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気まぐれマジシャン 2
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ツーシーの声がいやにはっきりと聞こえたと思ったら、俺が持っているペンがキラキラと光り出し、俺の手から勝手に抜け出す。その後、くるくると申し込み用紙の上で踊り出し、あっという間に俺の職業を書き出した。
「なんでマジシャン?」
キラキラのペンが書き出したのは、先程、ツーシーが口に出した『マジシャン』という職業だ。俺はパラレルマギを始めてから今日まで、ゲーム内では人前で魔術を使ったことがない。そんな人間に魔術師とは……ツーシーには一体何が見えているのだろう。
『奇術師でもいいが……俺が見たいから』
奇術師といわれて脳裏にシルクハットと鳩が思い浮かんだ。そう思えば手品をする人もマジシャンといったなぁ……と、しみじみ思い、俺はおもむろに親指を隠し、親指切断マジックをしてみせる。
「マジックショーを?」
『ディーサンの魔術を』
ウサギはたぶん真顔で首を振った。
種も仕掛けもありませんというにはあからさますぎたようだ。もっと初めから隠さないといけないか……と俺は心の中で深く反省する。
そんな俺を無視してウサギは急に前足を揃え、目を背けた。
『マジシャンなのは……あんたがびっくり箱みてぇな人だから』
俺は恋人の第一印象でも聞いたのだろうか。ウサギの声が照れくさそうで、なんだかかゆい。恋人じゃないですよ、ただの厄介キモオタですよと走り出したい。
「けど流石に詐欺だよなぁ、マジシャンじゃあ」
俺は暴れ出したい衝撃を抑え、冷静に真っ当なことをいったが、まだかゆい。腕を組んで掻き出さないよう手を押さえた。
『なら、なんの武器が使いたい?』
「有利ならなんでも」
『なら、こうか』
ウサギの前足が動くと、再びペンが動き、マジシャンの横に『便利屋』と記入する。さっきまで照れていたウサギは何処にいったのか。俺の切り替えも早いが、このウサギもなかなかだ。さらっと俺に対する皮肉っぽい職業を書き出した。
「便利?」
『有利な武器を色々使ってくれるなら、便利だ。それとも万能屋がいいか?』
かつて俺の憧れた職業とは違うが、オールラウンダーは流石に格好良すぎる。便利や万能は職業ではなく特性のような気もするが、俺は未だにキラキラしているペンを手に取りマジシャンに二重線を引いた。
『万能じゃなくていいのか?』
心底残念そうにウサギがこちらを見上げてくる。だが、残念ながら万能は過言である。
「便利屋くらいがちょうどいいかなと」
便利に使われているという意味ならぴったりの名前だ。
俺がペンを動かし始めると、キラキラがスゥーっと消えた。
「弓、投げナイフ、槍、棒、剣、短剣、杖……くらいでいいか」
用紙に書いたものを確認するために口に出すと、ウサギがぴょんぴょん跳ねて喜び出した。
『ディーだ!』
「あ、はい。ディーです」
ウサギなのでかわいいのか、可愛らしい反応だからかわいいのか。なんだかとてもかわいいツーシーに面食らっていると、ウサギはぐるぐる回って再びぴょんぴょんと跳ねた。
『ディーだ……!』
「あの、ツーシーさん?」
跳ねてはぐるぐる回り、また跳ねる。
ツーシーの喜びようがあまりに激しく、俺は置いてきぼりを食らった気分になりつつ声をかけた。
『はは、ふふ……ディーとゲームだ』
あまりに嬉し過ぎたのか、俺の声は聞こえていないようだ。申し込み用紙二枚の角をまとめて咥えて、ウサギが走り出そうとする。
もしかしてそのまま申し込み窓口に提出するつもりだろうか。
「ちょっと待って……待って!」
ウサギのスピードが加速する前に、ウサギを囲うようにして腕で壁を作るとウサギが俺の腕を跨いだところで動きを止めた。
「チーム名! チーム名いれてないから!」
ウサギはハッとしたようで、身体を固めたあと、ふにゃふにゃと力を抜く。
『ごめん……』
「いや、謝ることでもないから、というか……そんなに俺とゲームしたかった?」
ウサギがピョーンと驚いたように跳ねると、あわあわと辺りを見渡し始めた。もしかして隠れる場所を探しているのだろうか。
