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82 罪悪感
しおりを挟む「うわ、御免!」
不破さんに言われてから我に返ったのか、末明さんが大慌てで双子の元へと去って行った。
次いでシャッというカーテンが閉まった音。
店の奥の部屋に入っていったのかな。ご飯ってことは母乳を与えるってことなのかも知れない。末明さんって子供を産んでも美少年のままだからこっそり覗こうとする人が何人も居て、店のドアを閉めただけだと不安らしく、「鍵を付けて、更にカーテンも付けた!」と以前不破さんが話していた。
番を大事にするαならではだけど、スペースが狭いから子供たちが大きくなったら元に戻すとかなんとか言っていたなぁ。将来的には店の商品の保管庫にするとも。
儲かっている様で何よりです。
叱られていたお客さん達は「はぁ~…」と吐息を付き、椅子の上で正座をしていた足を崩し…あ、「痺れたっ!」と椅子にへばりついたりテーブルに突っ伏したりとへたり込んだ。
死者累々状態だ。
「末明ちゃんって結構…」
「足も腰もイタタタ…」
「でもそこがイイ」
「変態か」
不破さんが笑いながらツッコミを入れ、叱られていたお客さん達をその場に立たせて席へと誘導する。その姿を見ながら店の常連客らしいマダム達が、「紳士ねぇ」「不破さん、相変わらず素敵」とホォ…と吐息を吐きながら見惚れて居る。
うん、まぁ、気持ちはわかる。
不破さんってばαだし、何より男らしくて格好良い。
けどそれってその場に叱られて居たお客さん達が居ると邪魔だから移動させただけ。
以前ならマダム達みたいに俺も見惚れて居ただろうに、今だと結構冷静に見ちゃうものだな~と思う。心次第ってことかな?そりゃ不破さんは格好良いけど、アイドルみたいなものかなって今なら思うし。
しかもご当地アイドル。地域密着型。
そもそも末明さんの旦那さんだからね、昔みたいにウットリとかはもうしないかな。
とか何とか思いつつ、席が空いたテーブルを整えて綺麗にテーブルの上を掃除し、店の手伝いをしていると、
「…」
ジトっとした目と言うか、物言いたげな視線を背後から感じる。
うーん…この目線の主は俺の気の所為でなければ察することは出来るけど、
「店長ちゃ~ん」
その視線とは違った方向から聞こえて来る一戸京夏君の声。
「駄目だよ~人の旦那さんに惚れたら」
「ありえません」
キッパリと速攻で否定。
うむうむ、ちょっと視線の圧が和らいだかな。
チラリと厨房を見ると、ガッチリと嵯峨さんと視線が合いました。
はい、やっぱり~。
にっこりと微笑んだら戸惑ったのか照れたのか、ふいっと視線がそれた。そう来るか。
よし、今度は俺の番だ。
一戸京夏君達が居る席にスススススと寄ってメニューを渡し、態とらしくにーこりと微笑む。途端ビキッと固まる京夏君、それと向かいの席に同席している可愛らしいΩの男子。すまん。
因みに京夏君の横に座っている落合君は『困った人だよね』と言いたげな視線を寄越されたがそれだけ、どうやらスルーしてくれる気らしい。対して京夏君の真向かいに居るΩ男子君は硬直中。その男子Ωの子の横に居る美麗なα男子は澄ました顔で…お、Ω男子の子の手を握っておりました。
あー成程、この二人カップルか。
「さっき頼んだけど」
圧に耐えきれなかったのか、京夏君が言葉を零す。
「アイスコーヒーだけね?」
ふんふん、嵯峨さんからの圧が来ているな~。
Ω男子の子の横にいる綺麗なα男子君、有名人っぽいんだよね。何処かで見たような気がする、モデルさんかな?
という訳でその人の側に…は、行かない。何せΩ男子の子が硬直から解かれてから、此方をチラチラと何度も見て来る訳で。あー…御免。大人気なかった。嵯峨さんの嫉妬心出てくれないかなって思って此方に来たのだけど、よくよく考えれば迷惑だったよね。
ダブルデート中だったろうし、大人気なさ過ぎてすまん。
「あ~…まぁ、奢るよ。どうやら後輩のようだしね。モーニングで良い?」
罪滅ぼしに奢らせて下さい。
露骨にラッキーと喜ぶ京夏君には罪悪感が無いが、「え、良いの?」とキョトンとした顔をしたΩ男子、すまんかった。そして落合君、「巻き込まないで下さいね」と釘指して来るあたり、流石です。
有名人っぽい綺麗系α男子の子には申し訳無さそうにお礼言われてしまったけど、俺が悪いので。
あああ、罪悪感。
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