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第6話 テロリストの正体
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「おい、皆既日食が起こるの、何時か知ってるか。午後三時二十分だ。いいか、一分でも遅れちゃいけねえ。一秒でも遅れちゃいけねえ。これを逃すと、次見れる頃には、みんなジジイになってるからなあ」
俺は、黒板に両手をついて剥き出しになった尻を突き出し、ケツの穴を鉛筆の先でほじくり回されながら、飯伏の戯言をぼうっと耳にしていた。
なんでこいつは、こんなに皆既日食に執着しているのだ?
たしかに、物理の教師は今日の皆既日食をやけに楽しみにしていて、顔をホクホクさせながら、みんなで皆既日食を観察する会、とかいう催しまで計画している。
加えて、俺のクラスの教室の中は、皆既日食の話題で、すっかり占領されてしまっていた。
クラスメイトの思考をハッキングして、取り扱われる話題を自分だけのものにする。
まるでテロリストじゃないか。
テロリスト、皆既日食。
それに、テレビのニュースでもやたらと取り上げられていて、日本中が一種のお祭りムードになっていることは、疑いようがなかった。
でもさあ、所詮は、太陽と月の位置関係が普段よりもちょっぴり違うってだけの話。
ただの天文学的現象に、俺は、ちっとも興味関心が湧かなかった。
……もしかすると、現代人は皆、空を見上げたいのかもしれない。
地に足付けて、時折ぬかるみに足をすくわれ、ひざっ小僧を擦りむきながら、それでも地平線の先を目指して歩を進め続ける。
そんな生活に皆、辟易してしまっているのではないか。
地上のしがらみから解き放たれて、大空を自由に羽ばたけることに憧れて、みんな揃って空を見上げる。
皆既日食ってのは、空を見上げる口実に過ぎなくて、内実心の奥底で願っているのは……地にへばりついた足をフワッと浮かせて空を飛んだら、さぞ気持ちいんだろうなあ……みたいな感じなんじゃないだろうか。
「見ろよ! こいつ、くそでけえ屁をこいてあがんの。きったねえ」
ケツの穴に電撃棒を突っ込まれたみたいな激痛と、ケラケラと笑う飯伏の声で、俺の意識が否応なく現実に引き戻された。
プププッ。ケツ丸出しの俺を見て、吹き出す女子たち。
とことんまで痛みつけられる俺の姿を見て、思春期の悦びをはじけさせる男子たち。
クラスメイトの冷ややかな視線が、俺の心身を銃弾みたいに穿つ。
「皆既日食まで、ちゃんとケツを拭いておけよ」
「フイテオケヨ」
「フイテオケヨ」
馬鹿みたいに復唱すると、飯伏はコバンザメたちを引き連れて、自分の座席へ戻っていった。
治水が日本史の教科書を抱えて、教室に入ってくる。
真っ赤な俺のケツを一瞥すると、担任は「あ、忘れ物」とふたたび教室を出ていく。
俺が帰るまでに、席についておけ。そういうことらしかった。
俺は、黒板に両手をついて剥き出しになった尻を突き出し、ケツの穴を鉛筆の先でほじくり回されながら、飯伏の戯言をぼうっと耳にしていた。
なんでこいつは、こんなに皆既日食に執着しているのだ?
たしかに、物理の教師は今日の皆既日食をやけに楽しみにしていて、顔をホクホクさせながら、みんなで皆既日食を観察する会、とかいう催しまで計画している。
加えて、俺のクラスの教室の中は、皆既日食の話題で、すっかり占領されてしまっていた。
クラスメイトの思考をハッキングして、取り扱われる話題を自分だけのものにする。
まるでテロリストじゃないか。
テロリスト、皆既日食。
それに、テレビのニュースでもやたらと取り上げられていて、日本中が一種のお祭りムードになっていることは、疑いようがなかった。
でもさあ、所詮は、太陽と月の位置関係が普段よりもちょっぴり違うってだけの話。
ただの天文学的現象に、俺は、ちっとも興味関心が湧かなかった。
……もしかすると、現代人は皆、空を見上げたいのかもしれない。
地に足付けて、時折ぬかるみに足をすくわれ、ひざっ小僧を擦りむきながら、それでも地平線の先を目指して歩を進め続ける。
そんな生活に皆、辟易してしまっているのではないか。
地上のしがらみから解き放たれて、大空を自由に羽ばたけることに憧れて、みんな揃って空を見上げる。
皆既日食ってのは、空を見上げる口実に過ぎなくて、内実心の奥底で願っているのは……地にへばりついた足をフワッと浮かせて空を飛んだら、さぞ気持ちいんだろうなあ……みたいな感じなんじゃないだろうか。
「見ろよ! こいつ、くそでけえ屁をこいてあがんの。きったねえ」
ケツの穴に電撃棒を突っ込まれたみたいな激痛と、ケラケラと笑う飯伏の声で、俺の意識が否応なく現実に引き戻された。
プププッ。ケツ丸出しの俺を見て、吹き出す女子たち。
とことんまで痛みつけられる俺の姿を見て、思春期の悦びをはじけさせる男子たち。
クラスメイトの冷ややかな視線が、俺の心身を銃弾みたいに穿つ。
「皆既日食まで、ちゃんとケツを拭いておけよ」
「フイテオケヨ」
「フイテオケヨ」
馬鹿みたいに復唱すると、飯伏はコバンザメたちを引き連れて、自分の座席へ戻っていった。
治水が日本史の教科書を抱えて、教室に入ってくる。
真っ赤な俺のケツを一瞥すると、担任は「あ、忘れ物」とふたたび教室を出ていく。
俺が帰るまでに、席についておけ。そういうことらしかった。
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