そう思うと同時に俺はウサギの足元を手で囲っていた。
「いや、待て!待たないとチーム名勝手に決めるぞ……!」
「なんでマジシャン?」
キラキラのペンが書き出したのは、先程、ツーシーが口に出した『マジシャン』という職業だ。俺はパラレルマギを始めてから今日まで、ゲーム内では人前で魔術を使ったことがない。そんな人間に魔術師とは……ツーシーには一体何が見えているのだろう。
『奇術師でもいいが……俺が見たいから』
奇術師といわれて脳裏にシルクハットと鳩が思い浮かんだ。そう思えば手品をする人もマジシャンといったなぁ……と、しみじみ思い、俺はおもむろに親指を隠し、親指切断マジックをしてみせる。
「マジックショーを?」
『ディーサンの魔術を』
ウサギはたぶん真顔で首を振った。
種も仕掛けもありませんというにはあからさますぎたようだ。もっと初めから隠さないといけないか……と俺は心の中で深く反省する。
そんな俺を無視してウサギは急に前足を揃え、目を背けた。
『マジシャンなのは……あんたがびっくり箱みてぇな人だから』
俺は恋人の第一印象でも聞いたのだろうか。ウサギの声が照れくさそうで、なんだかかゆい。恋人じゃないですよ、ただの厄介キモオタですよと走り出したい。
「けど流石に詐欺だよなぁ、マジシャンじゃあ」
俺は暴れ出したい衝撃を抑え、冷静に真っ当なことをいったが、まだかゆい。腕を組んで掻き出さないよう手を押さえた。
『なら、なんの武器が使いたい?』
「有利ならなんでも」
『なら、こうか』
ウサギの前足が動くと、再びペンが動き、マジシャンの横に『便利屋』と記入する。さっきまで照れていたウサギは何処にいったのか。俺の切り替えも早いが、このウサギもなかなかだ。さらっと俺に対する皮肉っぽい職業を書き出した。
「便利?」
『有利な武器を色々使ってくれるなら、便利だ。それとも万能屋がいいか?』
かつて俺の憧れた職業とは違うが、オールラウンダーは流石に格好良すぎる。便利や万能は職業ではなく特性のような気もするが、俺は未だにキラキラしているペンを手に取りマジシャンに二重線を引いた。
『万能じゃなくていいのか?』
心底残念そうにウサギがこちらを見上げてくる。だが、残念ながら万能は過言である。
「便利屋くらいがちょうどいいかなと」
便利に使われているという意味ならぴったりの名前だ。
俺がペンを動かし始めると、キラキラがスゥーっと消えた。
「弓、投げナイフ、槍、棒、剣、短剣、杖……くらいでいいか」
用紙に書いたものを確認するために口に出すと、ウサギがぴょんぴょん跳ねて喜び出した。
『ディーだ!』
「あ、はい。ディーです」
ウサギなのでかわいいのか、可愛らしい反応だからかわいいのか。なんだかとてもかわいいツーシーに面食らっていると、ウサギはぐるぐる回って再びぴょんぴょんと跳ねた。
『ディーだ……!』
「あの、ツーシーさん?」
跳ねてはぐるぐる回り、また跳ねる。
ツーシーの喜びようがあまりに激しく、俺は置いてきぼりを食らった気分になりつつ声をかけた。
『はは、ふふ……ディーとゲームだ』
あまりに嬉し過ぎたのか、俺の声は聞こえていないようだ。申し込み用紙二枚の角をまとめて咥えて、ウサギが走り出そうとする。
もしかしてそのまま申し込み窓口に提出するつもりだろうか。
「ちょっと待って……待って!」
ウサギのスピードが加速する前に、ウサギを囲うようにして腕で壁を作るとウサギが俺の腕を跨いだところで動きを止めた。
「チーム名! チーム名いれてないから!」
ウサギはハッとしたようで、身体を固めたあと、ふにゃふにゃと力を抜く。
『ごめん……』
「いや、謝ることでもないから、というか……そんなに俺とゲームしたかった?」
ウサギがピョーンと驚いたように跳ねると、あわあわと辺りを見渡し始めた。もしかして隠れる場所を探しているのだろうか。
そう思うと同時に俺はウサギの足元を手で囲っていた。
「いや、待て!待たないとチーム名勝手に決めるぞ……!」
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