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44 嵯峨憲真と言うαな男と多種多様なαの男達
しおりを挟むside.嵯峨憲真
さて、こんな騒ぎを普通していれば普通の店なら周囲に注目されるだろうし、外でやっていても同じ。そんな訳で現在俺達はヒムカが先程から『先輩』と言っている、俺達と同じくα男性がお詫びとして連れて来た中華料理店。
その中華店の個室へと通された。
案の定、一戸君はこの店のメニューに意識が傾いているらしく、視線が先程からそちらへとチラチラしているし、
「うう、我慢、我慢。駄目だ、駄目だ」
と何とか頑張って意識を反らそうとし、思ったままを口にして居る一戸君。
そんな状態の一戸君を見て愛でている落合君。
何だか学生二人組がカオスだ。
腹が減り過ぎて居るのかも知れない(主に一戸君が)。
ヒムカから先輩と言われている男性も先程から学生組とヒムカへと、視線が行ったり来たりしている。恐らく一戸君と落合君のマイペースな状態に、若い学生二人は放置の方向で良いのかどうか悩んでいるのでは無いだろうか。
…ま、良いか。
色々言いたいが彼等よりも今は小林さんが大事だし、ヒムカも今回の件で追い掛けて来る様なことが無くなると有り難い。
出来たら小林さんへのアピールも程々にして欲しいのだが。
否、するな。
言えたら良いのだが、言ったら不味いか。
…言いたいけれど。
「なぁ。ヒムカさん俺と同じ同郷なのだけど、αってΩと違って説明は無いのか?」
おっと、小林さんが「俺の故郷って確かに限界集落みたいなものだから専門のバース性の病院とか無かったし、抑制剤とか申請しないと中々受け取れない。おまけに数日しないと薬が届かないから不自由だったけど…」と言いづらそうにして居る。
「ああ、田舎だしαだから薬とかいらないだろうって言われてそれっきりだった。ってΩは説明とかあったのか?」
ヒムカの話した言葉に小林さんが目を大きく見開いて停止した。
※
細かいことは端折るが、何でもヒムカの説明と小林さんの説明ではどうやらαとΩの性質上、αは説明だけで済ませ、Ωである小林さんは田舎よりももう少し町の方にある『バース性の学校』へと入学した方が良いと役所から説明があった。
「何せ俺等Ωはヒートがあるからな」
個人差があるとは言え三ヶ月毎のヒート期間中、αを誘うフェロモンを出してしまうΩ。それに小林さんが居た田舎ではヒムカ以外のαは居ないので、それならば高校から『バース性の学校』へと入った方が良いと勧められた、と。
(おまけに国が勧めている学園だと、学費とかが無料になると資料やら何やらと目を通すように言われたらしい。小林さんを学園へと勧めた役所の職員有り難う!お陰で小林さんと出会えた)
「え、エミリは学園には…」
エミリとはヒムカの元嫁の名前だと。
「えっと、俺の幼馴染から聞いたのですが、ヒムカさんの元奥さん、幼馴染に「田舎で「唯一のΩ」で、「唯一のα」を逃したくない」と、話していたと」
「……うわ、プライドが高いアイツらしいっちゃ、らしいな」
「と言う事は、もしかして…」と、ヒムカが何か呟いて居るが俺達には関係ない事だ、多分。
「何時だったか、勝手に俺宛の郵便物を覗いて破棄していた時があったが、もしかして…」
いやそれ何。
ヒムカのストーカー疑惑の件と言い、元嫁の郵便物云々。
諸々問題ある元夫婦だったのではないか?
と言うか余計な情報はこれ以上良いから、本来のことを話さないと有耶無耶になりそうなのだが。
「ヒムカ、今その件は関係無い。誤解を解くのが先」
「あ、はい、そうでした!」
そうして再度謝罪と今回の諸々の説明。
「付き纏い」に見える行為をしてしまった訳では無く、今回偶々一緒に居る先輩と帰宅途中この周囲に来ていて、と?
「僕、警備会社に勤めていまして、それでー…」
とある建物の警備の仕事が終了し、帰宅途中でトイレに行きたくなり近場のゲーセンへ入って用を足したら小林さんのフェロモンを感じ、あれ?と思って周囲を見回していたら小林さんがトイレから出て来てバッティングしたと。
「ま、紛らわし~」
「だな」
学生組である一戸君と落合君が呆れた眼差し。
「それで日頃から避けられているからいい機会だし、理由を聞いてみようと思って居たらその、怖がらせてしまったよう…って、痛え!」
其処でヒムカの先輩にバシンと後頭部を叩かれた。
「お前なぁ、日頃からもーちっと人様にはやんわりと接しないと、うだてねーぞ」
「うだて?」
キョトンとした顔付きで聞き出す一戸君。
「大変とかの意味の津軽弁だな~、この場合は良くないって意味だね」と、速攻で返事をする小林さん。
「えーと先輩さん?もしかして同郷?」
「そ、東北出身だな。そう言えば名乗ってなかったか、すまん」
と名刺を渡された。
「小比類巻駿さんか、三沢?」
「親父が三沢出身だな。そう言えば小比類巻って三沢が多いのだっけ。俺が生まれ育ったのは弘前。って、小林さんはもしかして青森け?」
「今の実家は青森だけど、幼少時は母親の地元の十和田に居たんだ。妻神(さいかみ)って苗字でわかる?」
「おお~十和田で多いって苗字だったっけ?」
そうして始まる方言万歳。
話しているのは日本語だろうか?
何言っているかわからないが、ヒムカの先輩である小比類巻さんと故郷(多分?)の話に花が咲き、やけに小林さんが楽しそうだ。
ふと、ヒムカが小林さんを眺めて少しだけ嬉しそうにしていることに気が付いた。
そう言えば何時も小林茶坊の店内で朝食を取っている時、ヒムカのナンパ?を警戒して小林さんは顰めっ面か困った顔をして居た気がする。
そのヒムカが俺の方を見て、それから下を向いて、それから再度俺を見て何故か頷いた。
何故だ?
ヒムカが向いた方に視線を向けると、小林さんが俺の上着の裾を確りと握っていた。
※
ヒムカと主人公の暮らしていた村では、小中学校合同の学校しか無く、またバース性の病院は町まで行かないと無かった為、役所の人達は薬等で苦労するであろうΩである主人公の為、田舎から出るのを勧めたのでした。
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