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63 喉の奥から年季の入った親父みたいな声が口から出る

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「先程の女性は、貴方が貸しているアパートに新しく入居した住人ですか」

「…はい」


 嵯峨さんに事情を聞いている警察官…ええと、店の中で事情聴取をしていると他の人の目が気になるし、店の前を何名も覗き込んで居る野次馬が出て来たので自宅へと入って貰った。
 とは言え店と一枚扉が隔てただけの場所である台所なので椅子を二脚出して座って貰い、お茶と先程末明さんにも出したよもぎ団子を一つ。
 警官は仕事中、こういった事をされるのは(賄賂になる、だったっけ?)駄目らしいけど、嵯峨さんは違うからね。話し込んでいたら喉が乾くし。
 残しても良いからお付き合い程度にと言って問答無用で出す。

 事情を聞いている警官と嵯峨さんを背に、俺は扉向こう―…店内へと戻る。店は開けたままでいるし、何かあった時に店員の俺が居ないと困る。
 用心の為に自宅へと続く扉は完全に閉じないように扉を開けておいたので会話は微かにしか聞こえて来ないが、αを一人暮らしのΩの自宅に入れるのは世間体とか諸々の関係で余り良くはない。
 嵯峨さんは大家さんだから兎も角、まぁ…ゴニョゴニョ。
 好きな人だし?格好いいし?
 他にもあるけれど、嵯峨さんは俺にとって特別な人だからってことで。
 それを言ったらお仕事で来てくれて居る警察官もだが。

 因みに警官はαの男性。
 一時的に場所を貸しただけだし、何より相手はお仕事だ、お仕事。

 …台所の流しにある店で使った味噌汁の出汁の生ゴミが気になったが、其処の所は勘弁して欲しい。後は、何かあったかな。洗濯物は二階で干しているから、二階に上がらなければ大丈夫。…上がらないよね?
 いやいや、何馬鹿なことを考えているのやら。

 そんな馬鹿な事を考えている間に倒れて居た女性は警官が手配した車に載せられて連行された。勿論もう一人の警官も一緒に。
 その際に俺も事情を聞かれたけれど、知らない人だったので一連の状況を見たままで答えることしか出来ず。それは一緒に居た末明さんも同じで、


「その女性、どんどん興奮していって片目が変な方向に向いていって、包丁を持った方の手が小刻みに震えていた」


 とだけ、気が付かなかった事を追加で報告していた。



 ※



「もし何かありましたらご連絡下さい」


 と警察官達が立ち去った後。
 肩の力が一気に抜けたらしく、どっと疲れが降りて来て立っていられなくなり店のカウンター席に座り込む。


「あ~…」


 思わず喉の奥から年季の入った親父みたいな声が口から出る。
 何か疲れた。
 末明さんが居てくれたから大丈夫だったけれど、もし自分一人なら一体どうなって居たのだろう。
 体が震えて対応出来なかっただろうし、下手をすると怪我をしていた可能性もある。体術なんて習ったことも無いし、怪我どころか何処か刺されて…。
 そう考えると肩の力や身体の力が抜け、カウンターの机に突っ伏してしまう。

 怖かったのだろうか。
 あの時はそんな事も考えることが出来ず、やる気になっていた末明さんに任せてしまった。

 同じΩなのに彼は強い。
 俺が見えていなかった事柄、包丁を持った手が震えて事まで見えていた。俺より年下なのに凄い。年上の筈の俺、形無しだ。
 これからもこの店をやっていく為には多少は鍛えた方が良いのだろうか。
 せめて防犯用に対策程度は考えた方が良いかも。
 よし、後日防犯カメラ位は設置しておこう、ダミーの防犯カメラもあった方が良いかな。後は何が必要なのだろうか。

 防犯カラーボール?
 …逃げる犯人に投げつけ…あーそれ以前の問題のような。

 防犯スプレー。
 これ良いかも。カラーボールよりこっちの方が良い気がする。
 防犯ベルとかも良いかも知れないな、咄嗟に大声なんて出せないだろうし。
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