商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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46 番外編 二年生の一戸京夏と三年生の落合行弘

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 side.落合行弘


「むむっ!まーたー同じの出た~!」


 鯛と鮃(ひらめ)が出ればコンプリートなのに~!と、ガチャの前で小銭を握りしめて呟いている京夏をのんびりと見詰める。


「コンプリートと言っても家に帰れば同じのがあるだろう」

「いーえ、来年からひろの部屋に飾る物が無いじゃん!」


 来年俺、落合行弘は学園を卒業して隣接している大学へと進学する。その際学園で京夏と同棲している寮を出て、大学の寮へと移動しなければならない。
 今年はまだ空きがあったから良いが、来年また今二人で住んでいる寮への移動希望者が増えるかも知れないし、増えないかも知れない。そんな学園側の思惑があるので無下にするのは出来ない。
 所詮珍しいα男性同士のカップルの扱い等そんなものだろう。

 とは言え大学に入学するのだから、大学側の寮に移動するのが筋なのだが。


「おっしゃー!ひろ!鮃出た~!」


 嬉々として此方に鮃が入った袋を手にしたまた、見せるように掲げて来る。
 こうやって子供っぽい部分を何時まで見せてくれるのだろうか、等とついつい考え込んでしまう。俺達αは基本的に他のβやΩよりも身体構造も頭脳も高い水準だ。
 だからと言って皆αはコピーしたように同じと言う訳では無い。十人十色と言うが、個人差が当然ある。頑固者や堅物なのが多いが。

 特に京夏は『一戸』の家の血筋だ。
 この一戸の血のΩは特に優秀なαや優秀なαを産むΩが産まれやすい血筋として知られて居る。そのため、京夏は幼い時から双子の妹である杏花音を守っていた。
 第二次性徴期が来ないと一般的にはバース性(αやβにΩ等のこと)が判明しないのだが、京夏達の一戸家の本家が、力が弱いと思われる杏花音を事あるごとに良いように使おうと口出しを出し、その度にご両親と京夏が守って来た。

 幼少期気弱な性格であった京夏は女の子である杏花音を執拗に狙う本家から守るため、大人のαの仕草や親戚の信頼している一戸陽平さんの言葉等を飲み込み、状況に応じて対応する姿等を学び取り対応することを覚えたと京夏の妹の杏花音から聞いた。
 その際気弱な性格から苛烈なαらしい性格へと変貌したらしいが…


「鯛もやっと出た!」


 やったぁ!と嬉々として子供らしい笑みを浮かべて此方を見る京夏。

 学園に通う迄は何時も眉間に皺を寄せ、睨みを効かせて居たらしいが現在はそんな様子は全く無く、屈託ない笑顔を浮かべている。
 おまけに苛烈な性格だった面影は無く、今では先生や同級生達から悪戯好きな自由奔放なお茶目な子として馴染んでいる。


「良かったな」

「うん!」


 へへと笑い、「これで来年部屋が別々になってもひろの部屋と同じ物を置いているから少しは寂しくないかな?」と、寂しそうに呟く。


「あーあ、ひろと離れたくないなぁ」


 同棲解消等と言う言葉は使いたくないと先日ポツリと呟いて居たことを思い出す。


「俺も京夏と離れたくない」


 何時でも何処でも共に、これからも死ぬまで、いいや死んでも一緒が良い。
 そう出来たら良いのだが…。


「うーん…ねぇ」

「うん?」

「バイトしようかな」

「何故?」

「同棲続けたいから。今からバイトしてお金貯めたら来年から一緒に住めないかなって。住むとしても安いアパートとかになっちゃうだろうけど」

「金か…」

「そ。現実問題として~色々必要でしょ?」


 今居る寮の家具や電化製品等、生活に必要な物は学園側に寄付される莫大な資金で賄われている。その多くが学園を卒業したα達の寄付なのだが、時折企業等の試験的な意味もあって提供されるため、ほぼ学園側に私達在校生は金額を払っていない。
 唯一支払うのは娯楽系や学園以外で購入する時位だ。

 そのため私達が通う学園や大学の寮から出て暮らすとなると、生活資金もそうだが家具や布団等購入しなければならなくなる。食費は学園側や大学側にあるカフェや食堂で私達学生は無料で提供されて居るので大丈夫だが、二人分のガス・水道・電気代となると一体幾ら必要になるのか分からない。
 実家に頼ることも出来なくはないが、学生のうちは勉学に身を入れたい。


「そうだな」

「俺、ひろと離れたくないよ」

「ああ、俺も。だが京夏は特別進学クラスだろう。寮を離れることは出来ないし、バイトをしたら成績落ちないか?」

「うぐ…だよねぇ。やっぱ駄目かな…」


 しょんぼりと肩を落とし、気落ちした京夏の肩を引き寄せて抱き締める。一般通路だろうが他の道行く女子が此方を見て「きゃあ」と黄色い声を出そうが何だろうが無視だ。

 …中年男性が「うお!」と濁声の悲鳴?を上げたがそれも無視の方向で。
 と言うかガン見するなよ、大事な京夏成分が減る。だから此方を見るなと威嚇を込めて睨み付けると慌ててその男性は逃げていった。

