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第15話 試練の終わり……? 

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「……だ、だれじゃ! 土人形めっ! な、名を述べよっ!!」

「あのう、見た目が変なのは、お互い様ですよ、正一爺さん」

 全身に土を塗りたくって、やけにウキウキしながら山を降りてくる俺の姿を見るや否や、正一爺はギョッと目ん玉をひん剥き驚きの声を上げた。

「俺です。弟子の神田です」

「はあ……なんだ。びっくりして、寿命が十年も縮まったわい」

 今、立っていられるということは、正一爺は、とんでもない長寿ということになる。
 まあ、そんなことは置いておいて……俺はすぐさま水槽に、バケツ二杯の水を注いだ。
 
 ザッバアァァ……。
 
 水面は、出発前と比べて若干、位置が下がっている。やはり、ゴブリンの集団と水泳競争をしたのが、痛手だったのだ。
 
 だがしかし……俺はこの試練を完全攻略したも同然。ゴブリンたちにとって俺は、姿の見えない幽霊。そして、クラゲの精霊に触れれば……蝶のように舞い、風のように山を駆けまわる、疲れ知らずの元気一杯ボーイに、たちまち変身するのだ。

「なにか、突破口を見出したんだな?」

 無意識に、ニタニタ笑いを顔に浮かべていたのだろう。正一爺は、探るような声色で、俺に尋ねる。

「ええ、まあ、はい」

「もうじき日が傾き始めるぞ。光が消えれば闇が現れる。だが時に、光を散らす闇が、別の光を引き連れてくることがある。そうなったら……森はガラリと姿を変えて、ちっと嫌ぁなことが起こるかもしれんぞい?」

 また、意味深な言葉。だが、そんなもの、絶対的な攻略法を見出した俺には、必要がない。

 俺は、正一爺の言葉を軽く受け流して、バケツを拾ってふたたび山の方へ向かった。

 剥がれ落ちてきた土を塗り直して、クラゲの精霊とハイタッチをしながら……あとはひたすら、山をまたいだ、渓流と訓練場の往復だった。

 幸い、あれからゴブリンには一度も出会わなかった。作戦の大勝利。俺の仮説は、すべて正しかったのだ。

 そうこうしているうちに……往復すること、計七回。

 吸い込まれるようにして、太陽が地平線に沈み始めた。木々のつくり出す葉の天井から降り注いだ、温かな日差しは、すっかりと鳴りを潜め、森全体に、冷ややかな薄闇が立ちこみ始める。

 クラゲに流れる白い光が、道しるべとなり、慣れない夕刻の森の中でも、迷うことはなかった。

 空の様子を見るに、あと一往復ほどしたら、日は完全に沈み切ってしまうだろう。
 
 ようやく、長かった訓練が、終わりを告げるのだ。
 
 紙のように軽い体で、山を駆け下りる。ただバケツを運んでいるだけなのに、なんだか感慨深い気持ちがこみ上げてくる。
 
 絶対不可能と思われていた厳しい試練を、無事に乗り切ることができそうな、そんな淡い予感が、俺を場違いに発奮させる。

「あとすこっし、あとすこっし、あとすこっし……」

 そうして、鼻歌交じりに調子よく、紺の闇に霞み始めた訓練場に降り立つと……。

「……!!!!」

 ああ、目の前には、まるで信じることのできぬ、恐るべき光景が広がっていた。
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