溺愛ゲーマー

つる

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社畜への扉 6

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『ハァ? 何いってんだ、あんた』
 またもや事実を述べたまでだが……こうして話してみると俺もツーシーも両想いだけれど、お互いの強さと憧れとオタク面からすれ違っている。これが俗にいう『両片想い』というやつだろうか。
 恋情も切なさもないというのにもどかしさでスライムを燃やし尽くしそうである。
「ツーシーさんの活躍が好きなんですよね」
『それ、幻覚っすよ』
 なかなか配信しない、動画だってあんまりない。ツーシーの様子をチェックするには大会公式チャンネルか、ツーシーのフレンドの動画を漁る必要がある。
 それでも大会や攻略でツーシーが活躍しなかったことなどない。たとえそれが地味で他人に見つからないものでも、活躍は活躍だ。本人が幻覚と称し、一歩引いて冷静になり敬語が戻ってきても、活躍しているとツーシーオタクは思う。
「それをいうのなら俺ができる奴なんてのは幻想ですよ」
『ハァ?』
 ウサギが低い声を出しこちらを睨む。お前こそ何をいっているだといわんばかりだ。
 もしかして出会ってはいけない一羽と一人だったのか。
 この世には好き過ぎて面倒臭い、厄介といわれる現象がある。好きすぎるが故の大きな感情、観察、推測、詳細の把握……好きでもなんでもない人間にとって情報過多で腹一杯な現象だ。
 俺とツーシーはおそらくそれに当たる。互いに厄介で面倒で、しかも好きな本人が好きだという人の話に見合っていない。
 俺は自然と眉間に皺が集まってくるのを感じながら、一つ息を吐く。
「……たぶん、長くなるならお話を続けたほうがいいんですが……俺としてはプロテストが終わるまであるいは大会一つ分のコンビだと思っているので、お互いそこには触れないで置きましょうか。平行線でしょうから」
 ツーシーが俺のことをパラレルマギプレイヤーとして好いていることを、俺は嫌というほど知っていた。心当たりのない賛辞を散々動画で見てきた。だから過分に褒められても、まだ落ち着いていられる。ツーシーがツーシー自身をどうでもいいように扱い、自己肯定感の低さから自身の活躍を認めなくとも、多少は我慢できた。
 けれど、ツーシーには俺の情報が少ないはずだ。
 俺は配信者ではないし、配信者の友達も少なく、映り込みも少ない。大会記録と最新攻略で見かける分の情報量しか持っていないだろう。
『確かに、まぁ……俺は働きたくねぇし、会社入るんだってあんたに会うのが条件で、プロになるんだって研究者になるかプロになるかの二択で、長くコンビなんて』
「ちょっと待ってください、なんか初耳の話が出てきました」
 またウサギが項垂れてしょんぼりし始めたが、俺はウサギに詰め寄りフライングディスクを掴んだ。
「働きたくないのはわかりますいってましたから。ですが会社に入るのに俺が必要でプロになるか研究者になるかとは?」
 目を見開き顔を近づけてきた俺に、しょんぼりウサギはフライングディスクの端に追い込まれつつボソボソと答えてくれた。
『プロにならないか勧誘受けてた時に、働きたくねぇからって会社に入る条件クソほどつけてて……そんなかの一つが、パラマギの運営万歳プレイヤー、ディーと一回ゲームすることで……うちはたくさん条件のみましたから、こちらかも条件出しますねって』
「その条件がまさか俺とコンビでプロなんですか?」
『コンビでプロになれたらプロゲーマー、なれなかったら研究者になる』
 俺はフライングディスクから手を離し、よろよろと後退りする。
「研究者になったら、ツーシーはこのゲームできるんですか……?」
 オタクとしてはかなり重大な問題だ。今までちょっとしかなかった供給が減るどころか無くなる可能性がある。ゲームを続けるか止めるか配信などをするかしないかなど、個人でやっているのだから自由にすればいい。俺も勝手にツーシーオタクをしている。だから、ツーシーの活動をとやかくいうべきではない。
 だが、何かいわずにいられない事柄だ。
『魔術の研究に専念することになる』
「嫌だ」
 正直な感想だった。だが、本人を前にいうことではない。俺は慌てて手を振り首を振る。
「あ、いや。違う、いや違いませんが、あの……そう、プロテスト! プロテスト頑張りましょう!」
 プロにさえなれば研究者にはならない。
 欲されて会社に属することはけして悪いことではないが、私欲を優先した俺は、気がつけばそんなことを口走っていた。
『うん……まぁ』
 俺のオタク仕草に理想の儚さを体感したのだろう。ウサギは歯切れの悪い肯定をして頷いた。
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