 因みに女性達は放置。
 先程の男性の様な欲が籠もった眼差しを向けて来るワケでは無く、単純にキャーキャーしているだけなので。…もしこれが、欲が籠もった眼差しで京夏を見るなら容赦はしない。


「先日も言ったが、京夏が大学へ進学するまで週末や長期休みの時に互いの部屋に行き来をしよう」

「う~~やっぱそれしか無いか」

「なに、京夏と出会った当初の状態に戻るだけだ」

「それはそうだけど~」

「それに楽しいでは無いか」

「え」


 キョトンとした顔で此方を見る京夏。
 その顔に可愛いと思いながら自身の口角が上がり、


「普段会えない時、大学の寮で一人京夏がどうしているか考える時間が出来る。それは案外良いものだと思うぞ」


「ぴゃ」と京夏の口から妙な声が漏れ、次いで一気に京夏の顔が真っ赤になる。おまけに耳まで赤くなり、「あああああ、ひろが恥ずかしいこという~!」と俺の胸元に顔を擦り付けてくる。これは恥ずかしくて顔を見られたく無いから隠しているな?


「今のうちに本音を沢山言っておこうと思ったのでな」

「ええ~何故?」

「京夏が大事だと言うことを沢山言っておかないと、たった一年とは言え離れている間に他人に京夏を取られないように必死になっている」


 途端に「ひえぇええええ!」と素っ頓狂な声を上げ、両手で顔を隠してしまった京夏。
 ああ、可愛い。
 本当に京夏はαなのだろうか。
 妹の杏花音はΩだと言うが、Ωの割には結構キツイ性格だと言う。もしかして何時の間にか京夏のバース性と交換していないか?

 …無理なのはわかっているが、ついそんな馬鹿なことを考えてしまう。

 俺の胸元にグリグリと頭を擦り付けている京夏を抱き込み、その首元に鼻を付けて匂いを嗅ぐ。
 α特有の強かなフェロモン。
 だが京夏のフェロモンは強かさと共に強く惹かれる。普通他のαならば側に寄るのも嫌悪するフェロモンの者も居るが、京夏のフェロモンは嗅いでいて落ち着くし癒やされる。


「う~何嗅いでいるの」

「いや、何時嗅いでいても惹きつけられるなと思ってな」

「はぅぅぅ…」


 恥ずかしい~!と今度は抱きついたまま微動だにしない。


「そうだな…京夏」

「うん?」

「京夏が学園を卒業して大学に来たら、今度は大学の寮で同棲しようか」

「うん!」

「それでだな、機会が出来たら婚姻届だけでも出そうか」

「!」


 バッと真っ赤な顔を上げて京夏が此方を見詰めて来る。
 その目尻には薄っすらと涙が乗っており、涙目になっている。


「ひろと、け、結婚…」

「まぁ仕事とか諸々ちゃんと計画がある程度出来てからの方が良いだろうが、これからゆっくりと京夏との事を考えていきたい」

「うん、うん!」


 ぎゅぅっと抱き付いて来た京夏を抱き止め、落ち着いて来た頃合いを見計らってゆっくりと歩き出す。
 先程騒いでいた女子達から悲鳴が聞こえて来たが、「おめでとう!」「あああ、尊すぎて拝み~!」「てぇてぇ」と好感?がある声ばかりが上がっているのでスルーする。
 って、京夏がその女子達に手を振って「有り難う~!」と。
 途端物凄い悲鳴?阿鼻叫喚な声が上がってさっさと京夏の腰に手を回して抱き込み、その場を後にする。


「うーんサービスしすぎた」


「てへペロ!」と言いながら舌を出す京夏を苦笑しながら見詰める。
 残念ながら手にはゲーセンとガチャガチャの景品が入った大きな袋がある為、あの場から逃げ出す時に京夏を抱き上げて(所謂お姫様抱っこ)しまいたかったのだが出来なかった為に諦めた。
 なんてことを京夏に告げると、


「それこそサービスし過ぎ~!」


 二パッと屈託の無い笑みを浮かべ、


「ひろ、大好き」


 と、小さく呟いた。


 ※ ※ ※


 地震大丈夫でしたでしょうか?^^;
 
 本来ならこの二人の事柄は「ある日~」の方で書いた方が良いのかも?とは思いましたが、このお話は彼等二人が「ある日~」のお話から一年後を舞台としているので此方に書かせて頂きました。んがっ、予想外文字数。少々難産気味になってしまってしまいました。

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