溺愛ゲーマー

つる

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社畜への扉 2

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「はは、ご冗談を」
 本人といえどツーシーオタクを前にしていう冗談ではない。
 ツーシーといえばパラレルマギのプレイヤーの中でも異彩を放つ魔術師だ。
 まず小動物になって行動しようというのがおかしい。パラレルマギでは自分の姿を変えるには魔術やアイテムを駆使しなければならない。初期はキャラクリエイトできる鍵を買わなければ、ゲーム外のリアルな自分の姿になる。俺などほとんどクリエイトしないばっかりに高校生の頃の世慣れぬ姿のままだ。髪くらいは切ったが……まぁ、目の下真っ黒の覇気のない大人よりはマシかもしれない。
 兎にも角にもキャラクリエイトで小動物ということが尋常じゃない。人に使われるリソースを削り、小さな形になる。パラレルマギではかなり難しいことらしい。魔術的な云々かんぬんがどうのそうのと専門家が説明していた。高価な鍵を使ってもそうはならないそうだ。
 これだけでもツーシーが魔術師として優秀だということがわかるのだが、ツーシーはこれだけではない。
 実は最新の攻略組に混ざれるサポート上手でかつ、高火力のスペシャルな魔術師なのだ。
 こうなると『なんでもできるじゃん』となるわけだが、サポート上手というのはだいたい動きが地味で外から見ても分かりづらく、往々にしてわかる奴しかわからないとなりがちである。
 高火力魔術を使うなら目立つはずなのだが、本人があまり使いたがらない。そのせいであまり高火力魔術を使っている姿を見ないのだ。
 ツーシーはすごい。だが、地味で人に見られることがすくないせいで褒める人は極端に少ない。
『ディーさんに比べたら』
 だから本人にこのような悲しいことをいわせてしまうのだ。
 俺ならツーシーを褒めちぎって、自分のことのように自慢してもいいというのに。周りに『これだからツーシーオタクは』と嫌がられなければとっくにやっていた。
「またまたぁ」
 大体、俺がツーシーの比較対象になるのがおかしい。
 一番パラレルマギをプレイしていた時期でも、俺は大したことをしていなかった。最新攻略組にたまに加わり、主にバトロイに勝つためにマギを集め、マギを収集し、マギを回収する。同じことしかしていないわけだが、詰まるところマギ集めに奔走していたのだ。今とそれほどかわらない。変わったのは俺の実力とゲーム環境だ。
「昔から器用なだけで、たいしたことはできやしないって評判でしたからねぇ……もはや格が違うんですよねぇ」
 プロにならないかと勧誘を受け、ツーシーとゲームができるならと飛びついた。俺はツーシーとゲームができるなら、本当のところプロになれなくていい。プロになったら仕事がついてきて、ついでに金までもらえるからありがたいとは思う。
 けれど、俺の一番の目的はツーシーとゲームをすることだ。
 格が違い、プロになれず、ただ一度のチャンスであっても、『ツーシーとプロゲーマーになる』という大義のおかげで一緒にゲームができる。
 ツーシーに見合うプレイヤーではないというのに、ありがたいことだ。
『昔から思ってたが、ディーサンは一緒にプレイする人を選ぶべきだ。助っ人の時のが大事にされてたすよね』
 俺が心の中で感謝の雨を降らせているのも知らず、ツーシーが妙なことをいいだした。
「そこそこしか役に立てない上にマギが持ってこれなきゃ無能らしいので」
 マギを地道に集めるくらいしかできることがないというのが、かつてのパーティーメンバー及びチームメイトの評価だ。
 良くいえば様々な武器を使いこなし、魔術を適宜挟んで撹乱するサポートプレイヤー、悪くいえば器用貧乏の古兵である。昔とったなんとやらと一つを極められない浅く広い器用さしかない。
『それ、信じてねっすよね?』
 嫌そうな声が聞こえ、俺は思い切りスライムの核を踏み砕き、振り返りながら笑った。
「半分くらいは」
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