この身体俺のでは無いようです!ー異世界転生ってここは何処!?ー

柚ノ木 碧/柚木 彗

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焔ノ章

鮮紅5

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 カーターさんとケンネルさんの二人は一頻り笑うと、また手紙を見詰めて居ます。
 何か難しいことなのでしょうか?


「カリナタ」

「何?」


 ケンネルさんが前足を上にくいっとやり、


「上、かなりやられてる」

「どう言うこと?」

「先日の襲撃の後、結界を補強して直したって言ってたよな?」

「ええ、広範囲だったからかなり苦労したけど…まさか?」

「そのまさかだ。報告が上がってきてる」


 カーターさんが封書ごとカリナタさんに手渡し、カリナタさんは神妙な顔付きで手渡された手紙を読み、表情を変える。


「そんな…」

「俺はこれから詰所に話してくる。ケンはこのままこの辺りを警備。門番は交代してもらう」

「わかった」

「カリナタは用事があるんだろ?」

「うん。これ置いてこないとならないし、買い物もあるから」


 カリナタさんが先程の未だに動く謎の袋を指差し(本当に生きてないですよね?怪しいのですが)、「少し生臭いけど」と言いつつ指で小突くと、中で「うみっ」って音が…………………
 ほんっとーーーーに、生きてないですよねっ!?
 ぶるるって、動いたぁっ!!!


「解った。何かあったら…ミサの所か?」

「日があるうちはね。日が沈んだら自宅にいるわ」

「了解、それじゃまたな……ん?モチ君、なに涙目になってるんだ?」


 袋の前で涙目になってぷるぷるしてしまった僕に、カーターさんはぶはっと笑ってそれまでの緊迫感のある雰囲気を一気にぶち壊し、


「ああそれはな、モチ君は見ない方がいいぞ」

「な、な、なんでなんですか?」

「秘密だ」


 そう言って一頻り笑い、カーターさんは足早に去って行きました。


「…カリナタさん」

「…」

「中身何ですか?」

「…秘密」


 ぶわっと大粒の涙が出て、ボロボロとつい泣き出してしまいました。
 怖いからしっっっかりとケンネルさんの背後に回りましたよ!
 ケンネルさんの服まで確りと握ってしまいましたよ!

 だって動くんですっ!
 変な声がしますっ!
 怖いですっ!

 ケンネルさんが大丈夫って言ってくれ、頭を撫でてくれましたけど、小さい声で「ぴぃぃっ」って泣きじゃくってしまいました。

 …駄目ですね、僕強くならなくちゃならないのに。


 一頻り泣き終わったら、カリナタさんに土下座されました。


 ………びっくりです。








「今のは親父も悪いけど、カリナタも悪い」

「…はぃぃ」


 あの後、僕は不信感でいっぱいになってカリナタさんをジト目で睨みつつ、距離をとって歩いて居ます。
 僕がこんな調子なので、ケンネルさんは仕方ないなと"僕を"ご主人が居る治療院まで送ってくれるそうです。
 カリナタさんはついでで送ってやるとか、お前お仕置きで荷物係とか、何だか意地悪を言って酷使してます。
 カリナタさんが「鬼ぃ…」って言うので、じーーーとカリナタさんを見詰めると、ガックリと肩を落として小さくなって居ます。
 ちょっと可愛そうかな?流石に女の子にだけ荷物を持たせるのも嫌なので、僕も持ちました。
 そうそう、お塩もちゃんと購入しました。
 うっかり忘れそうになりましたけどね。

 …だってまだ動くんですよ、アレ。
 中身はケンネルさんが教えてくれたからわかりましたけど、植物と昆虫の一種だそうです。
 袋から出すと異臭を放つらしく、街中で袋から出して見せるわけにはいかないとか。
 それならそうと言って欲しかったです。


「モチ君御免ね」


 時々目を合わす度に謝って来ますが、どう返事したらいいかわからないです。
 人の機微とか僕理解しにくいんですから。
 ご主人ならこんな時苦笑して許すのでしょうが、どう対応したらいいのか困惑します。
 そんな僕を見かねたのかケンネルさんが、


「モチ君、唐突だけど『産まれて何ヵ月?』」


 と、聞いて来ました。
 やっぱりケンネルさんは鋭いですね。
 カリナタさんは「えっ?」って言ってますけども。


「三ヶ月と少しです」


 ケンネルさんはやっぱり、と言って僕の頭を撫で撫でしてくれました。
 …子供扱いですね、だからちょっと言いたく無かったです。


「前々から少し背伸びしてる子っぽく思っていたけど、やっぱりそうか」

「元々僕達の種族は早熟ではあるんです。ただ、僕は少し他の子達より身体は大きいのですが、中身がその、未熟で…」

「ん?三ヶ月ならまだまだ子供だろ?そんなもんさ」


 グリグリと再度頭を撫でられ、目を細めて「うきゅ」と鳴くと、


「ハク君も子供だし、丁度良いんじゃないか?」

「そうでしょうか?」

「充分だよ。現にハク君はモチ君を邪険にしてないし、どっちかって言うと可愛がっているだろ?」

「僕、ご主人より強くありません……」


 またグリグリと頭を撫でられました。
 ちょっと痛い位です。


「モチ君は背伸びし過ぎだよ」

「そうでしょうか…」

「モチ君は伸び代があるからなぁ、ま、大変になったら遠慮無く相談に来な」


 グリグリグリグリと、ケンネルさんに強く撫でられるのはいいのですが、横にいるカリナタさん…?


「モ"チ"ち"ゃぁあ"んごめんねぇえ~!」


 道の真ん中で号泣きされました。


 ………再度、びっくりです。


「カリナタ、お前は子供じゃないだろうがっ!」


 と言いながらも、ケンネルさんはカリナタさんに優しく笑ってハンカチを差し出して居ました。
 街中の人々もカリナタさんに驚いていたみたいだけど、僕はちょっとだけ、何だかケンネルさんがお兄ちゃんみたいで、カリナタさんがその妹みたいで、仲が良くて羨ましいなって思いました。

 種族が違うし寿命も違うのだろうけど、何だかこの街は優しくていい街だなあって、夕陽が沈む最中そう思いました。
 ちょっと幸せです。

 ご主人も少しでも幸せだといいな。
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