溺愛ゲーマー

つる

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社畜への扉 3

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 半分くらいは本当のことだと思う。人によってはクソの役にも立たず、会社にとっては馬車馬にも歯車にもならない。ゲーム内では上手かったわけではなく、長く同じことをしても苦ではない気質が好まれただけだ。
「特別何かできたわけではないですからね」
 ツーシーは俺が俺のすべてを使うことを良しとしたが、果たしてそれが本当にいいことなのか。
 自分でいったのに、今更自信がない。
 ウサギは不満そうに前足をフライングディスクにぶつけて威嚇するように鼻を鳴らした。
「半分は難癖つけやがってと思ってます」
 人によってはクソの役にも立たないことは、その人向けの仕事サービスではないことが多々ある。会社はブラックだっただけで馬にも歯車にもなる必要がなかった。ゲームは上手いと敬われるが別に上手くなくてもいい。それにゲームが下手なわけではなく、俺には俺の役割があっただけ。
 そう考えながらも事実かいいわけかわからなくて、半信半疑になってしまう。
 だから、半分だけ。
 俺はまた誤魔化すために笑う。
 笑ったついでにウサギの様子を眺めると、その後ろに黒に近い灰色の蝙蝠が見え、俺は棒を傾け装飾に触れる。すると棒の先端から炎の弾が三つ出て蝙蝠を焦がした。
『全部難癖だと思っていきてくれ、さい』
 ウサギの不満が声に溢れており、俺はその場で反転し最後に迫っていたスライムの群れを蹴散らし、散らしきれなかったスライムの核をリズミカルに踏み潰す。
「それは流石に柄じゃないですねぇ」
 半分自分を疑うくらいが俺らしい。
 そうしてスライムを散らし終え、再び振り返るとウサギがメラメラと燃えていた。
『俺は正直悔しいんすよ』
 正しくは、ウサギのツーシーが乗ったフライングディスクの下にいるスライムがメラメラと燃え、俺がポカンと見つめている間にどんどん炎で炙られ燃え上がっていったのだ。ツーシーの不満や怒りが表面化したような炎だった。
『ディーサンはもっと崇め奉られていいんすから! 最新の技術を誰でもできるようにしてるだけで、なんでもできるけど極められない器用貧乏ってのはちげぇすから』
「いや、でも……誰でもできることですよ?」
 そんなすごいことした覚えはないが、自分がやりやすいように工夫し、他人にコツを教えたことある。ツーシーがいっていることがそれなら、心当たりがあった。たまにコツを教えた事柄がプレイヤー間に広がっていることがあるのだ。
 俺が教えたことが広がっていると考えると誇れそうなものだが、誰もができることを発見しただけであるし、俺以外が発見したことかもしれない。やはりここでも半分は疑っている。
『誰もできなかったことをできるようにしちゃってるのが、あんたなんすよ! 極めるのはいいことっす。でも、できることが沢山あるってことは選択肢があるってことで、誰もが手に取れるってのは次の技術への一歩で可能性なんすから』
 そんな後ろ向きな俺の思考を吹き飛ばすようにツーシーがペラペラと語り、話に熱が籠るのと同時にスライムの川が火の海になっていく。
 俺は急いでブーツの内側にある飾りボタンを割ると手近な岩に登り、踵を二回岩にぶつけた。そうすることによりブーツに仕込んでおいた魔術が発動し、岩から水が滲みだした。火の方が強くてわかりにくいのだが、足元をあっという間に水浸しにする魔術が仕込まれていたのだ。
『といっても、ないものは皆欲しいもんなんで……やっかみもあると思うんすよ、ディーサンの評価。馬鹿野郎も多いすけど……』
 俺が岩場に追い込まれたのを見て申し訳なくなったのか、ツーシーの声から覇気がなくなり、ことばの勢いもなくなった。
『それに誰の邪魔にならない動きって難しいっす。その上で何もしないわけじゃなくて、ちゃんと仕事してる……そもそもあんたサポートとかしてるから地味な働きしてるだけで、本当はできるんだよ、誰よりも……』
 動画でもちょいちょい見られるが、ツーシーは何故やたらと俺にデレるのだろう。可愛いけれど理解出来ない現象である。
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