溺愛ゲーマー

つる

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社畜時代の終わり 6

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『それで……その』
 敬語のせいで話が逸れてしまい、なんと話し出していいか迷っているのだろう。ウサギの顔がなんだか困っているように見える。このままウサギの可愛い様子を眺めながらツーシーの言葉を待ってもいいのだが、それは流石に意地悪かもしれない。ツーシーの代わりに俺が話を戻すことにした。
「俺とツーシーさんがこれからどうするか……プロを目指すにしても、互いのことがわかっていないからどうしようかって話だが」
 思えば遠くに来たものだというのはこのことかもしれない。実力が知りたくて洞窟にきたがお互いの強さに認識の違いがあり、できることを確認しようとしたがオタク心と尊敬の心が出てしまい……今、この状態である。結局何もすすんでいない。
「たぶん話していたらずっとこうなんだろうな……」
『あ、ああ……それには同意する。しかも実力みようってここきたってのに、なんか違ぇっつうか』
 俺があまりにもスッと敬語をやめてしまったせいだろう。ツーシーが一歩引いてボソボソと喋った。
「一緒に遊べるというか、会えるというだけでワクワクしてしまったからなぁ……本当にやるべきなのは、見て見てじゃなくてテスト勉強なのに」
 一通り興奮したおかげで、少し冷静になれたのかもしれない。俺は洞窟の出口がある方向を見つめため息をつく。もう二十代も終わろうという歳だというのに、舞い上がってしまった。もう少し落ちつきを持ちたいものだ。
『テスト勉強……ディーサンは何をするか知ってるのか?』
 社会人になってもテストは結構あるものだが、テスト勉強といえば学生時代を思い出す。放課後の空き教室、図書室、自習室に、飲食店……椅子と机のある場所に一人で、あるいは友人とノートを広げる。そういうものを想像しがちだ。
 だが俺とツーシーの受けるのはおそらく座って白紙を埋めるタイプのテストではない。机も椅子も空き教室すら必要ないだろう。故にテスト勉強とプロゲーマーテストの印象が合わず、間違えていないというのに妙に可笑しい。
 俺は口元を緩め声を出さず笑うと、テストで何をするか考えるために口を開く。
「二人で受けるということと、定期外のテストということ、バトロイのプロということしかわからないんだけど、そこから考えたら対人戦じゃないか?」
『あそこの試験で常時できるような対人戦……現所属プロゲーマーと戦う、とか?』
 俺とツーシーがプロゲーマーテストを受けるアデルラーゼアという会社は定期的にプロゲーマーを募集している。年に二回、会社の定めたレベルに達している受験生を研修生として雇い、プロに相応しいと認めた順にプロデビューするそうだ。
 俺達の場合は時期はずれの突発で、特別にテスト問題を用意するというのはきいていた。ただしテスト内容は秘密だとかで……これは定期試験でもそうで、例年のテスト内容とゲームをするということしか伝えないそうだ。
「あり得る。あとちょうどよく大会なんかあればそこで好成績残すとかなんだろうけど、何かあった?」
 秘密といえど普通に考えれば、どういう試験をするかは予想がつく。その予想から大体のあたりをつけ……人はこれを山を張るだとかヤマカンだとかいうわけだが。テスト範囲がないに等しいので仕方のないことである。
 そうして俺達が出した山がプロゲーマーとの対人戦と大会出場だ。プロゲーマーと対人戦をするならアデルラーゼア所属のプロゲーマーの対策をする必要があり、大会出場なら開催場所とライバル達を知る必要がある。どちらであっても情報収集が必要で、こんなところで座っている場合ではない。
『バトロイで急に参加できる、あるいは捻じ込める大会……ルーディック海戦?』
 まして、ルーディック海戦などというまともに地面を歩かせて貰えないバトルロイヤルの大会に参加するなら、海で戦う準備だけでなく、やはり正確な実力等を知る必要がある。
「いっそのこと、大会に参加しようか? テストの前に」
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