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社畜時代の終わり 2
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ツーシーの手数の多さは魔術の巧みさから来ている。この魔術の巧みさは俺のプレイスタイル同様大変地味なものだ。何故なら魔術が誰でも扱える技術だからである。
もともと、魔法がない世界に急に発現した魔法をエネルギーとして使用するために魔術は作られた。不可能を可能にするというより不明なものを明瞭にするための技術である。
魔法は謎の多い力で、その謎を一つ解明するたびに魔術は発展していった。魔法を次代のエネルギーとして使いたかった当時の魔術開発チームは、魔法の謎を追うばかりでなく、魔法を使うための技術である魔術の基盤を確固たるものにしようとした。チームの研究者は魔術の基礎を学問とし広く伝えることを目指し、技術者は『誰でも使える技術』を目指したのだ。
その結果、魔術は誰でも使える便利なものになり、誰もが使える、恩恵を受けているからこそ魔術の最先端は非常に注目されている。
そんな魔術が巧みだということは、基礎ができていて、かつ、効率的で無駄がなく、発想が違うということだ。簡潔にいうと『大変地味だがやるな』である。地味なのは効率的で無駄な動きがないせいだし、やるなとわかるのは動きが小さいのに反して効果が絶大だからだ。たとえるなら隠し味みたいなものだ。
ツーシーが使う魔術は隠しているわけではないので、隠し味みたいに『この人の作るものは一味違うが何が違うかわからない』とはならない。けれど最新の家電を知らない人みたいな反応になる。
魔術を使われるまでは『そんなもんお前、他と一緒一緒』と笑っていた奴が魔術を使われた瞬間『やべー! なんかしらんがやべー! 何これやべー!』といいだす。何かわかっていないし、なんでヤバイことが起こっているか理解していないため、ツーシーの魔術だと気づかない奴までいる。だからツーシーは知る人ぞ知る『魔法使い』なのだ。
しかもツーシーときたら使える魔術が多く、何故か前衛を務めることもできる。それを見せた時は遠距離攻撃、サポートを得意とする魔術師なら後ろに下がっておけと大会配信のコメント欄が荒れた。本人も後日『疲れるからやだ』『魔術師って後ろにいるもんじゃん……』といっていたくらいだ。俺がどれだけ検索窓に色んな単語を並べてサーチし、しつこくツーシーの友人知人参加大会の配信を漁っても、ツーシーが前衛まで走ってきたのは二回だけだった。これで負けていたら期待されないのに、二回とも勝っているから困ったものだ。記録されている二回ともにコメント欄が荒れた。
そんなにできる魔術師だから立ち回りがよろしくない、くらいの可愛げがあってもいいと世間は思うものらしい。ツーシーが後ろでゴソゴソ働いている際、よく役に立たないとかぼんやり立っているだけというコメントを投げられている。腹が立つので大会の本配信はコメントをオフにしているのだが、この腹立たしいコメントは事実無根である。ツーシーは実に可愛い小動物の姿で可愛げのない、素晴らしい立ち回りをするのだ。前衛の邪魔にならない距離を保ち無駄に発光せず、声かけもしっかりとする。やたらと味方を庇い、残っていなければならない場面で落ちたりもしない。最高である。
せめて戦略など立てられない魔術師であれよと願う奴もいるようだが、勤勉で頭の回転も早く、後衛故の視野の広さまで備え持ち作戦立案もお手のもの……神様のお気に入りとして生まれたのだろうか。才能の部類を補って余りある努力が垣間見えることから、そんなことばですませるのは愚かの極みであるのだが、神々しさを感じてしまう。
オタクとして平伏しありがたさと尊さを表明したい次第だが、俺が『厄介』なのは自覚するところである。ツーシーに迷惑をかけないように、気持ち悪い思いをさせないために、腕を組むことでぐっと堪える。
『そんなに、すごくもないっすが』
謙遜するウサギは知らない。
俺がこの数秒間で考えた長くてしつこく味の濃い『ツーシー万歳』を知らないのだ。いや、知ってはならない。
