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社畜時代の終わり 4
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俺が猿のおもちゃみたいになって喜ぶものだから、ツーシーはきょとんとこちらを見て前足を上げる。遠くを観察しているウサギのような動きだった。
『それなら、たぶん……俺もディーサンのことは面白いと思ってい、マス』
こちらを見ているのに遠くを見つめているように感じるのは、おそらく今まで見てきた俺の記録を思い出しているせいだろう。
『ディーサンは手数が多くて堅実で効率的』
低くて落ち着いた音がその場に落ちる。
感情はなく冷たい響きであるが、過去の記録や自らの知識を照合しているように見えるため怖いとは思わない。
『まず得物が多い。極めることもないが飽き性な訳でもない。負けず嫌いなところはあるが、相手が負けたと思うまで執念を燃やすわけではなく、自分がある程度満足するまでやり込む。その水準は一般的に高いといわれるものである』
ツーシーのいうことは間違っていない。
色々な武器を使うのは負けず嫌いで使えないといわれるたびに使えるようにしてきた証だ。
相手が何もいわなくなっても武器を使う特訓をするのは、自分が使えると思う水準まで上げたいからだ。その水準が高いといわれることがあるのは、高めで揃えておかないと色んな武器に手を出しているだけで使いこなせないとなりそうだからである。いつでもそれなりに使えて、好きなように使えるというのが好きなのだ。
俺が思うより強いようにいわれることもあるが、それは色眼鏡である。
『そのおかげでケースバイケースの引き出しが多い。愚直なまでに同じことを繰り返す。それは可能性を探す、成功確率、相手の出方を観察しているせいである。前線を走るより、前線を走っている人間の影に隠れてサポートをしているのもそれのせいだ。少し違うことがある、戦法の進化、退化を感じる時は試している、あるいは試した末に引き出しから出したケース』
よく観察してるなぁと感心しつつ、誤魔化すように緩く笑った。こんなに分析されるとなんだか恥ずかしい。
ツーシーはそんな急に笑い出した気持ち悪いオタクに気づかず話し続ける。
『これだけだと効率は悪そうであるが、引き出しに入れた戦略、方法は効率に振っている。無駄だと感じることがある時は先読みか試しているかのどちらか……』
そこで思考が途切れたのか、ウサギが顔を揺らし、遠くではなく俺を見る。
『でかい狩場にはあまり行かない理由は?』
「プレイヤー同士で争うのが面倒なのとマギに限りがあるからです」
淀みなく答えたが、話しかけられるとは思っていなかった。笑っている顔を隠すために口元を手で隠し『何故?』というように首を傾げる。好きなプレイヤーの好きなところが見えるトークをリアルタイムできけたオタクの気持ち悪い笑みは隠せただろうか。
『魔術をあまり使わない理由は?』
「……その場のマギを使用しないようにするため」
なお話しかけてくる様子を見て、俺はキモオタを隠せたということにした。ツーシーは集中してしまうと周りが見えないタイプで、今質問してきているのも俺から足りない情報を取ろうとしているだけで、実は思考が途切れた訳ではない。
だからといって視覚情報が取れていないわけではなく、ツーシーのようなタイプはぼんやりと見えている。見えていても思考がひとところに集中しているため、情報を理解できていないのだ。たまにあとになって『あれ、キモオタいたな?』と気がついてしまう。こういった場合はできるだけ情報を増やして些細なことにしてしまうのがベターである。
『もしそこに俺がいたら?』
「後衛なら補助と遠距離からの火力、妨害……ばら撒きは?」
他にも余計な情報を増やそうと思っていたら、ツーシーが自ら情報を増やしにきた。
俺の情報を得るだけなら、ツーシー自身が割り込む必要はない。そこに『魔術師がいたら?』と尋ねたらいい話である。ツーシーは『じゃあ、俺と一緒に戦うのならどうする?』と尋ねてきたわけだ。
俺はそれに質問を返した。
『それなら、たぶん……俺もディーサンのことは面白いと思ってい、マス』
こちらを見ているのに遠くを見つめているように感じるのは、おそらく今まで見てきた俺の記録を思い出しているせいだろう。
『ディーサンは手数が多くて堅実で効率的』
低くて落ち着いた音がその場に落ちる。
感情はなく冷たい響きであるが、過去の記録や自らの知識を照合しているように見えるため怖いとは思わない。
『まず得物が多い。極めることもないが飽き性な訳でもない。負けず嫌いなところはあるが、相手が負けたと思うまで執念を燃やすわけではなく、自分がある程度満足するまでやり込む。その水準は一般的に高いといわれるものである』
ツーシーのいうことは間違っていない。
色々な武器を使うのは負けず嫌いで使えないといわれるたびに使えるようにしてきた証だ。
相手が何もいわなくなっても武器を使う特訓をするのは、自分が使えると思う水準まで上げたいからだ。その水準が高いといわれることがあるのは、高めで揃えておかないと色んな武器に手を出しているだけで使いこなせないとなりそうだからである。いつでもそれなりに使えて、好きなように使えるというのが好きなのだ。
俺が思うより強いようにいわれることもあるが、それは色眼鏡である。
『そのおかげでケースバイケースの引き出しが多い。愚直なまでに同じことを繰り返す。それは可能性を探す、成功確率、相手の出方を観察しているせいである。前線を走るより、前線を走っている人間の影に隠れてサポートをしているのもそれのせいだ。少し違うことがある、戦法の進化、退化を感じる時は試している、あるいは試した末に引き出しから出したケース』
よく観察してるなぁと感心しつつ、誤魔化すように緩く笑った。こんなに分析されるとなんだか恥ずかしい。
ツーシーはそんな急に笑い出した気持ち悪いオタクに気づかず話し続ける。
『これだけだと効率は悪そうであるが、引き出しに入れた戦略、方法は効率に振っている。無駄だと感じることがある時は先読みか試しているかのどちらか……』
そこで思考が途切れたのか、ウサギが顔を揺らし、遠くではなく俺を見る。
『でかい狩場にはあまり行かない理由は?』
「プレイヤー同士で争うのが面倒なのとマギに限りがあるからです」
淀みなく答えたが、話しかけられるとは思っていなかった。笑っている顔を隠すために口元を手で隠し『何故?』というように首を傾げる。好きなプレイヤーの好きなところが見えるトークをリアルタイムできけたオタクの気持ち悪い笑みは隠せただろうか。
『魔術をあまり使わない理由は?』
「……その場のマギを使用しないようにするため」
なお話しかけてくる様子を見て、俺はキモオタを隠せたということにした。ツーシーは集中してしまうと周りが見えないタイプで、今質問してきているのも俺から足りない情報を取ろうとしているだけで、実は思考が途切れた訳ではない。
だからといって視覚情報が取れていないわけではなく、ツーシーのようなタイプはぼんやりと見えている。見えていても思考がひとところに集中しているため、情報を理解できていないのだ。たまにあとになって『あれ、キモオタいたな?』と気がついてしまう。こういった場合はできるだけ情報を増やして些細なことにしてしまうのがベターである。
『もしそこに俺がいたら?』
「後衛なら補助と遠距離からの火力、妨害……ばら撒きは?」
他にも余計な情報を増やそうと思っていたら、ツーシーが自ら情報を増やしにきた。
俺の情報を得るだけなら、ツーシー自身が割り込む必要はない。そこに『魔術師がいたら?』と尋ねたらいい話である。ツーシーは『じゃあ、俺と一緒に戦うのならどうする?』と尋ねてきたわけだ。
俺はそれに質問を返した。
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