溺愛ゲーマー

つる

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元社畜はプロゲーマーの夢を見るか? 3

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 とどのつまり、ツーシーとゲームができるならプロでもなんでもなるからお願いしますというわけだ。
「ありがとう、ございます……!」
 俺とツーシーが一緒にバトルロイヤルに参加するのは、コアなファンの中でも賛否が分かれる。それだというのに感極まったように拳を握ってスカウトマンは喜んだ。一緒になって喜びたい気持ちをグッと抑え、俺は俺の現状を思い、頭を振った。
「実際に会ったらがっかりとかあり得そうですが」
 課金で様々な問題はクリアしてあるが、最前線には程遠く、地道に草刈りをしているのが現状である。
 今だってスカウトマンがやってきたというのに草刈りをやめられない。
 つい先ほどまで揺れていた草が静かになり、俺は武器を持ち直す。スカウトマンがやってきたあたりから罠にかかるモンスターもこちらを警戒してあたりをグルグル回っていたようだが、心をきめたらしい。草の揺れが小さくなり、風が草を揺らす音と枯葉が地面を擦る音が僅かに聞こえた。
 今、こちらに這い寄っているのはおそらく、獲物を確認したら一度気配を消して獲物の様子を伺う習性がある『草枯れの蛇』だ。一見、木の葉を集めたような渋い緑の蛇なのだが、その正体は蛇に擬態した木の葉のマギの集まりがモンスターになったものだ。蛇のふりをしてこちらに襲い掛かってくるのだが、実際はそうではないので攻撃をするとばらばらになって逃げたり、攻撃の手数を増やすために分散する小狡さがある。
「いえ、そんな! 昔のご活躍、拝見いたしましたっ、素晴らしいサポートで……!」
 スカウトマンが大げさに手を振ると同時に、こちらに向かって飛び掛かってきた。
「ええ、だからがっかりすると思うんですよ。俺、サポートしかしてきませんでしたから」
 主役に……メインのアタッカーにしたいといってくれたが、ずっと縁の下の力持ちや器用貧乏の陥りやすい手数の多さで助力する形の戦闘しかしていない。
 そうした活躍を支えていた技術も随分鈍っていた。
 苦い思いを噛みしめつつ、もう一歩、斜め前へ足を踏み出し、持っていた武器……ロッドを一振りする。するとバチンッという音がして飛び掛かってきた蛇を雷の網で捕らえた。
「そんな見事に草枯れもさせずに捕まえておいて、ですか……?」
「課金の範疇ですから……」
 武器の装飾による魔術の行使……ようするに武器に課金してパワーアップした武器を使って簡単に草枯れの蛇を捕まえたのだ。
「いえ、でも……ロッドを虫捕り網になさる方はあまりいませんよ」
「見栄えが悪いですからね。おっしゃる通り虫捕り網ですから」
 効率を選ぶと魔術で作った虫取り編みが一番楽で早いのだが。
 俺はどう見ても虫取り編みにしか見えないロッドを揺すり、草枯れの蛇が網に絡まったのを確認するとロッドにはめ込んである青い宝石に触れた。それと同時に網の中で蛇の形をした木の葉が一瞬で黒い粉と淡い緑の光になる。それらの光は逃げるように網から抜け宙を漂ったが、ほどなく俺が腰にぶら下げていた鍵が光を吸収した。
「本物の網を使った方が安いのに、ロッドを装飾なさって効率を求める方は玄人だとおもうのですが……」
「たくさんいますよ。攻略サイトにも載ってますから」
 スカウトマンが胡乱な顔をしてこちらを見てきたが、俺は知らん顔でロッドをもう一振りする。雷の網は消え、何の変哲もない棒に戻ったところで俺はニコリと笑った。
「それで、特大の面倒な条件ってなんなんですか?」
「……もしかしてディーさん、ちょっといい性格なんですか?」
「さぁ、どうでしょう?」
 大げさに肩を落として見せたが……さほどじゃないと自負している。
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