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社畜への扉 4
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『この洞窟も本当はこうやって焼いてしまうのが早いし楽だし、それが正攻法だからレベル高いやつか武器に相当積んだやつしかこれねぇの、あんた知ってる?』
知っているが、俺は武器に相当課金しているので真顔を作った。
『知ってるみてぇだけど、あんたが思ってるより高いからな』
俺がスン……とした顔になったせいでツーシーがいじけた声を出す。
成人男性がいじけて唇を尖らせていたら、俺もから笑いするだけだったが、なにせツーシーは小さな垂れ耳ウサギに変身している。低い声なのに可愛く見えて仕方ない。小動物ってずるいなと思いながら俺は岩から降りる。この辺りのスライム達が燃え尽きたのか、ツーシーがいじけてしまったせいか……潮が引いたように火の勢いがなくなっていたからだ。
『それにあんたはまだ、試してる』
ツーシーに近寄り、そんなことわかるんだと感心する。
この洞窟は最近解放されたものではなく随分昔に話題になったエリアで、ブラック会社に入る前から俺が頻繁に籠っていた。パラレルマギに復帰してからもかなり使っていて、俺の庭といってもいい場所でもある。
だから少し余裕があって、武器の装飾を増やしたときも新しい武器を手に入れたときも、試すのはここだ。
「いやでも」
しかしそれは俺が古参のプレイヤーで、この洞窟を多用しているからできることである。大したことではない。
『大したことあんだよ、あんたはすげぇの。俺はあんたがいなかったらパラマギでバトロイなんかしなかった……です』
思ったことをそのまま伝えようとすると、ツーシーが噛み付いてきた。
「大したことしてなかったと思うんですけど」
噛みつかれても事実を伝えることを諦めず、俺は首を捻る。動画でもそうだが先程からツーシーは俺を持ち上げてどうするつもりなのだろう。投げ銭くらいなら出すので早くライブ配信を開始して欲しい。
『……チョウラクノドカとやり合った時にあんた一人で落ちた』
ありがたさのあまりお布施がしたくなってきた俺を他所に、可愛いウサギから渋い声が出た。人は急に前触れもなくお布施をされたら驚くものだ。ツーシーはお布施の気配を察し、引いてしまったのかもしれない。
お布施から離れなければ……腕を組んで何度か首を捻り、俺は真面目なことを考えようとした。
そこで手を伸ばしてくれたのはノドカさんだ。
「チョウラク……ああ! あの時俺だけ落ちて笑われながらチームから追い出されたやつ」
チョウラクノドカとはチョウさん、ラークさん、ノドカさんの三人が組んだチームで、スリーマンセルのバトルロイヤルでは昔から大変有名である。
『あの時、チョウラクノドカの連中、あんただけは絶対落とすっていってた』
「あー、ノドさん達にはなんか気に入られてまして」
三人とは仲良くダンジョンに行ったりする友人であり、特にノドカさん……ノドさんとはリアルで飲みに行くような仲だ。ブラック会社に勤めていたときも三人から『早く会社辞めろ』といわれていた。いい奴らである。
『あんただけが怖いって』
「ボッコボコにしちゃった友人への配慮かな?」
『配慮なわけあるか! あるますか!』
怒ったりいじけたりしていたせいでツーシーから抜けていた敬語が勢いよく帰ってきた。勢いがよすぎて敬語というのもおこがましいことばになっているが、ウサギがいっているせいか微笑ましい。
「敬語、大丈夫ですよ。無理しないで」
『俺だって普通に敬いたい、ですが! あんたが、貴方様がっ』
知っているが、俺は武器に相当課金しているので真顔を作った。
『知ってるみてぇだけど、あんたが思ってるより高いからな』
俺がスン……とした顔になったせいでツーシーがいじけた声を出す。
成人男性がいじけて唇を尖らせていたら、俺もから笑いするだけだったが、なにせツーシーは小さな垂れ耳ウサギに変身している。低い声なのに可愛く見えて仕方ない。小動物ってずるいなと思いながら俺は岩から降りる。この辺りのスライム達が燃え尽きたのか、ツーシーがいじけてしまったせいか……潮が引いたように火の勢いがなくなっていたからだ。
『それにあんたはまだ、試してる』
ツーシーに近寄り、そんなことわかるんだと感心する。
この洞窟は最近解放されたものではなく随分昔に話題になったエリアで、ブラック会社に入る前から俺が頻繁に籠っていた。パラレルマギに復帰してからもかなり使っていて、俺の庭といってもいい場所でもある。
だから少し余裕があって、武器の装飾を増やしたときも新しい武器を手に入れたときも、試すのはここだ。
「いやでも」
しかしそれは俺が古参のプレイヤーで、この洞窟を多用しているからできることである。大したことではない。
『大したことあんだよ、あんたはすげぇの。俺はあんたがいなかったらパラマギでバトロイなんかしなかった……です』
思ったことをそのまま伝えようとすると、ツーシーが噛み付いてきた。
「大したことしてなかったと思うんですけど」
噛みつかれても事実を伝えることを諦めず、俺は首を捻る。動画でもそうだが先程からツーシーは俺を持ち上げてどうするつもりなのだろう。投げ銭くらいなら出すので早くライブ配信を開始して欲しい。
『……チョウラクノドカとやり合った時にあんた一人で落ちた』
ありがたさのあまりお布施がしたくなってきた俺を他所に、可愛いウサギから渋い声が出た。人は急に前触れもなくお布施をされたら驚くものだ。ツーシーはお布施の気配を察し、引いてしまったのかもしれない。
お布施から離れなければ……腕を組んで何度か首を捻り、俺は真面目なことを考えようとした。
そこで手を伸ばしてくれたのはノドカさんだ。
「チョウラク……ああ! あの時俺だけ落ちて笑われながらチームから追い出されたやつ」
チョウラクノドカとはチョウさん、ラークさん、ノドカさんの三人が組んだチームで、スリーマンセルのバトルロイヤルでは昔から大変有名である。
『あの時、チョウラクノドカの連中、あんただけは絶対落とすっていってた』
「あー、ノドさん達にはなんか気に入られてまして」
三人とは仲良くダンジョンに行ったりする友人であり、特にノドカさん……ノドさんとはリアルで飲みに行くような仲だ。ブラック会社に勤めていたときも三人から『早く会社辞めろ』といわれていた。いい奴らである。
『あんただけが怖いって』
「ボッコボコにしちゃった友人への配慮かな?」
『配慮なわけあるか! あるますか!』
怒ったりいじけたりしていたせいでツーシーから抜けていた敬語が勢いよく帰ってきた。勢いがよすぎて敬語というのもおこがましいことばになっているが、ウサギがいっているせいか微笑ましい。
「敬語、大丈夫ですよ。無理しないで」
『俺だって普通に敬いたい、ですが! あんたが、貴方様がっ』
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