俺が聖女なわけがない!

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【11】治癒!?ベッドで交わる愛の魔力

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その夜、俺たちは二人きりで、今日の出来事を静かに振り返っていた。王子のベッドに並んで腰掛け、薄明かりの中で互いの顔を見つめ合う。
「今日は本当にいろいろなことがあったね」
「はい……試練は無事に終わって、本当に良かったです。でも、あの時――王子が俺を守って大怪我した時は……本当に怖かったです」
俺がそう言うと、王子は優しく微笑んだ。
「君のおかげで、本当に助かったよ。あの瞬間、君の魔力が僕に流れ込んできたのを感じたんだ」
「それが……魔力なんですね。まだ、よく分からないけど、何だか温かい光が体の中から溢れていくのを感じました」
王子は穏やかな表情でうなずく。その静かな眼差しに、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
「君の力が、本当に素晴らしいものだと証明されたんだよ。君は僕の命を救ってくれた。ありがとう、ルセル」
その言葉に、胸が熱くなる。俺は王子の顔を見つめながら、小さく微笑んだ。
「俺こそ、王子に守られてばかりで……ありがとうございます」
「そんなことはないよ……」
王子が俺の手を取ろうと動いたその瞬間、彼は一瞬だけ顔を歪める。すぐに笑顔を取り戻したが、そのわずかな変化を俺は見逃さなかった。
「王子……もしかして、まだ傷が完全に治っていないんじゃないですか?」
王子は驚いたように目を瞬かせると、すぐに困ったような笑みを浮かべる。
「君には隠せないね。でも、大丈夫。君の魔力が少しずつ僕の体を癒してくれている。だから、心配しないで」
「でも……」
俺は声を震わせながら言った。
「そんなに痛いなら、無理しないでください。どうして隠していたんですか? 本当に大丈夫なんですか?」
俺の言葉に、王子の微笑みが少しだけ揺らいだ。
「ルセル、本当に大丈夫だよ。君がそばにいてくれるだけで、僕はとても安心するんだ。それに、君を心配させたくなかった」
「でも、それじゃ俺がもっと心配することになるじゃないですか……」
気づけば、つい目が潤んでしまっていた。俺は込み上げる感情を抱えながら言葉を絞り出す。
「王子が痛みを我慢しているのに、俺はそれを知らないなんて……」
王子は俺の手を優しく握り締め、穏やかに語りかけた。
「君の気持ちを分かっていなかった。ごめんね、ルセル。その……もし良かったらなんだけど……」
王子は一瞬言葉を飲み込んだ後、少し躊躇しながら続ける。
「もう一度、君の魔力を僕に流してくれないだろうか……」
「えっ……そ、それって……」
俺は胸の中で驚きと混乱が渦巻くのを感じながら、彼の目をじっと見つめた。
「また、キスをするってことですよね……?」
顔が熱くなり、心臓が激しく鼓動するのを感じる。
「うん、そうだよ。でも無理強いはしたくない」
王子は静かな瞳でこちらをじっと見据えた。その視線を絡め取られるように彼の顔から視線を動かせなくなる。胸が締め付けられるような感覚が広がっていった。
先程キスをした時の、あの息づかいや温度を思い出してしまい、顔がさらに熱くなる。あれをもう一度するなんて……。さっきは必死だったからできたけれど、今は状況が違う。目の前にいるのは、いつも通りの美しい王子だ。こんな状態でキスなんてしたらきっと心臓がもたない。
「ルセル……無理はしなくていいよ。嫌ならそう言って欲しい」
俺の迷いを感じ取ったのか、彼は少し寂しそうに微笑んだ。
「い、いえ、そうじゃなくて……」
俺は深呼吸をして、心を落ち着けようとする。王子が少しでも楽になるなら、キスくらいなんだって言うんだ。
そもそも王子とキスをすること自体は全く嫌ではなく、むしろもう一度感じたいという気持ちすら……いやいや、何を考えているんだ俺は。
これは王子の怪我を治すための行為だ。変な意味は無いのだ。
俺は覚悟を決めて王子を見つめた。
「大丈夫です、王子」
「そっか……ありがとう」
王子は優しい微笑みを浮かべながら俺の頬に手を伸ばし、するりと撫でる。そして王子の顔がどんどん近づいてきたので、俺は反射的に目を瞑った。唇に柔らかな感触がする。
「んっ……」
次の瞬間、唇の隙間から彼の舌が入ってきた。俺はどうしていいのか分からずに、そのまま固まってしまう。すると王子は俺の舌を優しく絡めとって吸い上げた。その感覚に体がびりびりと震える。
「ん……ふっ……んぅっ……」
息苦しさと気持ちよさで頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。舌と舌とが絡まり合い、口内を蹂躙される。
体の奥から温かい光が溢れ出し、王子の体に流れ込んでいく感覚があった。
同時に、王子の方からも力が流れ込んでくる感覚があり、それは全身を駆け巡っていく。
二人の魔力が混ざり合い、溶け合っていくような感覚がたまらない。
俺はその感覚に身を任せた。王子と一つになったかのような錯覚に陥る。
「ん……んぅ……は、はあっ」
どのくらいの間、そうしていただろうか。やがて彼はゆっくりと唇を離した。唾液の糸が伸び、ぷつりと切れる。
「はぁっ……」
俺は肩で息をしながら、ぼんやりと彼を見つめた。王子も息が上がっていて、顔が赤くなっている。それがなんだか色っぽく見えた。
「ルセル……ありがとう」
王子はそう言って俺の頭を撫でた。俺は恥ずかしくて、思わず下を向いてしまう。
「いえ……王子のためなら……」
「ルセルは優しいね」
王子は俺の体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。彼の心臓の音が聞こえてくる。その鼓動は早くて大きい。俺もつられてドキドキしてしまう。
「王子……あの……」
俺は彼の胸に顔を埋めながら、おずおずと口を開いた。
「ん? どうしたの?」
王子は俺の髪を優しく撫でながら、俺の言葉を待っている。
「あの……俺でよければ、いつでもキス、しますから……」
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、勇気を出して言った。
「……っ!?」
王子は驚いたように目を見開くと、そのまま固まってしまう。そしてしばらくしてから、大きく息を吐いた。その吐息が耳にかかり、くすぐったい。
「ルセル……君って子は……」
王子は困ったような表情で、苦笑いを浮かべる。しかし、その表情にはどこか嬉しそうな色が含まれているように感じた。
「じゃあ……明日の朝、もう一度お願いしてもいいかな?」
そう言って、王子はそっと俺の体から手を離す。
「はい、分かりました」
俺が返事をすると王子は嬉しそうに微笑んだが、笑顔の奥にほんの少しだけ寂しげな影が見えたような気がした。
「これ以上は我慢できなくなっちゃいそうだからね……」
王子が小さな声で、ぼそっと何か呟いたのが聞こえる。
「え? 今、何か言いました?」
聞き返してみたが、彼は微笑んで首を振るだけだった。
「ううん、なんでもないよ、おやすみ」
優しくそう言って、穏やかな笑顔を向けてくる。
「はい……おやすみなさい」
少し不思議に思いながらも、俺は素直に目を閉じた。
今日は色々あって疲れたせいか、すぐに眠気が襲ってくる。うとうとし始めたころ、ふと額に温かい何かが触れた気がした。でも、もう目を開ける気力がない。俺はそのまま眠りの中へと沈んでいった。
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