Game is Life

つる

文字の大きさ
上 下
3 / 11
あんたがいればそれでいい

せっかちなメイプルシロップ

しおりを挟む
 ひき逃げ事故から三ヶ月。
 骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。

 事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
 詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
 
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。

 
 療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。

 
 女は夢を見る。

 友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
 何人か、こちらをチラチラと見てきた。
 こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
 そう友人たちに伝える。 
 
 
 体を揺すられ、女は目を覚ました。
 講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
 その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
 少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
 
 女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。

「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」

 さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
 友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。

 どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
 
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
 
 女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
 女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。

 七人になった集団で食堂へ向かう。
 女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。

(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)

 夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。

(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)

 痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
 すると、前を歩いている友人が振り向いた。

「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」

 さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。

 女の頭に強い痛みが走る。
 夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
 その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
 
 女は思わず顔をしかめた。
 その反応に友人たちに緊張が走る。
 一瞬、沈黙が空間を支配した。
 
 すぐに女は自身の失態に気づく。

「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」 

 だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。

 その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
 
 そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中
BL
「サトシ!オレ、こないだ受けた乙女ゲームのイーサ役に受かったみたいなんだ!」  その言葉に、俺は絶句した。 落選続きの声優志望の俺、仲本聡志。 今回落とされたのは乙女ゲーム「セブンスナイト4」の国王「イーサ」役だった。 どうやら、受かったのはともに声優を目指していた幼馴染、山吹金弥“らしい”  また選ばれなかった。 俺はやけ酒による泥酔の末、足を滑らせて橋から川に落ちてしまう。 そして、目覚めると、そこはオーディションで落とされた乙女ゲームの世界だった。 しかし、この世界は俺の知っている「セブンスナイト4」とは少し違う。 イーサは「国王」ではなく、王位継承権を剥奪されかけた「引きこもり王子」で、長い間引きこもり生活をしているらしい。 部屋から一切出てこないイーサ王子は、その姿も声も謎のまま。  イーサ、お前はどんな声をしているんだ?  金弥、お前は本当にイーサ役に受かったのか? そんな中、一般兵士として雇われた俺に課せられた仕事は、出世街道から外れたイーサ王子の部屋守だった。

処理中です...