俺が聖女なわけがない!

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【20】嫉妬!?王子と聖女の恋人事情

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しばらく抱きしめ合った後、王子は熱を帯びた視線で俺を見つめ、そっと頰に触れた。
「ルセル……もし君さえ良ければ……僕は君と結ばれたい」
「えっ……!?」
突然のことに心臓が高鳴り、頭の中が真っ白になる。結ばれるって、まさか……。俺は信じられない思いで、目の前の王子を見つめた。王子は真剣な眼差しで続ける。
「君とひとつになりたいんだ」
「……っ!」
間違いじゃない。やっぱりそういう意味だ。頬に触れる王子の手が少しだけ震えていて、その緊張が伝わってくる。
男同士でそんなことをするなんて、以前の俺なら考えもしないことだった。でも、今は――。
「お、俺も、アルティスとひとつに……なりたいです……」
俺は彼の手に自分の手を重ね、王子の目をまっすぐ見つめ返す。心臓がドキドキし過ぎて爆発しそうだ。
「ルセル……!」
王子の幸せそうな笑顔に、自然と俺も笑みがこぼれる。しかし、その瞬間、ふと不安がよぎった。
「あの、アルティス……」
声を出したものの、続けるべきか迷って言葉が詰まる。そんな俺の様子に、彼の瞳が不安そうに揺れるのが見えた。
「どうしたの、ルセル?」
彼の優しい声に促され、意を決してもう一度口を開く。
「その……アルティスは、誰かとこういうことしたこと……あるんですか?」
俺の声は少し震えていた。こんなにも素敵な王子に、今まで特別な相手がいなかったなんてこと、あるはずがない。もしかして経験豊富だったりしたら、俺みたいな男が相手では幻滅するのではないか……。自分だけが初めてで、何も知らないのも恥ずかしい。
そう思って聞いてしまったが、こんな質問をして、王子を不快にさせてしまっただろうか。不安が胸に広がる。
恐る恐る王子を見ると、驚いたように目を見開いていた。だが、すぐに小さな微笑みを浮かべる。
「ないよ。王子は聖女と結ばれることが決まっているから、それ以外の人と関わることは禁止されているんだ」
「えっ……」
思わず驚きの声が漏れてしまった。まさか、そんな理由があったなんて。
「本当に……? 今まで誰とも……?」
半信半疑で再度確認すると、王子は優しく微笑んでうなずいた。
「本当だよ、ルセル。君が初めてだ」
その言葉が胸に響き、嬉しさと照れくささが混じり合った温かい感覚に包まれる。自分が彼の初めての相手……その事実が信じられないほど嬉しい。
しかし同時に、俺が王子の相手で本当にいいのかという不安も湧き上がってきた。
「……俺なんかで、本当にいいんですか? 待ちに待った聖女が、俺で……」
俺がそう言うと、王子は俺の手を優しく包み込むように握りしめる。
「ルセル、君が選ばれたのは運命なんだ。僕は、君で本当に良かったと思っている。君じゃなきゃダメなんだ」
その真っ直ぐな言葉に、心がじんわりと温かくなるのを感じた。彼の優しさと誠実さが、俺の不安を解きほぐしていく。
「……ありがとうございます」
静かにそう返すと、王子はしばらく黙っていたが、ふと険しい表情を浮かべた。
「ところで、ルセル。君こそ、初めてなんだろうね?」
その言葉にはわずかに嫉妬の色が含まれていて、俺は驚く。
「え? もちろん……」
「本当だね? 君が他の誰かとこんなことをしていたなんて考えたくもないんだ」
王子の真剣な表情に、俺は思わず吹き出しそうになってしまった。
「何言ってるんですか、そんな心配いりませんよ。俺も……アルティスが初めてです」
自分で言った瞬間、急に恥ずかしくなり、顔が熱くなるのを感じる。王子も一瞬驚いたように目を見開いたが、次第に頬が少し赤く染まっていった。
「……本当に僕が、初めて?」
王子が照れたような声で聞き返してくる。その表情が普段の凛々しい姿とは違い、なんだか可愛らしく見えて、俺もまたさらに恥ずかしくなってしまった。
「そ、そうですよ……」
小声で答え、一瞬視線を交わしたが、すぐにお互い目を逸らしてしまう。照れくささが増すばかりで、何を言えばいいのか分からない。
しばらく照れたまま、気まずい空気が流れたが、不意に王子が深く息をつくのが聞こえた。俺の方を見ると安堵したように微笑み、そっと手を伸ばしてくる。
「良かった……本当に安心したよ」
王子は心底ほっとしたようにそう言うと、俺を優しく抱きしめてきた。胸が温かく満たされる感覚に包まれる。王子の温もりが心地いい。
気づけば、俺は無意識に彼の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返していた。王子への愛おしさが溢れてたまらない。
すると王子も、俺をさらに強く抱きしめ返してきた。その力強さに、胸の鼓動が早まる。ドキドキと響く音が、自分でもはっきり聞こえるくらいだ。
「あ、あの、アルティス……!」
恥ずかしくなってきた俺は、一度王子から離れようとした。だが、王子は俺を強く抱きしめたまま、離そうとしない。
「もう……我慢できないんだ……」
王子は熱っぽい声で囁いてくる。その声と吐息が耳にかかり、胸がますます高鳴った。
そして、そのまま抱きかかえられたかと思うと、ベッドに押し倒されてしまう。
「え!? ま、待ってください……」
俺は慌てて抵抗しようとした。王子の気持ちは嬉しいけれど、まだ心の準備ができていない。今ここでそんなことをされたら、本当にどうにかなってしまう……。焦る気持ちが高まるが、王子は全くその手を止めてくれなかった。
「君が欲しいんだ……ルセル」
王子が熱のこもった眼差しで俺を見つめる。その視線が絡みつくようで、俺の胸の奥がぎゅっと締め付けられた。心臓が早鐘のように打ち始めて、呼吸さえままならなくなる。
「そ、そんな目で見つめないでください……」
俺は視線をそらそうとしたが、王子の瞳に吸い寄せられるように再び目が合ってしまった。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。
俺が抵抗しないのを見ると、王子はゆっくりと唇を重ねた。
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