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 鯉も盲目。
 あ、最初の文字は鯉ではなく恋だった。
 そりゃあ魚は大好きだけど、鯉はまだ食ったことが無い。
 昔実家の田舎にある温泉宿で、温泉宿の池にいる鯉が食えるっていう事でそこそこ繁盛していた所があったのだけど、俺が中学生になるかならないか位にその宿は無くなった。その原因はオーナーがお年だったと言う理由と、跡継ぎが道楽者で金勘定がダメダメだったって言うのと、宿の客が食中毒を起こして…。

 うちも食中毒には気を付けよう。
 衛生管理、とっても大事。
 うがい手洗い&清潔な店内。
 衛生面強化キッチリ致しましょう。

 そもそも鯉なんて俺には無縁だと思っていたのに…って、アレ。
 文字…俺、動揺しすぎ何だろうか。

 つい先程も錦鯉のことを思い出してしまったし。
 錦鯉…巨大錦鯉の顔面恐怖再び。今晩寝られるかなぁ。

 グー…

「すいません」

 鯉とか恋とか魚のことを考えていたせいか腹減って来たなって思っていたら、グーと言う音。
 俺の腹が鳴ったのかと思ったら、目の前にいる人物からの音。しかも腹の方。
 と言うか、この人腹が減るのか。
 このご時世に栄養失調でぶっ倒れた人だから、食欲とか食事に無頓着だと思っていた。

 そう言えばウチの店では結構朝から大食いだよな。お代わりとかもガンガンするし、下手すると二人前とか食う時もあった。

「飯の誘いに来たから…その」

 見苦しい所を見せてしまいました。
 などと言って、此方をチラリと見てから照れた様に視線を外す。

 え、なに。
 この人、意外と仕草が子供っぽいような?
 普段αという事で仕草とか洗練された気がしていたけど…?
 もしかして、もしかしてだけど。栄養失調でぶっ倒れたっていうことは、何かに熱中して食事をすることを忘れて没頭してしまうからとか?

 なんて推測を勝手にしてみました。
 そんなワケ無いよね。

 おっと、今はそれどころではない。

「飯の誘い?」

「はい。夕飯一緒に食い…食べませんか?」

 何時の間にか嵯峨さんの赤面していた顔は真顔…えーと、朱色だった色は普通の肌色に戻り、逆に真剣な眼差し。「駄目ですか?」と小さな声を出しながら必死な様子で此方を見詰めて来る。

 何だか可愛い。
 先程此方を見て「可愛い」と言われたけれど、言った嵯峨さんの方のが可愛い気がする。
 言い直したり、こうやって真剣な顔付きで此方をじっと見たり。
 うん、可愛い。
 顔や姿は流石αだけあって格好いいけど、必死な感じが何だかちょっと可愛くない?

 俺の身長が嵯峨さんよりも上だったら、上目遣いで見られるのでは無いだろうか。まぁ、現実は俺の方がチビなので無理ですが。
 身長切に欲しい。
 せめて後3センチ!そうすれば念願の170センチ台に…!!

「買い出しが終わったら、お時間があればですが、宜しければ俺のオススメの店に行きませんか?」

「オススメ…」

 其処でふと、俺の現在の服装を見る。

 …甚平だ。
 誰がどう見ても甚平だ。しかも店用に作った、俺お手製の。色々と駄目過ぎない?

「この服装でも入れます?」

 ドレスコードなんてあったら、俺無理。
 背広なんて持っていないし、今後も購入する予定は無い。あっても昔着ていたTシャツとジーパン位だよ?それ以外ってほぼ店用の和服位だし、今時の服装なんてお茶屋を経営してから着ていない。
 一着ぐらい購入しておくべき?
 とは言え着慣れて居ないから、もう似合わない気がする。
 あれ、俺ってばもう一般的な男の服装には戻れない?

 …和服ってドレスコードがある店でも入れた??

「大丈夫ですよ、小林さんも知っているお店です」
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