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あんたがいればそれでいい
お疲れコーヒー
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定住というほどではないが、すっかり一部の品々に俺の匂いが染み付いた安心する部屋が出来上がった頃だ。ロドナークはようやく自分の部屋に帰ってきて、俺の顔を見て『ああ』と呟いた。
「遊び歩きもせず待ってたのになぁ?」
自称クソ野郎らしい反応に楽しくなって口を尖らせてみる。するとロドナークはすっかり俺の巣と化していたソファから布団や衣類を落として座った。
「クソ野郎に期待はするな。お得意のフリースタイルはどうしたんだ?」
初めて会話をしたときより色濃い疲れが見える。目の下のクマは濃く、目つきも悪く、困ったように下がっている眉尻に反して表情があまりに険しい。
「確かにな。しかしまたお疲れだな。コーヒーでもいるか?」
コーヒーショップでコーヒーに砂糖が溶けないほどいれてかき混ぜていたことを思いだし、嫌味がわりにいってみる。するとロドナークは鼻で笑った。酷い態度だが、当初の目的であるクソ野郎さを確かめられて俺は楽しくて仕方ない。
「といっても粉の在処も分からねぇんだが」
わざと肩を落としてオーバーリアクションをしてやると、ロドナークはずるずるとソファへと身を横たえ、顔を腕で隠した。
「……まぎれもないクソ野郎だな、おれもあんたも」
このお疲れで余裕のまったくない状態のロドナークを煽るのは確かにクソ野郎の所業だ。苛立って怒鳴り散らされても仕方ない。しかしそれをしない理性があるだけ、ロドナークはいい奴なんだろう。
「そのために滞在したからなぁ? それで。その状態でどちらがよりクソ野郎か証明は出来そうにねぇよな」
もう少しベッドは俺のものにしてもいいかと尋ねる前に、ロドナークは俺に手を伸ばした。眠さのあまり俺に届かず、ただの俺の方に伸ばされただけの手に俺は自ら捕まる。ロドナークがどうしたかったか知りたかったのだ。
「……もっとちかく」
「近くったって……ジーンズ掴んでんだぜ、充分近いだろ」
「もっと」
眠そうにもっとと強請られ、ロドナークの手をジーンズから離し俺の手を握らせしゃがみ込んでやる。
「かお」
「顔?」
もはやおねだりの体もなさなくなった一言に従い、顔を寄せてやると起きているのも辛そうなふわふわした声が落とされた。
「かお、このみ」
「何いってんだ」
正直な感想だ。クソ野郎かどうかの証明にもならない話に、俺も鼻で笑う。顔が好みだからどうしたというのだ。
「おきたら、こな……いれ」
そのことばを最後に、ロドナークは眠りについた。
「もう少しここに滞在してもいいってことでいいのかね?」
答えを知るロドナークはすでに寝ている。答えは返ってこない。だが、おそらく大丈夫だろう。
「粉ってのがコーヒーなら、まぁ……どこにあるかわかんねぇけど、淹れてくれそうだし」
一通り家探しをして快適に過ごしている俺は、未だこの部屋にインスタントコーヒーの粉を見たことがない。家主がコーヒーをいれるというのだから、何処かに隠しているのか切らしているのだろう。
「どっちでもいいんだよ、俺は今日も誰かひっかける必要ねぇし」
俺は第二の巣、ベッドルームへ移動した。起きたら声くらいかけるだろうと思っての行動だ。
しかしこの後ロドナークは俺に声もかけず、インスタントコーヒーの粉が入ったスティックを数本ダイニングテーブルに置き姿を消した。顔が好みとかいっちゃったの恥ずかしくてなと後々いいわけをしていたが、仕事に行ったことはわかっていた。何故ならコーヒーショップの店員がコーヒー豆を配達してくれたからだ。
「ロドナークさん、おやすみ以外はお部屋にいらっしゃらないのでチャイムは一応鳴らしていつもポストに突っ込むんですよ」
