溺愛ゲーマー

つる

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マギトリ物語 3

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 ウサギの可愛さに笑み崩れてしまいそうな顔を引き締め、俺は口を開く。
「好きです」
『はい?』
 真面目な顔を頑張って保ったというのに、口は非常に正直だ。
 配信で炎上を擦られるたびに俺が大好きだとか、戦闘技能がどうだとか、絶対主役にしたいとか……ツーシーはずっといい続けてきた。
 ツーシーに興味を持ち、ありとあらゆる動画や配信を探し出した俺は、ファンとはいいづらいけどオタクになっていた上に、褒められたり好意を示されたりする度にツーシーが好きになっていたのである。
「あ、いや……好きなのは好きですが、深い意味はなく」
 見かけたら絶対声をかけてしまう存在だとか、見かけるだけで嬉しくなってしまう存在だとか……とにかくウキウキしてしまって仕方がない。これを好きだといわずしてなんとする。
 だが、ニヤける顔を引き締めながら思い余って『好き』ということを、先ほど知り合ったばかりの三十路手前の柄シャツがやたらと似合う怪しい男がニチャニチャウキウキしていたらどう思うだろう。良くいって『ニチャニチャするな』悪くいって『気持ち悪い』である。
 いくら俺が柄シャツが似合う怪しい人相のオタクであっても、特殊な性癖はない。好きな生き物に嫌われるのは普通に辛くて泣いてしまう。しかもこの前まで配信でデレていて、ついさっきも可愛いことをいってくれたのに、急に冷たくされてしまったら。
 恐ろしさのあまり、あくまで普通に、一般的な、人として『好き』なのだと主張する。
「好意的な人は大体、好きなので」
 ちょっと節操のないことばだろうか。考え過ぎなければ普通のことだと思う。しかし、ツーシーオタクがツーシー本人にいっていることばだと思うと、誤魔化しているとバレバレで何か考えたりいったりしておかないとどうにかなりそうというか……なんかもう、恥ずかしさで何処かに埋まりたい。
『あ、ああ、なるほど……そうだよな、うん』
 器用に頷いたウサギがなんだかしょんぼりして見えるのは、好きだとかいってた俺に対する何かしらが負の方向へと向かったせいだろう。端的にいえば『がっかり』だ。俺もせめて一日くらいは想像上のキラキラしたかっこいい技術屋お兄さんでありたかった。
 俺は残念な気持ちを隠し、目を細め、ツーシーに同意するようにうんうんと頷く。
「そうですそうです。この世には本人に悪意はなくてもこちらをズタズタにするという……この話、やめますね」
 社畜時代を思い出し、酷い上司の話をしようとして俺は口を噤む。ウサギがまた毛玉を用意し始めたからだ。
『パラマギにいねぇと思ったら……端々に見られるブラックとか……』
 ブツブツ独り言を呟いているつもりだろうが、俺のオタクイヤーはしっかりツーシーのことばを拾っていた。三十路手前の大人なので聞かなかったふりはできる。けれど素性を明かす……自己紹介の続きをした方がいいのではないか。そう思うと聞かなかったふりはできなかった。
「復帰するまではブラック会社に勤めていまして」
『ウワ……ってか、俺の声聞き取れるんだ……?』
「まぁ、色々……ありまして」
 ブラック会社を辞めてからハマったのがパラレルマギとツーシーだというだけの話だが、本人にいうのは些か恥ずかしい。
 俺はようやくテーブルの上に置かれているカフェメニューを手に取って、澄ました顔をした。
「今は会社も辞めて、見事なニートなので是非プロゲーマーになりたいんですよね」
『え、ブラックな会社辞めたのにまだ働くのか? ですか?』
 ツーシーからたまに敬語が抜けるのは俺が与える衝撃のせいか、それともツーシーが敬語に慣れていないのか。どちらでも可愛げがあっていいなと思うのは末期かも知れない。
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