商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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118 ゲン担ぎ

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「この分なら近いうちに店を再開出来そうだな」


 独り呟いて、ニヤリと笑い頷く。
 うんうんうんと三度も「うん」を繰り返すけど、少し前にケチが付いたから「幸運」が欲しくて三度繰り返してみた。だからと言って何かがあるわけでは無いのだけど、三度目の正直とも言うし、三度程「うん」を言ってゲン担ぎ。
 店を経営するにあたってゲン担ぎは大事。
 気分の問題です。

 後程、憲真が住んでいるマンション傍にある神社にお参りに行って来た方が良いよな。何なら御守りや破魔矢等を購入して来た方が良いかも。うちの店、師匠に言われて神社の御札ぐらいしか無い。
 商売関係だからもうちょっとやった方が良いかな?
 その辺りも誰かに相談した方が…嵯峨さん、憲真に相談した方が良いかも。次点で不破さんや末明さん。喫茶店を経営しているし、結構詳しいかも知れないしね。
 此処からだと商店街の裏にある稲荷神社か、それとも憲真のマンション傍の神社か。どちらが良いだろう。いっそ奮発して両方にしてみるという手もあるな。


「おや、明日にでも直ぐに店を開けるかと思ったのに」

「仕入れの問題があるから。暫くの間、朝食は出せないけどお茶屋としてなら掃除をしたら即開店出来るな」


 と、店の前ではなく自宅がある玄関前に居る俺に声が掛かる。
 鞄からゴソゴソと自宅の鍵を出している最中に声が掛かったので声の主を確認していないが、この声は不破さん、だな。


「嵯峨さんは一緒では無いの?」


 店長ちゃん一人だなんて不用心!と言う声は末明さんかな。


「ちょっと御遣いを頼んでしまっていて、もう少ししたら来ると思います」


 と言うかですね、俺成人男性なのですけど。
 幾らΩと言え、独りで自宅に帰宅するぐらいは出来ますよ。尤も末明さんみたいに体術やら格闘技やら出来るタイプでは無いから筋肉は無いけど、βの女性よりは強いんですよ?見た目細いだけで。
 何ならΩの女子よりは力は強いのですよ。
 βの男性は良く知らないから無理な気はするけど、店に来る筋肉粒々なβの人達だと無理。何せ職業が建築現場や土方勤務やら大工作業等で身体が資本な人々だから、Ωの俺だとどう足掻いても勝てっこない。
 そんな人々に勝てるのはαか、もしくは目の前に居る規格外な美青年である末明さん(格闘チート)しか居ないだろう。


「末明さん」

「ん?」


 何々?とキョトンとしているその顔、滅茶無茶美麗。
 そんな顔を眺めているイケメン中年男性不破さんまでセット状態で俺の目の前が『美』で埋め尽くされている。今この状態で憲真が帰って来たらイケメン&美青年の大洪水が起こるよ。
 更に落合君と京夏君まで来たら、待ち行く人々迄美の洪水に翻弄されるんじゃないだろうか。現に今も周囲から「イケメン!」とか「綺麗」とか言う声が聞こえて来る。時折「可愛い」とか言う声が俺に向けて来るが、きっと気のせい。
 俺はΩのわりに綺麗じゃないし、そろそろおっさんに片足突っ込む年齢だしな。


「今着いたばかりで埃っぽいと思いますけどお茶でもどうです?」


 勿論嵯峨さんもと言えば目の前のご夫妻はニッコリと微笑み。


「「ご馳走になります」」



 *



 掃除をしていないので店を開けるわけにはいかないので、自宅側の小さな台所に不破さん夫妻を招く。一階部分はこの部屋以外は玄関とトイレ、後は店舗部分しかないので台所は人を招くにはちょっと狭い。二階部分は寝泊まりしている部屋と以前紳士服の仕立て屋で使用していた倉庫と作業部屋を茶屋の倉庫として使用しているため、狭いが一階の台所以外は人を招くことは出来ない。
 掃除をしているのならまぁ、二階の寝泊まりをしている部屋に通すことは出来るけど、あの部屋はシャッター…Ωのヒートを起こした時に使用する部屋として改良しているため、幾ら番である末明さんが共にいるとしてもαの不破さんを招いたりするのは抵抗がある。
 憲真が入るのは良いけどね。

 俺の番だし。
 無意識に項に片手が伸びて触れる。

 嬉しい。
 今まで【運命の番】相手にさえ振り向いて貰えなかった自分が、憲真によって報われた気がする。
 鬱々としていた気分が晴れ、今はちょっと視界がクリーンになって落ち着かない。ハイになった状態とでも言えば良いだろうか。

 それは兎も角。


「換気だぁ~!!」


 家の鍵を開け、台所の窓を開け、台所にある水道の蛇口を開いて水を一気に流す。
 一週間程留守にしていた自宅兼店舗がある家は、空気が淀んでいた。


「御免!30分程掃除させて!」

「OK、待っているよ~」


 狭い玄関に座り込んでいる不破さん夫妻、細身の末明さんは兎も角不破さんにはキツイのでは無いだろうか?と思ってちらっと見ると、末明さんをちゃっかりと膝の上に乗せて玄関に座っていた。
 うん、安定のイチャコラですね。
 と言うかね、不破さんや。


「今日お店は?」


 この時間帯は喫茶店、開いている筈では無かった?
 そりゃ先日仕入れでお休みしていたのは知っているけど、普段は喫茶店ロインを開いていたよね?


「パートさんとバイトが店番している。俺達二人は一時間程休憩だね」


 因みにご夫妻の双子ちゃん達はお昼寝の真っ最中だそうで、ベビーシッターさんが付いているそうだ。何と言うか、至れり尽くせりな万全な体制だなぁ。それだけ儲かっているのかね、喫茶店経営。
 羨ましい。
 とか何とか思いつつ階段の窓を開け、掃除機を取り出して簡単にかけておく。
 意外と埃っぽいような気がする。これは店舗の方も空気の入れ替えをしないといけないな。今は台所の換気扇をかけておくか。

 台所の作業場と普段使っている椅子とテーブル、購入した時ダイニングテーブル三点セット。テーブルと椅子2脚。
 椅子が足りなかった為、一脚折り畳み用の椅子を用意。次いでテーブルの上を布巾で拭いて、と。
 こんなもんで良いだろう。
 一声玄関に掛けたら「お邪魔します」と言う声が二つ、更にもう一つの声、いや聞き覚えのある声が二つ?


「やっほ~店長ちゃん!」

「偶然通り掛かったら小林店長の自宅の玄関ドアが開いていたので挨拶をと思いまして」


 元気のある声は一戸京夏君で、大人びた落ち着いた声は落合行弘君の声。
 それに、


「眞宮買って来ました、えーとただい、あれ皆さん?」


 キョトンとした憲真の声が聞こえて来た。


 ***

 更新が遅れてすいません<(_ _)>
 遅れたお詫びに今回、二回分の文章を更新しました。
 (一回分の文章が楽しくなかったので、二回更新分追加しました(;´Д`))
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◇◆◇◆◇ 更新中のお話 ◇◆◇◆◇
新作 BL ※ 商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/789277952/192520360

BL ※ ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか
https://www.alphapolis.co.jp/novel/789277952/488408600

NL ※ 今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】
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宜しかったら見て頂けると嬉しいです(*´ω`*)

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