溺愛ゲーマー

つる

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マギトリ物語 2

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 こうなってしまったからにはありがたく厚意を受け取った方がいい。俺は腕の辺りに溜まった毛玉を集め、その上にそっと手を置く。
「ラビットのフェイクファーだ……芸が細かい……」
 毛玉は触るとフワフワ、撫でると滑らか……シルクのようなと例えられるあの手触りだった。
『だろう? 俺の毛触りもそれにしてある……マス』
 ウサギがふふんと胸を張って得意げにいうのが可愛く、鷲掴みにしてわしゃわしゃと撫で回したい衝動に駆られる。しかし、ウサギは鷲掴みしていい生き物ではない。なんでもウサギは素早さに数値を振っているため、骨が脆いらしい。かつて癒しを求めて閲覧したサイトには『優しく撫でてあげてね』とあった。俺は小さき命に誠実でありたい。
 それに自己紹介したばかりの知り合って間もないやつが、ウサギに化けた人間を撫で回すのはどうなのか。
 俺は手を宙に彷徨わせて、衝動をなんとか逃した。
「それでっ、今日は、ですね……戦闘の相性を」
 手の動きが怪しくなってしまったのを誤魔化すように無理矢理話を戻す。無理矢理過ぎて声が上ずってしまい、少々恥ずかしい。
『アー……ソレ、なんですが。俺はディーサンのサポートにまわりたいんで、ディーサンのメイン武器とか』
 俺が必死に話を戻したことを察してか、少々気まずげにボソボソ早口でツーシーが呟く。俺はなかなかディープなツーシーオタクなので、このボソボソ早口を耳で捕らえ、しっかりとツーシーのことばを解明した。伊達に動画を探してきては聞き取り続けていない。
「メイン……最近一番使っているのは、棒ですね」
『弓ではなく?』
 俺を主役にしたいというだけある。ツーシーは昔の俺をよく知っているらしい。俺はここのところずっと気にしているツーシーに気にしてもらえていたという嬉しさでニヤニヤしそうになるのを耐え、至極真面目な顔を作った。
「昔はよく使ってましたねー懐かしい。前に出でも肉壁にもならねぇ! って怒られたなぁ……あれで盾覚えて前にも出られるようになったっけ」
 何故かウサギが多量の毛玉を空中から取り出して体当たりしては俺に転がしてくる。元社畜の癖が出ていたときも毛玉を用意されたのだが、もしかしてこれは憐れなエピソードだったのだろうか。俺にとっては『クソがよ』と思った懐かしいエピソードだったのだが……そうだとしたら、また気を遣われてるということか。
「気にしないでください。火力がないといわれては大剣を持ち、遅いといわれては短剣を持ち、距離が近すぎるといわれては槍を持った……負けず嫌いなんですよ。その癖、器用貧乏だからどれも極めるに至らなくて。今、棒を持ってるのは単に便利だからです」
 ウサギがこちらを見つめ一瞬動きを止めたあと、後ろ脚で地面をダンダン蹴りはじめた。何か悔しいことでもあったのだろうか。
『なら! 使いたい武器は何ですかっ』
 俺がきょとんとしていると、ウサギがネコの威嚇みたいな恰好で唸るように吐き出した。
 問われた俺は一瞬考え、眉を下げる。
 今までそんなことをいわれたことがなかった。
「すべて」
 少しの意地悪と大きな期待をその一言に詰め込んだ。 
「使いたいように使えるところで上手いこと」
 かなりわがままなことをいった。
 このわがままを通して俺が主役になるのか、それともどれかを選んで主役に据えるのか。
 俺を主役にしたいといったプレイヤー、ツーシーに興味があった。ツーシーの力で俺を素体に主役を作るのか、俺を手助けして主役にしてくれるのか……ずっと興味があったのだ。
『いいね』
 ウサギがぴすぴすと鼻を鳴らし、うろうろと机の上を歩いて最終的に俺がまとめておいた毛玉の山の隣に立つ。
『俺はさぁ……ディーサンが活躍する姿を見せびらかしたいんすよね。しかも、俺が相棒ならどうどうと自慢もできるんすよね。どうだ。これが俺の相棒だって。イイデショ?』
 こんな俺に都合よく、かわいい生き物がこの世に存在するとは……俺は気が付くと毛玉をモフモフしていた。ウサギ本体を撫でないよう、よくぞ耐えた。
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