上 下
13 / 45

第13話 足音

しおりを挟む
 命の危険に晒され、川に揉まれて、あげく鼻血を噴き出して……ああ、ゴブリンのせいで、まったく散々な目に遭わされた。
 
 あんな思いは、もう御免だ。奴らと二度と出会ってたまるか。俺は、満杯になったバケツを両腕で支えて、奴らと遭遇しないための方法を模索しながら、ウンショウンショと山を登った。
 
 結局……なんのアイデアも思いつかぬまま、訓練場にたどり着いた。

「おかえりぃ。二度の登山は、さすがにハードだったかのう?」

 まともに返す元気もなく、俺は、防火服のギラギラした銀の光を浴びながら、水槽にバケツ二杯分の水を注いだ。

 ザッバアァァ……。

 水面は、半分よりもすこし上の位置。笹船に乗った蝋燭の火は、明らかに胃酸の方へ近づいている。

 このペースでは、本当に間に合わない。やはり、ゴブリンに襲われたのが致命傷となったのだ。念のため、

「ステータスオープン」


ーーーー
神田陽介
種族:人間
レベル:15
攻撃力:37
防御力:30
素早さ:31

固有スキル<状態:発動>
精霊遣い

<効果>
ただよう精霊の姿を見ることができ、彼らの持つ特殊効果の恩恵を受けることができる。精霊のエネルギーを浴びることによって、常に幸運を引き寄せることができる。

特殊スキル一覧
なし
ーーーー


 ステータスに変化はなし。つまり、どう頑張ったって、これ以上、登頂スピードを上げるのは、物理的に不可能なのだ。

 どうしよう……。このまま打開策を見出すことができずに、無残にも水槽は爆発してしまうのか。

 俺は、暗澹たる気持ちを抱えながら、空のバケツを二個持って、ふたたび山の森へ駆けた。

 頭のてっぺんからつま先まで、全身土まみれ。まるで歩く土偶みたいな、おそろっしい姿で、俺は三度目の山を登っていた。
 極端な話、俺から発せられる匂いと音を完全に消し去ることができれば、ゴブリンにとって、俺の存在は幽霊も同然、居ないに等しいのである。

 匂いは、全身に土を塗りたくり、森と同化することで、なんとか誤魔化すことができそうだ。

 だが……音の方は? 一枚一枚、落ち葉をどかしながら歩くわけにもいかないし、風船のように空を飛んで進むわけにもいかない。サクッ、サクッと落ち葉を踏みしめる、乾いた足音だけは、どうしようもないのだ。

 これでゴブリンに俺の存在を知られたらば、今度こそ命はないかもしれない。運良く切り抜けても、大幅なタイムロスは避けられない。

 だがしかし……後退することは、タイムリミットが許してくれない。ああ、そう分かっていながらも、先へ進む他ないのだ。

 なにか良いアイデアが、空から降ってくればいいのになぁ。

 すると、次の瞬間。俺の目の前をサッと、透明なビニール袋のような、奇妙な物体が横切った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

剣術チートな悪役令嬢

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:82,098pt お気に入り:2,471

悠久の機甲歩兵

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:306pt お気に入り:32

第3次パワフル転生野球大戦ACE

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:15

Night pool party 〜 恋に惑い、愛に溺れる夏の夜 〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

光のもとで2+

青春 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:202

処理中です...