35 / 42
追放の神子
我慢してもお前と帰れない 2
しおりを挟む
「そりゃそうだが……そのままにしておいた方が」
創造神ルクトルエナミスのいうことを聞くのも、一時的に一緒にいた元神子達が死ぬことも嫌だったが、そのままにしておけば浄化されて時間切れすることはない。人でなしのすることであってもその方が都合が良かった。
しかしギゼラは首を振る。
「人が死ぬのは嫌、なんだろう?」
ギゼラはシェルティオンがいう通りあまり人死にをどうこう思っておらず、親しい者達が傷つくのを厭うことはあっても、近所に住んでいて交流のない者程度の繋がりならば目の前で死んでも『死だんだな』と事実を確認する程度の反応しかない。
もちろん、ギゼラがそのことについて他人に何かいったり素っ気ない反応を見せたりはしないのだが、一番傍にいるシェルティオンは別だ。こういったギゼラの反応を見て、稀に眉間に皺を寄せることがあった。
そのギゼラが交流もない、顔も見ていない、話を少々聞いたくらいの元神子達の生死にこだわっている。これはとても珍しいことだ。
「……俺のせいか?」
ギゼラとは逆にシェルティオンは人死にが苦手だ。少しでも関わった人間が死ねばあれこれ考え、交流がない人間でも目の前で死なれると精神的にも肉体的にも異常をきたす。他人より人の生き死にに関わっているため、表面を作ろうことも一時的に『死んだ』という事実を見なかったことにもできるが、それをしたあとの反動は酷い。
それでもシェルティオンは人前で何もなかった風を装う上に、無理をしてでも普段通りの行動をする。ギゼラの前でもそうしていたが、一度もギゼラを誤魔化せたことはなかった。
「俺のためだ。ルティが苦しいのは辛い」
「そのことば、そっくりそのまま返す。お前が苦しいのも痛いのも辛いのも嫌だし、いなくなんのはもっと嫌だ」
シェルティオンは恋人の選択を申し訳ないと思うと同時に、ありがたいとも嬉しいとも思う。だが、そうすることでギゼラが死んでしまうのではないかという絶望に似た不安に襲われる。
ギゼラの行動と言動に複雑な気持ちが渦巻き、どうしていいかわからず、シェルティオンは苦々しく吐き捨てるしかなかった。
「そうか……俺もルティがいなくなるのは嫌だ。だが、今は……少し楽天的に考える。まだ、大丈夫だ」
呪術を使った負荷で少々身体が傷んだだけ。元神子達も死んでいない。まだ完全にボスになっているわけではないし、元神子達を説得できれば協力し合うことだってできる。
つまり、ギゼラはまだ元神子達を説得できる余地があるというのだ。
だが、そう考えるのは楽天的である。
シェルティオンが元神子達が死んでしまった方が都合がいいと暗にいったように、元神子達もギゼラをボス化させて瘴気発生源に蓋をして、漂う瘴気を浄化した方が簡単だ。
だからどうしてもシェルティオンは楽天的になれない。
「元神子様はドライだって聞いてんだけど」
「愛し子は神々が愛している子というだけで、慈悲深さや善良さ、正義感が必ずあるわけではない。元神子殿もそうなのかもしれない」
ギゼラのいう通りならば、ギゼラは切って捨てられる存在だ。特別な正義感などがなくても人死には避けるものであるが、そうできないときもある。大勢を救うために少数を見捨てる選択を迫られる時があるのだ。
そういった決断を迫られないようにするのが最善であり、迫られたときも最後まで考え抜き悩み最良を選び取るというのが一般的である。
しかし決断の速度によって結果が変わるとわかっているなら、悩んでいる暇はない。
現状を鑑みるに悩む暇はない段階であるとシェルティオンは判断する。
「そう思うなら」
シェルティオンの顔が曇った。今更いったところで助けた後である。今すべきことはエディンドルを置いて呪術が切れるまでの間にこの場を離れることだ。
だがギゼラはそれにも首を振る。
「ルティ。あの愛し子殿は神を罵っていた」
まだジタバタと蜘蛛の巣の中で暴れている元神子達に二人同時に目を向けた。
元神子は『クソ、あのクソ女神! 本当……ッ!』と神を罵り続け、エディンドルは蜘蛛の巣の近くで『それはとりあえず置いといて落ち着こう! 暴れたらまじぃんじゃねぇーの? 千切れるって!』とおろおろ歩き回り辺りを見回しては他の緩衝材を探している。
「神に思うことがある愛し子は多い。勝手に愛されているという者も少なくない。あの愛し子がそうならば」
もしもギゼラがいうように元神子が神に思うことがあるのならば、シェルティオンは元神子にいえることがあった。シェルティオンも神に思うところがあるからだ。
「……交渉ができるかもしれねぇな」
覚悟を決めたようにシェルティオンが頷くと、ギゼラは指を鳴らす。
そうすると元神子達を捕らえている蜘蛛の巣が伸び、細くなって千切れた。
エディンドルが焦ってことばにならぬ悲鳴を上げたが、蜘蛛の巣が伸びて千切れたおかげで元神子達はそれほど高い位置から落ちていない。一言もことばを発さず静かにしていた聖騎士が上手くすれば尻もちもつかずに着地できるだろう。
「なら決まりだ。元神子達をちゃんと助けるとしよう」
創造神ルクトルエナミスのいうことを聞くのも、一時的に一緒にいた元神子達が死ぬことも嫌だったが、そのままにしておけば浄化されて時間切れすることはない。人でなしのすることであってもその方が都合が良かった。
