俺が聖女なわけがない!

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【12】親愛!?おはようのキスと襲撃者の謎

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翌朝、まだ薄暗い空の下、俺は目を覚ました。隣を見ると、王子はすでに起きていて、静かに俺の顔を見つめている。その優しい微笑みに、俺は一瞬息をのんだ。
「おはよう、ルセル。よく眠れたかい?」
柔らかく響く王子の声が、まるで心の奥に直接触れてくるようだった。その声に自然と安心感が広がっていく。
「は、はい、おかげさまで……」
昨晩のキスを思い出しそうになり、慌てて頭から消し去る。思い出すだけでも恥ずかしくて顔から火が出そうだ。しかし、そんなことを考えている間に王子の顔が近づいてきていた。
「えっ……ちょっ……まっ……!?」
慌てて目をつぶった瞬間、唇に柔らかい感触を感じる。すぐに離れていったので目を開けると、王子の顔がすぐ近くにあった。彼は微笑みながら俺の髪を優しく撫でる。
「おはようのキスだよ」
そう言って今度はおでこに軽くキスをされる。ほんの一瞬で離れてくれたので良かったが、心臓に悪い。
「お、王子……急にそういうのは……」
俺は顔が熱くなるのを感じながら、なんとか抗議の声をあげる。すると、王子は少し困ったような表情を浮かべ、ほんの少ししょんぼりした様子で俺を見つめた。
「ごめん、ルセル。嫌だった……?」
そんな悲しそうな表情をされると、胸が締め付けられるような気持ちになるのでやめて欲しい。
「い、嫌なわけじゃないんですけど……その、恥ずかしくて」
俺が小声でそう答えると、王子は嬉しそうに笑った。その笑顔があまりにも綺麗だったので見惚れてしまう。しかしすぐに我に帰り、慌てて目をそらした。
「じゃあ、次はまた今夜、お願いできるかな?」
王子が俺の耳元で囁く。その声があまりにも色っぽくて、思わず背筋がぞくりとした。
「は、はい……わかりました」
俺は動揺しながらも、そう返すしかなかった。

そんな甘い雰囲気の中で、ふと昨日の出来事が頭をよぎる。襲撃者が現れ、王子が自分を守るために大怪我をしたあの瞬間。その光景を思い出すたびに、胸の奥が重たくなっていくのを感じる。
「王子、昨日の襲撃者……一体、何者だったのでしょうか?」
思い切って尋ねると、王子の表情が少し曇った。
「そうだね……。犯人が逃げたことが心配だ。彼が何者で、何故こんなことをしたのかを突き止めなければならない」
王子の言葉に、俺も真剣にうなずいた。
「はい……きっと、聖女である俺が狙われたんだと思いますが……その理由がわからなくて……」
声が震えているのが自分でも分かる。昨夜の襲撃のことを思い出すと、恐怖がじわじわと蘇ってきた。
「大丈夫だよ。ルセルのことは僕が守るから」
王子が俺を安心させようと優しく微笑みかけてくれる。その笑顔を見ると少しだけ心が落ち着く気がした。
「ありがとう、ございます……」
小さな声で礼を言った後、自然と口を閉ざしてしまった。落ち着こうとしても、どうしても襲撃の記憶が頭を離れず、胸の奥に不安が残ったままなのだ。
そんな様子を見兼ねたのか、王子は俺の隣に座り直すとそっと抱きしめてくれた。彼の体温を感じると同時に安心感を覚える。その温かさに包まれながらゆっくりと目を閉じると、少しずつ落ち着いてきたような気がした。
しばらくしてから目を開けると、彼は安心したように微笑んでくれた。
「ごめんね、不安にさせてしまって……」
申し訳なさそうに謝られ、俺は慌てて首を横に振る。
「いえっ……俺の方こそごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
王子は首を傾げて不思議そうに見つめてきた。その無邪気な仕草に、思わず胸がきゅんとする。
「だ、だって……俺なんかのために命を危険に晒すようなことをさせてしまって……」
俺が言い淀んでいると、王子は俺の頭を優しく撫でてくれた。それが心地よくて、自然と目を細める。
「……ルセルのせいじゃないよ。僕がそうしたくてしただけだ」
王子は優しく微笑んでくれるが、その表情にはどこか陰りがあった。無理をしているのではないかと、胸が痛む。
「でも……俺は嬉しかったです……」
俺がそう言うと、王子は少し驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見ると、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

王子はしばらく何かを考え込んでいる様子だったが、やがて意を決したかのように口を開いた。
「ルセル、今日は一緒に図書館に行こう。過去の事例を調べれば、何か手がかりが見つかるかもしれない」
「図書館……ですか?」
俺は少し驚いて聞き返す。
「そうだよ。王宮の図書館には古い記録や文献がたくさんある。もしかしたら、聖女に関する何か重要な情報があるかもしれない」
たしかに、あれだけの本がある場所なら、そういった記録もありそうだ。希望の光が差し込んだような気がする。
「わかりました。今すぐに行きましょう」
王子と一緒にベッドを出ると、急いで支度を整え、図書館へと向かった。

部屋を出ると、王子はそっと俺の手を握る。
王子の手の温もりが安心感を与えてくれた。彼がそばにいてくれることが、何よりの救いだと感じる。
王宮の廊下を進む間、王子の静かな存在感に支えられながら、昨夜の恐怖を少しずつ振り払っていった。彼の強い意志を感じながら、一歩一歩を踏みしめて歩く。
王子の表情を見ると、彼がどれだけ自分のことを心配してくれているのかが伝わってきた。
「王子……ありがとうございます。王子が一緒にいてくれるから、俺も頑張れます」
王子は力強くうなずき、俺の手をさらにしっかりと握りしめる。彼のその決意に満ちた目を見ていると、心の中に再び勇気が湧いてきた。
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