溺愛ゲーマー

つる

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社畜時代の終わり 1

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 スライムは大変しぶとく繁殖能力が高い生き物だ。洞窟内のスライムをいくら燃やしても翌日には小川になって流れ出すほど増える。だが、特別栄養が高いものでもない限り半日は静かなものだ。
 そうはいってもツーシーは今見える範囲のスライムを燃やしただけなので、洞窟の奥から這いずってくるスライムはまだたくさん存在していた。
 故にスライムを狩り続けることはできる。しかしプロゲーマーになるのを頑張ると決めた今、スライムを狩り続けることに意味があるのか。
「スライム狩りながら洞窟を行ったり来たりできる実力ですよとお伝えしたかったんですが」
 この程度で示せる実力とは高が知れているし、大変地味である。けれど、地味なことこそ結構大事なものだ。
 先程、ツーシーが口を滑らせていった『運営万歳プレイヤー』という微妙な呼び名は、その地味な作業のせいで付いている。
 パラレルマギは魔法の恩恵を一番受けたゲームで、メインコンテンツはバトルロイヤルでもなければダンジョン攻略でもない。魔法を集めることだ。タイトルの『マギ』の部分は『魔法』という意味で付いており、プレイヤーは集めた魔法を魔術や金銭に換えることができる。
 これがゲーム内だけでなくリアルにも反映されるため、パラレルマギがリリースされた当初は色々と物議を醸した。
 開発者や運営いわく、パラレルマギはゲームだが並行世界の仮想空間でやっているそうで、プレイヤーにはばら撒かれてしまったマギ……魔法を集めてもらいたいんだとか。
 しかし、マギが魔術や金銭と交換できるとなると効率よく稼ぐ場所や大きな稼ぎがある場所に人が集まってしまう。そうなるとまんべんなくマギを集めてほしい運営の思惑と外れてしまうわけだ。
 それ故、あらゆるところで地道にマギを集める俺を『運営万歳プレイヤー』と皮肉り、それが定着してしまった……というのが、随分昔の話になる。今では皮肉というより伝説のような感じで、密やかに囁かれているらしい。昔からの友人達がニコニコしながら語ってくれた。
 そんなこんなで運営が喜んでしまうような働きが、この地味なプレイスタイルにはある。
 だからといって活躍しているわけではないし、強いということでもない。そう主張したかったわけだが……なんだか悲しい話である。
『あ、はい……見ました』
 先程気持ち悪い姿を見た上に切り替えが早過ぎてついていけない。しかも好きだといいつつ怒ったりしょげたりしてしまった。ツーシーにはそんな反省と気まずさがあるようだ。大変歯切れが悪く、敬語の他所他所しさがグレードアップしている。
「伝わっているようならよかったです。とにかくプレイスタイルは地味で、すごく強いというわけではないんです」
『……ディーサンのいう強いってどのプレイヤーなんすか』
 自分の実力を真摯に伝えたつもりだが、どうやらまだツーシーには伝わっていないらしい。俺の強さの基準を聞いてきた。
 確かに基準は大事である。周りのレベルが高すぎて自分のレベルを低く感じるなんてことはよくあることだ。
「そうですね……ノドさんは強いと思います。ツーシーさんも強いとは思いますが、どちらかというと面白いに分類されるなと思ってますよ」
 俺はオタクとして語彙力を失くしている部分があって、ついついツーシーを強いとか魔術がすごいとか好きだとか簡単なことばで表しがちだ。だが、落ち着いて言語化するともう少し違った感情やことばが出てくる。
『面白い……?』
「もし、この感覚が俺と一緒なら、ツーシーさんも俺には強さというより面白さを感じているのかもしれません」
 ウサギが首を傾げる姿はやはりあざとい。今すぐ一緒に首を傾げつつ鼻のあたりを撫でて幸せを噛みしめたいところだが、これは成人男性が変身した姿だ。会ったばかりの心も許していない成人男性にそのようなことをしたら、ただの変態である。
 俺は落ち着いて指を折る。
「大きくいって三つでしょうか。手数が多いこと。戦略の幅が広いこと。単純に『そうくるか!』という驚き……ですかね」
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