14 / 23
社畜への扉 6
しおりを挟む
『ハァ? 何いってんだ、あんた』
またもや事実を述べたまでだが……こうして話してみると俺もツーシーも両想いだけれど、お互いの強さと憧れとオタク面からすれ違っている。これが俗にいう『両片想い』というやつだろうか。
恋情も切なさもないというのにもどかしさでスライムを燃やし尽くしそうである。
「ツーシーさんの活躍が好きなんですよね」
『それ、幻覚っすよ』
なかなか配信しない、動画だってあんまりない。ツーシーの様子をチェックするには大会公式チャンネルか、ツーシーのフレンドの動画を漁る必要がある。
それでも大会や攻略でツーシーが活躍しなかったことなどない。たとえそれが地味で他人に見つからないものでも、活躍は活躍だ。本人が幻覚と称し、一歩引いて冷静になり敬語が戻ってきても、活躍しているとツーシーオタクは思う。
「それをいうのなら俺ができる奴なんてのは幻想ですよ」
『ハァ?』
ウサギが低い声を出しこちらを睨む。お前こそ何をいっているだといわんばかりだ。
もしかして出会ってはいけない一羽と一人だったのか。
この世には好き過ぎて面倒臭い、厄介といわれる現象がある。好きすぎるが故の大きな感情、観察、推測、詳細の把握……好きでもなんでもない人間にとって情報過多で腹一杯な現象だ。
俺とツーシーはおそらくそれに当たる。互いに厄介で面倒で、しかも好きな本人が好きだという人の話に見合っていない。
俺は自然と眉間に皺が集まってくるのを感じながら、一つ息を吐く。
「……たぶん、長くなるならお話を続けたほうがいいんですが……俺としてはプロテストが終わるまであるいは大会一つ分のコンビだと思っているので、お互いそこには触れないで置きましょうか。平行線でしょうから」
ツーシーが俺のことをパラレルマギプレイヤーとして好いていることを、俺は嫌というほど知っていた。心当たりのない賛辞を散々動画で見てきた。だから過分に褒められても、まだ落ち着いていられる。ツーシーがツーシー自身をどうでもいいように扱い、自己肯定感の低さから自身の活躍を認めなくとも、多少は我慢できた。
けれど、ツーシーには俺の情報が少ないはずだ。
俺は配信者ではないし、配信者の友達も少なく、映り込みも少ない。大会記録と最新攻略で見かける分の情報量しか持っていないだろう。
『確かに、まぁ……俺は働きたくねぇし、会社入るんだってあんたに会うのが条件で、プロになるんだって研究者になるかプロになるかの二択で、長くコンビなんて』
「ちょっと待ってください、なんか初耳の話が出てきました」
またウサギが項垂れてしょんぼりし始めたが、俺はウサギに詰め寄りフライングディスクを掴んだ。
「働きたくないのはわかりますいってましたから。ですが会社に入るのに俺が必要でプロになるか研究者になるかとは?」
目を見開き顔を近づけてきた俺に、しょんぼりウサギはフライングディスクの端に追い込まれつつボソボソと答えてくれた。
『プロにならないか勧誘受けてた時に、働きたくねぇからって会社に入る条件クソほどつけてて……そんなかの一つが、パラマギの運営万歳プレイヤー、ディーと一回ゲームすることで……うちはたくさん条件のみましたから、こちらかも条件出しますねって』
「その条件がまさか俺とコンビでプロなんですか?」
『コンビでプロになれたらプロゲーマー、なれなかったら研究者になる』
俺はフライングディスクから手を離し、よろよろと後退りする。
「研究者になったら、ツーシーはこのゲームできるんですか……?」
オタクとしてはかなり重大な問題だ。今までちょっとしかなかった供給が減るどころか無くなる可能性がある。ゲームを続けるか止めるか配信などをするかしないかなど、個人でやっているのだから自由にすればいい。俺も勝手にツーシーオタクをしている。だから、ツーシーの活動をとやかくいうべきではない。
だが、何かいわずにいられない事柄だ。
『魔術の研究に専念することになる』
「嫌だ」
正直な感想だった。だが、本人を前にいうことではない。俺は慌てて手を振り首を振る。
「あ、いや。違う、いや違いませんが、あの……そう、プロテスト! プロテスト頑張りましょう!」
プロにさえなれば研究者にはならない。
欲されて会社に属することはけして悪いことではないが、私欲を優先した俺は、気がつけばそんなことを口走っていた。
『うん……まぁ』
俺のオタク仕草に理想の儚さを体感したのだろう。ウサギは歯切れの悪い肯定をして頷いた。
またもや事実を述べたまでだが……こうして話してみると俺もツーシーも両想いだけれど、お互いの強さと憧れとオタク面からすれ違っている。これが俗にいう『両片想い』というやつだろうか。
恋情も切なさもないというのにもどかしさでスライムを燃やし尽くしそうである。
「ツーシーさんの活躍が好きなんですよね」
『それ、幻覚っすよ』
なかなか配信しない、動画だってあんまりない。ツーシーの様子をチェックするには大会公式チャンネルか、ツーシーのフレンドの動画を漁る必要がある。
それでも大会や攻略でツーシーが活躍しなかったことなどない。たとえそれが地味で他人に見つからないものでも、活躍は活躍だ。本人が幻覚と称し、一歩引いて冷静になり敬語が戻ってきても、活躍しているとツーシーオタクは思う。
「それをいうのなら俺ができる奴なんてのは幻想ですよ」
『ハァ?』
ウサギが低い声を出しこちらを睨む。お前こそ何をいっているだといわんばかりだ。
もしかして出会ってはいけない一羽と一人だったのか。