しかしギゼラは首を振る。
「人が死ぬのは嫌、なんだろう?」
ギゼラはシェルティオンがいう通りあまり人死にをどうこう思っておらず、親しい者達が傷つくのを厭うことはあっても、近所に住んでいて交流のない者程度の繋がりならば目の前で死んでも『死だんだな』と事実を確認する程度の反応しかない。
もちろん、ギゼラがそのことについて他人に何かいったり素っ気ない反応を見せたりはしないのだが、一番傍にいるシェルティオンは別だ。こういったギゼラの反応を見て、稀に眉間に皺を寄せることがあった。
そのギゼラが交流もない、顔も見ていない、話を少々聞いたくらいの元神子達の生死にこだわっている。これはとても珍しいことだ。
「……俺のせいか?」
ギゼラとは逆にシェルティオンは人死にが苦手だ。少しでも関わった人間が死ねばあれこれ考え、交流がない人間でも目の前で死なれると精神的にも肉体的にも異常をきたす。他人より人の生き死にに関わっているため、表面を作ろうことも一時的に『死んだ』という事実を見なかったことにもできるが、それをしたあとの反動は酷い。
それでもシェルティオンは人前で何もなかった風を装う上に、無理をしてでも普段通りの行動をする。ギゼラの前でもそうしていたが、一度もギゼラを誤魔化せたことはなかった。
「俺のためだ。ルティが苦しいのは辛い」
「そのことば、そっくりそのまま返す。お前が苦しいのも痛いのも辛いのも嫌だし、いなくなんのはもっと嫌だ」
シェルティオンは恋人の選択を申し訳ないと思うと同時に、ありがたいとも嬉しいとも思う。だが、そうすることでギゼラが死んでしまうのではないかという絶望に似た不安に襲われる。
ギゼラの行動と言動に複雑な気持ちが渦巻き、どうしていいかわからず、シェルティオンは苦々しく吐き捨てるしかなかった。
「そうか……俺もルティがいなくなるのは嫌だ。だが、今は……少し楽天的に考える。まだ、大丈夫だ」
呪術を使った負荷で少々身体が傷んだだけ。元神子達も死んでいない。まだ完全にボスになっているわけではないし、元神子達を説得できれば協力し合うことだってできる。
つまり、ギゼラはまだ元神子達を説得できる余地があるというのだ。
だが、そう考えるのは楽天的である。
シェルティオンが元神子達が死んでしまった方が都合がいいと暗にいったように、元神子達もギゼラをボス化させて瘴気発生源に蓋をして、漂う瘴気を浄化した方が簡単だ。
だからどうしてもシェルティオンは楽天的になれない。
「元神子様はドライだって聞いてんだけど」
「愛し子は神々が愛している子というだけで、慈悲深さや善良さ、正義感が必ずあるわけではない。元神子殿もそうなのかもしれない」
ギゼラのいう通りならば、ギゼラは切って捨てられる存在だ。特別な正義感などがなくても人死には避けるものであるが、そうできないときもある。大勢を救うために少数を見捨てる選択を迫られる時があるのだ。
そういった決断を迫られないようにするのが最善であり、迫られたときも最後まで考え抜き悩み最良を選び取るというのが一般的である。
しかし決断の速度によって結果が変わるとわかっているなら、悩んでいる暇はない。
現状を鑑みるに悩む暇はない段階であるとシェルティオンは判断する。
「そう思うなら」
シェルティオンの顔が曇った。今更いったところで助けた後である。今すべきことはエディンドルを置いて呪術が切れるまでの間にこの場を離れることだ。
だがギゼラはそれにも首を振る。
「ルティ。あの愛し子殿は神を罵っていた」
まだジタバタと蜘蛛の巣の中で暴れている元神子達に二人同時に目を向けた。
元神子は『クソ、あのクソ女神! 本当……ッ!』と神を罵り続け、エディンドルは蜘蛛の巣の近くで『それはとりあえず置いといて落ち着こう! 暴れたらまじぃんじゃねぇーの? 千切れるって!』とおろおろ歩き回り辺りを見回しては他の緩衝材を探している。
「神に思うことがある愛し子は多い。勝手に愛されているという者も少なくない。あの愛し子がそうならば」
もしもギゼラがいうように元神子が神に思うことがあるのならば、シェルティオンは元神子にいえることがあった。シェルティオンも神に思うところがあるからだ。
「……交渉ができるかもしれねぇな」
覚悟を決めたようにシェルティオンが頷くと、ギゼラは指を鳴らす。
そうすると元神子達を捕らえている蜘蛛の巣が伸び、細くなって千切れた。
エディンドルが焦ってことばにならぬ悲鳴を上げたが、蜘蛛の巣が伸びて千切れたおかげで元神子達はそれほど高い位置から落ちていない。一言もことばを発さず静かにしていた聖騎士が上手くすれば尻もちもつかずに着地できるだろう。
「なら決まりだ。元神子達をちゃんと助けるとしよう」
1
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ムッツリ眼鏡、転生したらモブのボスになりました(汗)
狼蝶
BL
モブおじさんになりたい自称ムッツリ眼鏡、青津。彼は自転車通学中に交通事故に遭い、最近ハマっていた『モブ族の逆襲』という漫画のしかもモブ族の長に転生してしまっていた!!
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる