8 / 138
8
しおりを挟む「どうしたの?店長さーん」
「え」
少年から成長過程の途中と言った風貌の優しい、でも格好いい学生さんが一人、俺の目の前を何度も手をフリフリとさせている。見た目は悪戯好きっぽい顔付き(年下の格好いい子)をしているけど、今その顔は『心配』という言葉が当て嵌まる様に俺を見ている。
「あ~…ごめん、ぼーとしていたね」
「お疲れ?」
「うーん、そうかもね」
「夏風邪?」と小首を傾げて聞いて来る学生さんの隣には、これまた誰もが羨む程綺麗な顔をした学生さん。このお二人さん、α同士だけどお付き合いをなさっているらしい。
今も俺に話し掛けて居るけど、手。
カウンター下で確りと繋いでいる、実に初々しいカップルさんです。
こう、なんて言うか可愛いらしいと言うか。
ごめん、本音言います。
圧倒的リア充!
でも眼福!目の癒し!
神様有難う!また本日も健やかに過ごせます!
何だか「あれ?」とキョトンとした顔付きの学生カップルの前に本日の朝食セットを2つ。
本日の朝食セットは珍しくトーストと御飯から選べます。
因みにトーストはこの朝食セットを始めてから初の試み。それでも問答無用で味噌汁は付いて来ます。拒否は受け付けません。その代わり味噌汁の具は多めにしてみました。ジャガイモとワカメと油揚げ。それと最後にとろろ昆布。
ごちゃまぜという感じに見えるけど、これ田舎の婆ちゃんがよく作ってくれた一品。
しかも油揚げは昨晩のうちに一度湯掻いてから炙っております。香ばしくて旨いよ、自画自賛しちゃうよ。
更に、
「…トースト、海苔が乗っている」
唖然とした面持ちでお皿に乗っているトーストを見て固まっている学生さん。お名前は確か、一戸京夏君だったかな。
「海苔トーストか、面白いな」
「意外と旨いですよ、これ」
駄目なら御飯にしましょうか?と一戸君に言うと、「食べてみます」と言ってからひとくち、口に入れて。
「…うまい!」
もう一口噛んでから、
「何これ、何これ、店長これ旨い~!海苔の香ばしさが口いっぱいに広がって、それで、それで!」
「落ち着け京夏」
「でもでもでも!ひろ、美味いよ~!」
「ほら、口の端についている」
おおぅ、何だか早朝からイチャイチャを拝ませて頂いておりますよ。
流石にじっと見ているワケにはいかないからと、洗い物をしながら時折店の入口を見る。うん、今日は日差しがキツイねぇ。そう言えば学生さん達、今夏休みか。課題とかどうしているのかな…とやや現実逃避する。
視界の暴力と言う、イチャコラ凄いからね。
若いなぁ…と、20代のまだまだ若いつもりの俺は遠い目をしちゃうよ。
今日は他にもβのお客さんやらαのお客さんが何名か店内やら店の外の席にも居て、意外と海苔トーストが好評で何名か食べてくれている。
それでも時折トーストには味噌汁が駄目な人もチラホラ。
そういう人は御飯にしたりしているけど、どうしても海苔トーストが食べたいという人には+100円で出している。
更に、何故か海苔トーストをお代わりする人が居てびっくり。
「店長美味しかった~!また来るね!」
「ご馳走様でした」
先程の学生さんも海苔トーストを確りとお代わりし、満足そうにして去って行く。
何だかすっかり朝食セットが主流になっちゃっているなぁ当店は。
そう思いながら、人が空いて来た間にカウンターやテーブルを簡単に掃除し、食器類を洗っていると、
「店長、まだ朝食やっている?」
「大家さ…嵯峨さん。はい、まだありますよ」
『今日も』αのお客様が多めに店内に居ると、少なくなってから来店する嵯峨さん。
相変わらず気遣ってくれるなぁと、微笑んでしまうと何故か嵯峨さんが硬直する。ん?何で?停止している?と思っていたら、
「店長」
やっと動き出した嵯峨さんが、カウンターに座ると俺の方を向いてから口を開け、
「いや、小林さん」
んん?
何で改まって?と、見ていると、
「小林眞宮さん」
何故かフルネームで呼ばれた。
と言うか、下の名前で呼ばれるって随分と久し振り。Ω専用の病院の受付で名前呼ばれる時ぐらいしか最近はないなぁと思い返していると、
「その」
「はい?」
「付き合って下さい」
「何処までですか?」
「え」と口を開けて固まる嵯峨さん。
「もしかして遠回しに断られた?」とか言う声が出ていますが、「断られた」って何が?
俺、何か変なことを言った?
小首を傾げていると、「その」とか、「ええと」とか小さな戸惑った様な声が聞こえて来る。
そうして、
「これを」
と、アレ。
何故綺麗な真っ赤な薔薇の花束を俺に渡して来るの?しかも嵯峨さんの顔は真っ赤に染まっていて。
「え、え、え?…ひぇ」
そ、そうだよねー、大人が「付き合って下さい」って言ったのに、何故俺は「何処までですか?」なんて変な言葉を素で言っちゃったのだろうか。
鈍感にも程がある!
流石に嵯峨さんのこの行動で察しがついた俺は、どうしたら良いのかわからなくて頬が熱くなる。
先日神社で告白めいた言葉を言われた気がするけどー!
「受け取って下さい。俺の気持ちです」
「ふわ、あ、あのっ」
「返事、何時までも待っています」
「あ、あわわ…」
「朝食、お願いします」
「はぃぃ!」
すげーよ、すげーよ!
初めて花束貰っちゃったよ!とても綺麗な赤い薔薇の花。
何十本あるんだよこれ、絶対高いやつ!しかもプロポーズ用っぽい!!そう言えば何処かで薔薇の数で意味があるとかなんとか。どうしようどうしよう~!
混乱していたらいつの間にか時間は過ぎていて、嵯峨さんは御飯を食べて帰っていった。
しっかりと海苔トーストをお代わりして。
14
お気に入りに追加
472
あなたにおすすめの小説
コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます
はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。
睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。
驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった!
そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・
フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
兄弟がイケメンな件について。
どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。
「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。
イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる