20 / 24
20 ひと時の幸せ
しおりを挟む
それからは、二人での新しい生活が始まった。
もう監視は必要なくなったので、俺は一人で出勤し、その間アルクは家で留守番をしている。もちろん、合鍵を使って自由に出入りもできるようにしていた。
「ただいまー」
「おかえりー」
仕事を終えて家に帰ると、アルクが出迎えてくれる。それが嬉しくて仕方がない。
「わぁ、美味しそうな匂い……」
しかも、アルクはご飯も作ってくれるのだ。この間少しキッチンの使い方を教えただけで、あっという間にマスターしてしまった。彼は本当に才能の塊だ……。
「今日はオムライスを作ってみたんだ」
テーブルの上には美味しそうなオムライスが並べられている。レシピ本を見て作ってくれたのだろう。とても美味しそうだ。しかし、玉子の上に乗せられたケチャップの文字を見て驚く。
そこには、『I LOVE YOU』と書かれていた。
「こ、これって……」
「ケチャップでこういう風に書くってテレビで見たんだけど、間違ってたかい……?」
不安げに見つめてくるアルクに、思わず抱きついてしまう。
「間違ってないよ!嬉しい……」
感動していると、アルクが照れ臭そうに頭を撫でてきた。
「喜んでくれてよかった」
アルクの鼓動が伝わってくる。もしかして、俺がどういう反応をするのか緊張していたのだろうか。そう思うと、胸が熱くなった。
「本当に嬉しいよ、ありがとう」
「ふふ、じゃあ冷めないうちに食べようか」
「うん!いただきます!」
手を合わせてスプーンを手に取る。そして、一口食べると、ふわふわとした玉子が口の中でとろけ、甘さと旨味が広がった。
「うわー!おいしい!」
「本当?良かった」
素直な感想を伝えると、アルクは安堵のため息を漏らす。
「アルクは何でもできちゃうんだなぁ」
「そんなことはないさ。でも、真尋が僕の作ったご飯を食べてくれたら嬉しいな」
「毎日食べたいよ」
「ふふっ、それは光栄だな」
アルクの笑顔を見ると胸が高鳴る。こんな幸せな日々が続くといいなと思いながら、最高のオムライスを口に運んだ。
***
それから二週間ほど経ったある日のこと。
「ただいまー」
いつも通り家に帰ると、アルクの様子がおかしいことに気づいた。
ソファーに座っているのだが、何だか元気が無いように見える。心配になって駆け寄ると、彼はこちらを見上げた。
「アルク、どうかしたのか?」
「ああ、真尋お帰り……ちょっと考え事をしてただけだから、大丈夫だよ」
そう言って微笑んでくれるが、やはりどこかぎこちなく感じる。
「ごめん、夕飯の準備がまだだったね。すぐに作るよ」
「待ってくれ」
俺は、立ち上がって台所に向かおうとするアルクの腕を掴む。
「アルク、何かあったんだろう?話してくれないか?」
真っ直ぐ見つめると、アルクが視線を落とした。
「実は……今日自分の世界に行ってきたんだ」
「そうだったのか……それで、何があったんだ?」
「結論から言うと、魔獣の狂暴化が収まっていたんだ」
「えっ、それって……」
もしかして、アルクの世界を救うことができたということではないだろうか。
「やったじゃないか、アルク」
嬉しいことのはずなのに、何故かアルクの顔は暗いままだった。
「もちろん、僕も喜んだよ。これで平和が訪れる。だけど……」
「……どうしたんだ?」
アルクは拳を握りしめていた。その手が微かに震えている。
「もう、僕の役目は終わったんだ……」
「えっ……」
「真尋と一緒に居られるのはあと少しなんだって考えたら、辛くて……」
アルクは俯いて黙り込んでしまった。俺も何も言えずにその場に突っ立っていることしかできない。
そうだ、俺達は仮の恋人なのだ。本当の恋人じゃない。いつか別れが来ることは分かっていたはずだ。
でも、あまりにも幸せすぎて忘れてしまっていた。
「アルク……」
気がつくと彼の身体を抱き寄せていた。
「真尋……?」
離れたくない。ずっと一緒にいたい。でも、そんなことを言ってはいけないのだ。彼には帰る場所があるのだから。
「俺も寂しいよ……。でも、帰らないといけないんだろう」
「……そうだね」
アルクの声が掠れる。抱きしめた腕に力が入ってしまう。すると、アルクが背中に手を回してきた。
「ねえ、真尋、今夜は我慢せずに思い切り抱いてもいいかな?」
「……えええっ!?」
突然の言葉に驚いてしまう。今までも割と激しめだったと思うのだが、それでも一応セーブしていたというわけか……。
とはいえ、アルクがこんなことを言うなんて。それだけ俺のことを想っていてくれたのだろう。そう考えると、嬉しい気持ちが込み上げてくる。
「いいよ。俺もアルクにめいっぱい愛されたい……」
「ありがとう……」
優しく唇を重ねられ、ゆっくりとキスをされた。今までならただ幸せな時間だったが、今は別れが心に重くのしかかる。
だが、今はそんなことを考えずに、彼と過ごす貴重な時間を心から楽しもうと思った。
