商業ギルド支部長の恋人

つる

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追放の神子

我慢してもお前と帰れない 2

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「そりゃそうだが……そのままにしておいた方が」
 創造神ルクトルエナミスのいうことを聞くのも、一時的に一緒にいた元神子達が死ぬことも嫌だったが、そのままにしておけば浄化されて時間切れすることはない。人でなしのすることであってもその方が都合が良かった。
 しかしギゼラは首を振る。
「人が死ぬのは嫌、なんだろう?」
 ギゼラはシェルティオンがいう通りあまり人死にをどうこう思っておらず、親しい者達が傷つくのを厭うことはあっても、近所に住んでいて交流のない者程度の繋がりならば目の前で死んでも『死だんだな』と事実を確認する程度の反応しかない。
 もちろん、ギゼラがそのことについて他人に何かいったり素っ気ない反応を見せたりはしないのだが、一番傍にいるシェルティオンは別だ。こういったギゼラの反応を見て、稀に眉間に皺を寄せることがあった。
 そのギゼラが交流もない、顔も見ていない、話を少々聞いたくらいの元神子達の生死にこだわっている。これはとても珍しいことだ。
「……俺のせいか?」
 ギゼラとは逆にシェルティオンは人死にが苦手だ。少しでも関わった人間が死ねばあれこれ考え、交流がない人間でも目の前で死なれると精神的にも肉体的にも異常をきたす。他人より人の生き死にに関わっているため、表面を作ろうことも一時的に『死んだ』という事実を見なかったことにもできるが、それをしたあとの反動は酷い。
 それでもシェルティオンは人前で何もなかった風を装う上に、無理をしてでも普段通りの行動をする。ギゼラの前でもそうしていたが、一度もギゼラを誤魔化せたことはなかった。
「俺のためだ。ルティが苦しいのは辛い」
「そのことば、そっくりそのまま返す。お前が苦しいのも痛いのも辛いのも嫌だし、いなくなんのはもっと嫌だ」
 シェルティオンは恋人の選択を申し訳ないと思うと同時に、ありがたいとも嬉しいとも思う。だが、そうすることでギゼラが死んでしまうのではないかという絶望に似た不安に襲われる。
 ギゼラの行動と言動に複雑な気持ちが渦巻き、どうしていいかわからず、シェルティオンは苦々しく吐き捨てるしかなかった。
「そうか……俺もルティがいなくなるのは嫌だ。だが、今は……少し楽天的に考える。まだ、大丈夫だ」
 呪術を使った負荷で少々身体が傷んだだけ。元神子達も死んでいない。まだ完全にボスになっているわけではないし、元神子達を説得できれば協力し合うことだってできる。
 つまり、ギゼラはまだ元神子達を説得できる余地があるというのだ。
 だが、そう考えるのは楽天的である。
 シェルティオンが元神子達が死んでしまった方が都合がいいと暗にいったように、元神子達もギゼラをボス化させて瘴気発生源に蓋をして、漂う瘴気を浄化した方が簡単だ。
 だからどうしてもシェルティオンは楽天的になれない。
「元神子様はドライだって聞いてんだけど」
「愛し子は神々が愛している子というだけで、慈悲深さや善良さ、正義感が必ずあるわけではない。元神子殿もそうなのかもしれない」
 ギゼラのいう通りならば、ギゼラは切って捨てられる存在だ。特別な正義感などがなくても人死には避けるものであるが、そうできないときもある。大勢を救うために少数を見捨てる選択を迫られる時があるのだ。
 そういった決断を迫られないようにするのが最善であり、迫られたときも最後まで考え抜き悩み最良を選び取るというのが一般的である。
 しかし決断の速度によって結果が変わるとわかっているなら、悩んでいる暇はない。
 現状を鑑みるに悩む暇はない段階であるとシェルティオンは判断する。
「そう思うなら」
 シェルティオンの顔が曇った。今更いったところで助けた後である。今すべきことはエディンドルを置いて呪術が切れるまでの間にこの場を離れることだ。
 だがギゼラはそれにも首を振る。
「ルティ。あの愛し子殿は神を罵っていた」
 まだジタバタと蜘蛛の巣の中で暴れている元神子達に二人同時に目を向けた。
 元神子は『クソ、あのクソ女神! 本当……ッ!』と神を罵り続け、エディンドルは蜘蛛の巣の近くで『それはとりあえず置いといて落ち着こう! 暴れたらまじぃんじゃねぇーの? 千切れるって!』とおろおろ歩き回り辺りを見回しては他の緩衝材を探している。
「神に思うことがある愛し子は多い。勝手に愛されているという者も少なくない。あの愛し子がそうならば」
 もしもギゼラがいうように元神子が神に思うことがあるのならば、シェルティオンは元神子にいえることがあった。シェルティオンも神に思うところがあるからだ。
「……交渉ができるかもしれねぇな」
 覚悟を決めたようにシェルティオンが頷くと、ギゼラは指を鳴らす。
 そうすると元神子達を捕らえている蜘蛛の巣が伸び、細くなって千切れた。
 エディンドルが焦ってことばにならぬ悲鳴を上げたが、蜘蛛の巣が伸びて千切れたおかげで元神子達はそれほど高い位置から落ちていない。一言もことばを発さず静かにしていた聖騎士が上手くすれば尻もちもつかずに着地できるだろう。
「なら決まりだ。元神子達をちゃんと助けるとしよう」
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