商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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 えー…只今ですね、己が余りにも色気が無い衝撃の事態に驚いております。
 いや、元からか。

 何がってね、今無意識に履いてきたのが下駄なんですよ、よりにもよって使い古した焼桐・黒台。どうせなら先日買った黒塗りは黒塗りでも市松の方がちょっとだけお洒落だったかも知れない。
 とは言え着ているのが作務衣とか甚平なら然程変わりがないかも知れないけど。

 うう、少しはマシなの買おうかな。
 でもなぁ…新しく市松(下駄)買ったし、せめて単位の着物でも購入しておこうか。って益々明治やら大正もしくは昭和初期の服装じゃ…。

 しかも買おうと一瞬思ったのは何故か雪駄。

 何故スニーカーじゃないんだ…。
 何故現代の履物である靴ではないんだ。
 何故俺の頭の中は和風で固定しているんだ。

 いやいや、雪駄結構格好いいよ?
 でも現代の若者が極々普通に履くかと言うと、滅多に履く品では無い訳で。

 ん?
 いやいやいや、俺何考えているんだよ!
 これじゃあ嵯峨さんと何処かに出掛けることを前提で考えていないか!?
 そんな、そんなのって…チラリと嵯峨さんの方に視線を向ける。

 毎朝店で見る時の嵯峨さんは、ジーパンにシャツといった感じのお気軽な服装なことが多い。寒い時にはジャケットを羽織っていたりはしているが、どちらかと言うと堅苦しい格好では無くカジュアルっぽくラフな服装。
 だけど今は…。
 もう一度嵯峨さんを見ると毎朝見る服装とは違い、紺色のシャツに黒いテーパードパンツ。
 今朝見た時とは違う服装だ。

 着替えた?
 汗をかいたから、とか?

 ん、おや?
 嵯峨さん先程からチラチラと駄菓子屋とかもんじゃ焼き屋とかを見ている気がする。
 神社の通りって意外と子供のおやつ代わりになるような店が多いんだよね。例えば先程言った駄菓子屋とか、もんじゃ焼きとか。子供用に料金も安めだし。
 後はお好み焼きに、向こう側の通りには安い定食屋とラーメン屋もある。

 そう言えば先程家に来た時、嵯峨さんのお腹が鳴って居たっけ…。

「嵯峨さん」

「はい」

 ニッコリと此方を見て微笑んでいるけど、先程までその目はもんじゃ焼き屋の看板に注がれていた。オマケに匂いも嗅いでいた様な、そうで無いような。
 これ、結構お腹が空いているのでは?

 以前栄養失調で倒れた時を思い出す。
 駄目だ、今すぐこの人に何かを摂取させないと。
 あの時とは違ってほぼ毎朝ウチの店で朝食を食べては居るけど、昼間とか夜とかはちゃんと食べているのかどうかまでは知らない。以前嵯峨さんの親戚の人に頼まれたのにこれはちょっと冷たいかもと罪悪感が湧き出す。

 それなら今だけでも、子供のおやつ程度でも嵯峨さんの胃袋に詰め込まねば。

 ある意味これは使命だ……ナンカチガウけど。

「夕飯前にちょっとだけおやつでも食べていきません?俺、久し振りにもんじゃ焼き食べたいなぁ」

 そう言えばもんじゃ焼きって田舎から出て来た高校生時代、同じクラスの男子達三人が連れて来てくれた。
 バース性の高校に入学したから俺以外の男子生徒はαばかりだったし、Ω男子はクラスだと俺一人だった。女子は何人かΩが居たけど、皆可愛かったし美人だったな。
 そんな中だったから平凡な容姿で当然浮いていた俺は、訛りもあったから入学当初は殆ど人と話しておらず孤独だった。

 だからなのか、クラスの他のα男子達が何人か俺を外に連れ出そうとしてくれて、気が付いたら話す言葉から田舎の方言である訛りが少しずつ取れて来たんだよなぁ。
 後、俺の実家から仕送りされるお小遣いは都会のお金持ちのα達みたいな裕福な実家では無いから、自然と格差が出来てしまっていて。奢ってくれるって言ってくれるαの子も居たけど、毎回奢って貰う訳にはいかないから皆で外に出た時の安上がり飯がもんじゃ焼きだったワケで。

 懐かしいなぁ。
 あの時のクラスメイト達は元気だろうか。

「!」みたいな顔をしたけど、「軽くなら大丈夫そう?」と聞けば嬉しそうに、

「はい」

 と頷く。
 うわー何だか犬の尻尾の幻覚が見える。
 盛大にフリフリと尻尾を振っている状態の。
 余程お腹が空いているのだろう。
 もっと早くに気がつくべきだった、御免と思っていると、

「小林さんと一緒の初デートで、初おやつですね」

 ブフッ!
 その台詞は先程会った高校生αカップルの言葉を否定したから出て来たのかー!?
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