商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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42 嵯峨憲真と言うαな男

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 今回は珍しく嵯峨さん主体。

 ※ ※ ※


 side.嵯峨憲真


「小林さん!」


 背後から「ええ?店長ちゃん涙目!大丈夫!?」と言う一戸京夏君の声に驚き、走って此方に向かって来ている小林さんの顔をよく見ると、確かに泣きそうになっている!

 何故こんな目に!?

 俺の背後に向かって行きそうになる小林さんを抱き止め、「大丈夫ですか?」と囁き落ち着かせるように軽く抱き締める。
「ヒェ」なんて普段聞いたことも無い短い悲鳴に一瞬理性が飛び、小林さんをこんな目にあわせた奴を殴り付けたくなったと同時に、俺に抱き止められて頬を薄っすらと染めた小林さんが可愛いと思ったが、現状それを許さない。


「なんで」


 小林さんが逃げた相手だと思われるヒムカが、αである俺でもわかる程フェロモンを出している。
 コイツ小林さんをまたヒートにさせるつもりか!


「それ抑えて」


 本当は怒りで怒鳴り付けたいのを気力で抑える。
 腕の中にいる小林さんの心をこれ以上戸惑わせたくは無い。


「え」


 呆けた顔付きで此方を見るヒムカ。
 どういう事だ。


「もしかして自覚していないのか?」


 落合君がやれやれと言った風に吐息を吐き、懐から何かをヒムカに向かって「使え」と言って投げる。


「抑制剤、店長や他のΩ達には今のお前のフェロモンはキツイぞ」

「そんなにフェロモンきつい?」


 目をパチパチと何度も瞬いてって、そう云う問題では無い。さっさと使用しろ。


「お前は誰彼構わずヒートを誘発させたいのか」


 思わず漏れ出るキツイ言葉。
 腕の中の小林さんがピクリと一瞬だけ震える。…くそ、少しでも小林さんを怯えさせるだなんて最低だ、どうしてくれよう。ムカムカする。


「誘発だなんて、そんなつもりは」

「言い訳は後に、良いから早く接種しろ」


 自力で抑えられないならさっさとしろ。
 苛立つ気持ちを抑えられない。今は口が悪いが勘弁して欲しい。
 尚、勘弁して欲しいのはヒムカ相手では無く、怯えた表情を隠そうとして居るのか、それともヒムカのフェロモンを嗅ぎたく無いのか。俺の上着に顔を埋めている小林さんに対してだ。


「店長ちゃん大丈夫?これ飲む?」


 一戸君が気を使ってペットボトルに入った飲み物を勧めている。
 こういう時一戸君の気遣いが有り難い。俺だと小林さんの身を守ることだけで精一杯で他には気が付きにくい。


「ん、大丈夫」


 そう言って小林さんが吸引式抑制剤を取り出して服用する。

 その姿にようやく我に返ったのか、ヒムカが慌てて落合君から渡されたα用の抑制剤を使用する。

「ったく、おせーよ」小声で聞こえて来た小林さんの声にホッとする。恐らくヒムカが服用した為か、それとも小林さんが服用した吸引式抑制剤が効いて来たのか、少しだけヒムカのフェロモンが抑えられたのだろう。


「もう平気。離して」


 もそもそと小林さんが俺から離れようと動き始めるが、抱き止めたままにする。
 幾ら薬を使用したとは言え、まだ先程のフェロモンが残っている筈だ。このままヒムカと接触させるのは俺の心情的にも嫌だし、離したくは無いと言う俺の我儘もある。


「う、その。御免」


 急にヒムカがその場できっちり90度頭を下げ、謝罪してくる。


「そう言えば元嫁もよく臭いって言って居た…」


 その言葉に小林さんがまたピクリと反応する。

「はぁ~…だから嫌われたのかな」等と言っているが、俺はヒムカの事等知らんし、今は知りたくもない。そんなことより小林さん、今日のことがトラウマに等ならないと良いが。


「ねーねー」


 一戸君が小林さんとヒムカの間に入って来る。
 ふと落合君を見ると眉間に皺。普段は無表情か、一戸君の事を見る時だけは顔が緩む事が多いのに、もしかしてヒムカに対して嫌悪でもして居るのだろうか。

 なお、俺はヒムカを嫌悪している。
 恋敵だから当然だが、コイツの今日の行動もしかして。


「店長ちゃんのこと、もしかして付き纏って居るの~?」


 一戸君、ストレートジャブグッジョブ!
「えっ!」と言う顔付きでヒムカは此方を見て、それから背中を向けてヒムカを見ようとしない小林さんの方を向いて、それから一戸君の方へ向き直ってから困惑顔。
 お前、もしかして自分がした行為に気が付いて居ないのか?


「わざとじゃなくても~こういう誤解を招く行動は良くないよ?」


 コテンと軽く小首を傾げる一戸君。
 その一戸君の肩を守るみたいに引き寄せ、じっと睨み付ける落合君。


「ストーカー行為は犯罪です」


 だから俺が口説き中の小林さんに付き纏うな。
 とまでは言わないが、眼光鋭く睨み付けてやる。


「違う、ストーカーでは無いけど。その」


 もぞもぞとまた小林さんが動き出し、耳をそばだてて居るようだがヒムカの方へは顔を向けない。それどころか先程離してと言ったが、怖くなったのか?ギュッと俺の上着の裾を握り、震え出した。


「小林さん」


 大丈夫ですか?俺が守ります。そう口を開いて言おうとしたら――…


「コラァ阿藤!テメーこんな所で何時までも道草を食って居るんじゃねぇ!」

「先輩!」
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