もう監視は必要なくなったので、俺は一人で出勤し、その間アルクは家で留守番をしている。もちろん、合鍵を使って自由に出入りもできるようにしていた。
「ただいまー」
「おかえりー」
仕事を終えて家に帰ると、アルクが出迎えてくれる。それが嬉しくて仕方がない。
「わぁ、美味しそうな匂い……」
しかも、アルクはご飯も作ってくれるのだ。この間少しキッチンの使い方を教えただけで、あっという間にマスターしてしまった。彼は本当に才能の塊だ……。
「今日はオムライスを作ってみたんだ」
テーブルの上には美味しそうなオムライスが並べられている。レシピ本を見て作ってくれたのだろう。とても美味しそうだ。しかし、玉子の上に乗せられたケチャップの文字を見て驚く。
そこには、『I LOVE YOU』と書かれていた。
「こ、これって……」
「ケチャップでこういう風に書くってテレビで見たんだけど、間違ってたかい……?」
不安げに見つめてくるアルクに、思わず抱きついてしまう。
「間違ってないよ!嬉しい……」
感動していると、アルクが照れ臭そうに頭を撫でてきた。
「喜んでくれてよかった」
アルクの鼓動が伝わってくる。もしかして、俺がどういう反応をするのか緊張していたのだろうか。そう思うと、胸が熱くなった。
「本当に嬉しいよ、ありがとう」
「ふふ、じゃあ冷めないうちに食べようか」
「うん!いただきます!」
手を合わせてスプーンを手に取る。そして、一口食べると、ふわふわとした玉子が口の中でとろけ、甘さと旨味が広がった。
「うわー!おいしい!」
「本当?良かった」
素直な感想を伝えると、アルクは安堵のため息を漏らす。
「アルクは何でもできちゃうんだなぁ」
「そんなことはないさ。でも、真尋が僕の作ったご飯を食べてくれたら嬉しいな」
「毎日食べたいよ」
「ふふっ、それは光栄だな」
アルクの笑顔を見ると胸が高鳴る。こんな幸せな日々が続くといいなと思いながら、最高のオムライスを口に運んだ。
***
それから二週間ほど経ったある日のこと。
「ただいまー」
いつも通り家に帰ると、アルクの様子がおかしいことに気づいた。
ソファーに座っているのだが、何だか元気が無いように見える。心配になって駆け寄ると、彼はこちらを見上げた。
「アルク、どうかしたのか?」
「ああ、真尋お帰り……ちょっと考え事をしてただけだから、大丈夫だよ」
そう言って微笑んでくれるが、やはりどこかぎこちなく感じる。
「ごめん、夕飯の準備がまだだったね。すぐに作るよ」
「待ってくれ」
俺は、立ち上がって台所に向かおうとするアルクの腕を掴む。
「アルク、何かあったんだろう?話してくれないか?」
真っ直ぐ見つめると、アルクが視線を落とした。
「実は……今日自分の世界に行ってきたんだ」
「そうだったのか……それで、何があったんだ?」
「結論から言うと、魔獣の狂暴化が収まっていたんだ」
「えっ、それって……」
もしかして、アルクの世界を救うことができたということではないだろうか。
「やったじゃないか、アルク」
嬉しいことのはずなのに、何故かアルクの顔は暗いままだった。
「もちろん、僕も喜んだよ。これで平和が訪れる。だけど……」
「……どうしたんだ?」
アルクは拳を握りしめていた。その手が微かに震えている。
「もう、僕の役目は終わったんだ……」
「えっ……」
「真尋と一緒に居られるのはあと少しなんだって考えたら、辛くて……」
アルクは俯いて黙り込んでしまった。俺も何も言えずにその場に突っ立っていることしかできない。
そうだ、俺達は仮の恋人なのだ。本当の恋人じゃない。いつか別れが来ることは分かっていたはずだ。
でも、あまりにも幸せすぎて忘れてしまっていた。
「アルク……」
気がつくと彼の身体を抱き寄せていた。
「真尋……?」
離れたくない。ずっと一緒にいたい。でも、そんなことを言ってはいけないのだ。彼には帰る場所があるのだから。
「俺も寂しいよ……。でも、帰らないといけないんだろう」
「……そうだね」
アルクの声が掠れる。抱きしめた腕に力が入ってしまう。すると、アルクが背中に手を回してきた。
「ねえ、真尋、今夜は我慢せずに思い切り抱いてもいいかな?」
「……えええっ!?」
突然の言葉に驚いてしまう。今までも割と激しめだったと思うのだが、それでも一応セーブしていたというわけか……。
とはいえ、アルクがこんなことを言うなんて。それだけ俺のことを想っていてくれたのだろう。そう考えると、嬉しい気持ちが込み上げてくる。
「いいよ。俺もアルクにめいっぱい愛されたい……」
「ありがとう……」
優しく唇を重ねられ、ゆっくりとキスをされた。今までならただ幸せな時間だったが、今は別れが心に重くのしかかる。
だが、今はそんなことを考えずに、彼と過ごす貴重な時間を心から楽しもうと思った。
16
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる