って来た鞄に大切にしまった。

 この押し花はこの旅の私の宝物になっちゃった。
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