毎回豆の状態が心配だったという店員から豆を受け取り、俺は決意した。
「豆からコーヒーいれさせてやろう」
その日から数日、やはりロドナークは帰ってこなかった。
「遊び歩きもせず待ってたのになぁ?」
自称クソ野郎らしい反応に楽しくなって口を尖らせてみる。するとロドナークはすっかり俺の巣と化していたソファから布団や衣類を落として座った。
「クソ野郎に期待はするな。お得意のフリースタイルはどうしたんだ?」
初めて会話をしたときより色濃い疲れが見える。目の下のクマは濃く、目つきも悪く、困ったように下がっている眉尻に反して表情があまりに険しい。
「確かにな。しかしまたお疲れだな。コーヒーでもいるか?」
コーヒーショップでコーヒーに砂糖が溶けないほどいれてかき混ぜていたことを思いだし、嫌味がわりにいってみる。するとロドナークは鼻で笑った。酷い態度だが、当初の目的であるクソ野郎さを確かめられて俺は楽しくて仕方ない。
「といっても粉の在処も分からねぇんだが」
わざと肩を落としてオーバーリアクションをしてやると、ロドナークはずるずるとソファへと身を横たえ、顔を腕で隠した。
「……まぎれもないクソ野郎だな、おれもあんたも」
このお疲れで余裕のまったくない状態のロドナークを煽るのは確かにクソ野郎の所業だ。苛立って怒鳴り散らされても仕方ない。しかしそれをしない理性があるだけ、ロドナークはいい奴なんだろう。
「そのために滞在したからなぁ? それで。その状態でどちらがよりクソ野郎か証明は出来そうにねぇよな」
もう少しベッドは俺のものにしてもいいかと尋ねる前に、ロドナークは俺に手を伸ばした。眠さのあまり俺に届かず、ただの俺の方に伸ばされただけの手に俺は自ら捕まる。ロドナークがどうしたかったか知りたかったのだ。
「……もっとちかく」
「近くったって……ジーンズ掴んでんだぜ、充分近いだろ」
「もっと」
眠そうにもっとと強請られ、ロドナークの手をジーンズから離し俺の手を握らせしゃがみ込んでやる。
「かお」
「顔?」
もはやおねだりの体もなさなくなった一言に従い、顔を寄せてやると起きているのも辛そうなふわふわした声が落とされた。
「かお、このみ」
「何いってんだ」
正直な感想だ。クソ野郎かどうかの証明にもならない話に、俺も鼻で笑う。顔が好みだからどうしたというのだ。
「おきたら、こな……いれ」
そのことばを最後に、ロドナークは眠りについた。
「もう少しここに滞在してもいいってことでいいのかね?」
答えを知るロドナークはすでに寝ている。答えは返ってこない。だが、おそらく大丈夫だろう。
「粉ってのがコーヒーなら、まぁ……どこにあるかわかんねぇけど、淹れてくれそうだし」
一通り家探しをして快適に過ごしている俺は、未だこの部屋にインスタントコーヒーの粉を見たことがない。家主がコーヒーをいれるというのだから、何処かに隠しているのか切らしているのだろう。
「どっちでもいいんだよ、俺は今日も誰かひっかける必要ねぇし」
俺は第二の巣、ベッドルームへ移動した。起きたら声くらいかけるだろうと思っての行動だ。
しかしこの後ロドナークは俺に声もかけず、インスタントコーヒーの粉が入ったスティックを数本ダイニングテーブルに置き姿を消した。顔が好みとかいっちゃったの恥ずかしくてなと後々いいわけをしていたが、仕事に行ったことはわかっていた。何故ならコーヒーショップの店員がコーヒー豆を配達してくれたからだ。
「ロドナークさん、おやすみ以外はお部屋にいらっしゃらないのでチャイムは一応鳴らしていつもポストに突っ込むんですよ」
毎回豆の状態が心配だったという店員から豆を受け取り、俺は決意した。
「豆からコーヒーいれさせてやろう」
その日から数日、やはりロドナークは帰ってこなかった。
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