この世には好き過ぎて面倒臭い、厄介といわれる現象がある。好きすぎるが故の大きな感情、観察、推測、詳細の把握……好きでもなんでもない人間にとって情報過多で腹一杯な現象だ。
俺とツーシーはおそらくそれに当たる。互いに厄介で面倒で、しかも好きな本人が好きだという人の話に見合っていない。
俺は自然と眉間に皺が集まってくるのを感じながら、一つ息を吐く。
「……たぶん、長くなるならお話を続けたほうがいいんですが……俺としてはプロテストが終わるまであるいは大会一つ分のコンビだと思っているので、お互いそこには触れないで置きましょうか。平行線でしょうから」
ツーシーが俺のことをパラレルマギプレイヤーとして好いていることを、俺は嫌というほど知っていた。心当たりのない賛辞を散々動画で見てきた。だから過分に褒められても、まだ落ち着いていられる。ツーシーがツーシー自身をどうでもいいように扱い、自己肯定感の低さから自身の活躍を認めなくとも、多少は我慢できた。
けれど、ツーシーには俺の情報が少ないはずだ。
俺は配信者ではないし、配信者の友達も少なく、映り込みも少ない。大会記録と最新攻略で見かける分の情報量しか持っていないだろう。
『確かに、まぁ……俺は働きたくねぇし、会社入るんだってあんたに会うのが条件で、プロになるんだって研究者になるかプロになるかの二択で、長くコンビなんて』
「ちょっと待ってください、なんか初耳の話が出てきました」
またウサギが項垂れてしょんぼりし始めたが、俺はウサギに詰め寄りフライングディスクを掴んだ。
「働きたくないのはわかりますいってましたから。ですが会社に入るのに俺が必要でプロになるか研究者になるかとは?」
目を見開き顔を近づけてきた俺に、しょんぼりウサギはフライングディスクの端に追い込まれつつボソボソと答えてくれた。
『プロにならないか勧誘受けてた時に、働きたくねぇからって会社に入る条件クソほどつけてて……そんなかの一つが、パラマギの運営万歳プレイヤー、ディーと一回ゲームすることで……うちはたくさん条件のみましたから、こちらかも条件出しますねって』
「その条件がまさか俺とコンビでプロなんですか?」
『コンビでプロになれたらプロゲーマー、なれなかったら研究者になる』
俺はフライングディスクから手を離し、よろよろと後退りする。
「研究者になったら、ツーシーはこのゲームできるんですか……?」
オタクとしてはかなり重大な問題だ。今までちょっとしかなかった供給が減るどころか無くなる可能性がある。ゲームを続けるか止めるか配信などをするかしないかなど、個人でやっているのだから自由にすればいい。俺も勝手にツーシーオタクをしている。だから、ツーシーの活動をとやかくいうべきではない。
だが、何かいわずにいられない事柄だ。
『魔術の研究に専念することになる』
「嫌だ」
正直な感想だった。だが、本人を前にいうことではない。俺は慌てて手を振り首を振る。
「あ、いや。違う、いや違いませんが、あの……そう、プロテスト! プロテスト頑張りましょう!」
プロにさえなれば研究者にはならない。
欲されて会社に属することはけして悪いことではないが、私欲を優先した俺は、気がつけばそんなことを口走っていた。
『うん……まぁ』
俺のオタク仕草に理想の儚さを体感したのだろう。ウサギは歯切れの悪い肯定をして頷いた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楓の散る前に。
星未めう
BL
病弱な僕と働き者の弟。でも、血は繋がってない。
甘やかしたい、甘やかされてはいけない。
1人にしたくない、1人にならなくちゃいけない。
愛したい、愛されてはいけない。
はじめまして、星見めうと申します。普段は二次創作で活動しておりますが、このたび一次創作を始めるにあたってこちらのサイトを使用させていただくことになりました。話の中に体調不良表現が多く含まれます。嘔吐等も出てくると思うので苦手な方はプラウザバックよろしくお願いします。
ゆっくりゆるゆる更新になるかと思われます。ちょくちょくネタ等呟くかもしれないTwitterを貼っておきます。
星見めう https://twitter.com/hoshimimeu_00
普段は二次垢におりますのでもしご興味がありましたらその垢にリンクあります。
お気に入り、しおり、感想等ありがとうございます!ゆっくり更新ですが、これからもよろしくお願いします(*´˘`*)♡
今日も、俺の彼氏がかっこいい。
春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。
そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。
しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。
あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。
どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。
間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。
2021.07.15〜2021.07.16
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる