この身体俺のでは無いようです!ー異世界転生ってここは何処!?ー

柚ノ木 碧/柚木 彗

文字の大きさ
33 / 48
焔ノ章

緋色に空は染まり、夜の帳は落ちて

しおりを挟む
 全く、急に何だと言うのだ。


 必要になるからと呼びつけられ、街中に機材を取り付けた。
 主なものはほぼ、街の中央の広場にだが。


「何でこんな夜の時間帯に…」


 今までのグリンウッドからのモンスターの襲撃は、ほぼ日中か夕刻。夜中やまして明け方等無かったのだ。
 それが今回「彼者誰時(明け方3~6時頃)に来る」からと悪魔ミサから勧告があったのだ。

 元々、ミサは稀にだが襲撃を予想して来ることがある。
 しかも外れは今迄に一切無い。
 本人に聞くと「う~ん感?」とか、「何となく?」とか、訳の解らない理由で。
 両親に聞いたら「それがミサだから」で終わってしまった。
 占いでもしてるのだろうか?


「そう言えばあのミサさん、何で悪魔って呼ばれてるんだ?」


 確かに的確に人の弱味に漬け込んで、執拗に攻撃と言うか弄り倒して来ることは多々ある。
 主なのは患者が精神的に疲れているのに寝れない時とか、負担になる様な事柄をずっと考え込んで落ち込んで居る時に、別の事柄、主に患者当人がトラウマになる一歩手前の事をやらかして弄ると言うことだ。
 今まではその性格ゆえ、「悪魔」と呼ばれて居るのかと思っていた。
 たが、それだけでは無いと思う。

 何故かと言うと、単なる感でしかないのだが。

 機材の調整と確認をしながらアレフは思う。
 ミサは人間だ。
 長寿と言われて居るエルフやハーフエルフ、ニンフやメリュジーヌ等ではない。
 それなのに、アレフが知っている限り、ミサは一切歳を取らない。
 少なくとも両親に聞いた限りでは、この街に来てからずっとあのままの見た目だと言う。

 一瞬、アレフの脳裏に『不老』と言う言葉が浮かぶ。
 同時に『この街だから何でも在り』だなとも思う。
 人間は人間でもクォーターかも知れないし…
 ただ、アレフがここの所一番気になるのは『ミサと女神像ザアファラーンが似ている』と言う点と、『ミサとハクが似ている』と言う点だ。
 それを言ったら『女神ザアファラーンとハク』が似ていると言うことになるのだが、


「なんっか違うよなぁ」


 男女の違いかどうか?
 それもまた違うような…

 取り留めの無い事を考え込んでも仕方ない、さっさと片付けるか。願わくば今回の襲撃は早々に片付いてくれると良いな……







 闇夜の最中、白ウサギのモチは途方に暮れていた。


「…ご主人?」


 街の上空の結界を貼り終え、特に何度も街の中央の広場の周囲を重点的に貼って確認し、満足したのか、ハクはモチが帰りましょうと言っても駄々を捏ね、治療院の屋根の上で丸まって寝てしまったのである。
 くるんっと丸まった姿は尻尾があったら様になったであろうが、今は人間の姿。
 ハクにこれ迄の過去の事を聞いたモチは、この姿に納得する。

 が、それとこれとは別。

 モチは風邪引いてしまいますっ!とか、身体に障ります!とか、色々言って何とか部屋に帰って休んで貰おうと思ったが、余程ミサの所業が嫌だったのか聞き入れず、ご覧の有り様。

 帰りたく無いって散々言ってましたし…


「どーしましょう」


 全く起きない主人に、横でポテンッと音が為る可のように肢体を投げ出して座る。
 大きな溜め息が無意識に出る。

 ぷらーんと両足をプラプラとさせ、上空を見詰める。
 空には満点の星。
 宝石をばら蒔いた様な煌めき。

 此が後数時間で業火へと染まると聞いた。
 その対策の為に色々細工も頼まれたとも。
 何が来るのですか?と聞いたら、面倒なのが一人とヤバイのが一人来ると言う。
 後、妙な気配もあると言っていた。
 鋭気を養う為にそれまで寝かせてくれと、寝入ってしまった主人の傍らモチは思う。


「僕、役に立つかなぁ」


 プラプラさせたままの脚を上に向け、コロンと横に為る。
 装備として主人のハクが色々付けてくれたが、その中に主人が知らない物も幾つかある。
 ケンネルさんとその婚約者が、モチの「機動力」を生かせと寄越してくれた物だ。


「強くなりたいです」


 両手を上に向け、何の星なのかサッパリわからないが一番大きく見える白くて綺麗な大きな星に視線を向け、これ以上主人が怪我をして傷付いて欲しく無いと思う。
 今だってまだ全快では無いのだ。
 本来なら先程の様に結界を貼るなどキツい筈だ。
 だが今貼らないと間に合わないと、穴だらけになっていた箇所を補強していた。
 その為に無理が祟ったのか、屋根で寝る等と言う事をしてしまって居るのだが…


 で、も。

 やはりここで寝るのは良くない。
 身体に障るし、何より弱体化等と言うマイナスなモノがある主人には、身体を暖かくして寝ていて欲しい。

 無理矢理連れて行くしかないですね!

 怒られるかも知れないけどこれも主人の為。
 何よりぐずぐず燻ってるのは苦手なのだ。
 それではと、屋根の上からどう降りるかな?と辺りを見渡しーーこう言う時、夜行性ってのは役に立ちますね、なんて思いつつーー

 びたんっ

 本日二度目のミトラさんの顔面張り付けを食らった。

 モチにクリティカルヒット!
 モチは尻餅をついた!


「モチ~~!探したのじゃ~!」


 グリグリグリッとモチの顔面に張り付いたミトラはこれでもか!と顔面に摺より…


「ミトラさ…息!がっ…」


 尻餅をついたまま、モチは慌てる。
 息!
 息がぁ!
 窒息する~~

 酸欠により、くらっくらっ目を回し始めた辺りでようやく(?)屋根の上に登ってきたケンネルに、同じく本日二度目となる軽快なる音付でベリィッと剥がされ、モチは涙目になり咳き込んだ。


「ぎゃああっモチ!大丈夫か!誰がこんなことを!」

「お前以外に誰が居るんだ…」


 ケンネルは大慌てでモチの介抱をするミトラを冷ややかな目で見詰めれば、ミトラはと言えばケンネルのことなど眼中に無い。
 out of 眼中(?)。
 ケンネル、もう呆れるしかない。


「ミトラさん、顔に張り付くのは止めて下さいっ!僕死ぬかと!!」

「ご、ごごごめんなのじゃモチ、わ、わらわは何て事を!」


 そう言ってモチの横顔に自身の頬をグリグリと擦り寄せ、ケンネルとモチに反省の色が無い!
 と、怒られたミトラであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...