俺は気持ち悪いことばが出ていかぬよう、一言だけで反論した。
「ソンナスゴイコトアルヨー!」
もともと、魔法がない世界に急に発現した魔法をエネルギーとして使用するために魔術は作られた。不可能を可能にするというより不明なものを明瞭にするための技術である。
魔法は謎の多い力で、その謎を一つ解明するたびに魔術は発展していった。魔法を次代のエネルギーとして使いたかった当時の魔術開発チームは、魔法の謎を追うばかりでなく、魔法を使うための技術である魔術の基盤を確固たるものにしようとした。チームの研究者は魔術の基礎を学問とし広く伝えることを目指し、技術者は『誰でも使える技術』を目指したのだ。
その結果、魔術は誰でも使える便利なものになり、誰もが使える、恩恵を受けているからこそ魔術の最先端は非常に注目されている。
そんな魔術が巧みだということは、基礎ができていて、かつ、効率的で無駄がなく、発想が違うということだ。簡潔にいうと『大変地味だがやるな』である。地味なのは効率的で無駄な動きがないせいだし、やるなとわかるのは動きが小さいのに反して効果が絶大だからだ。たとえるなら隠し味みたいなものだ。
ツーシーが使う魔術は隠しているわけではないので、隠し味みたいに『この人の作るものは一味違うが何が違うかわからない』とはならない。けれど最新の家電を知らない人みたいな反応になる。
魔術を使われるまでは『そんなもんお前、他と一緒一緒』と笑っていた奴が魔術を使われた瞬間『やべー! なんかしらんがやべー! 何これやべー!』といいだす。何かわかっていないし、なんでヤバイことが起こっているか理解していないため、ツーシーの魔術だと気づかない奴までいる。だからツーシーは知る人ぞ知る『魔法使い』なのだ。
しかもツーシーときたら使える魔術が多く、何故か前衛を務めることもできる。それを見せた時は遠距離攻撃、サポートを得意とする魔術師なら後ろに下がっておけと大会配信のコメント欄が荒れた。本人も後日『疲れるからやだ』『魔術師って後ろにいるもんじゃん……』といっていたくらいだ。俺がどれだけ検索窓に色んな単語を並べてサーチし、しつこくツーシーの友人知人参加大会の配信を漁っても、ツーシーが前衛まで走ってきたのは二回だけだった。これで負けていたら期待されないのに、二回とも勝っているから困ったものだ。記録されている二回ともにコメント欄が荒れた。
そんなにできる魔術師だから立ち回りがよろしくない、くらいの可愛げがあってもいいと世間は思うものらしい。ツーシーが後ろでゴソゴソ働いている際、よく役に立たないとかぼんやり立っているだけというコメントを投げられている。腹が立つので大会の本配信はコメントをオフにしているのだが、この腹立たしいコメントは事実無根である。ツーシーは実に可愛い小動物の姿で可愛げのない、素晴らしい立ち回りをするのだ。前衛の邪魔にならない距離を保ち無駄に発光せず、声かけもしっかりとする。やたらと味方を庇い、残っていなければならない場面で落ちたりもしない。最高である。
せめて戦略など立てられない魔術師であれよと願う奴もいるようだが、勤勉で頭の回転も早く、後衛故の視野の広さまで備え持ち作戦立案もお手のもの……神様のお気に入りとして生まれたのだろうか。才能の部類を補って余りある努力が垣間見えることから、そんなことばですませるのは愚かの極みであるのだが、神々しさを感じてしまう。
オタクとして平伏しありがたさと尊さを表明したい次第だが、俺が『厄介』なのは自覚するところである。ツーシーに迷惑をかけないように、気持ち悪い思いをさせないために、腕を組むことでぐっと堪える。
『そんなに、すごくもないっすが』
謙遜するウサギは知らない。
俺がこの数秒間で考えた長くてしつこく味の濃い『ツーシー万歳』を知らないのだ。いや、知ってはならない。
俺は気持ち悪いことばが出ていかぬよう、一言だけで反論した。
「ソンナスゴイコトアルヨー!」
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