俺が聖女なわけがない!

krm

文字の大きさ
上 下
9 / 33

【09】危機!?突如現る不穏な影

しおりを挟む
数日後、ついに試練の日がやって来た。
庭園に到着すると、すでに多くの貴族たちが集まっており、儀式の厳粛な空気が漂っていた。神官たちも厳しい表情を浮かべ、静かに待ち構えている。俺を挑発してきた貴族も、冷たい笑みを浮かべながらこちらを見ていた。俺が失敗するとこを見てやろうとでも思っているのだろう。
「ルセル、大丈夫だよ。君ならきっとできる」
王子がそっと肩に手を置き、力強い声で励ましてくれる。
「はい、王子。頑張ります」
緊張で胸が苦しくなっていたが、王子の優しい笑顔とその言葉が、不安を少し和らげてくれた。

試練の内容は、遺跡から聖なる石を取り出し、それを庭園の中心にある台座に置くことだと説明された。その石には特殊な魔力が宿っており、真の聖女だけが安全に扱うことができると言われているらしい。
庭園の奥深くに進むと、遺跡の入口が見えてきた。古代の石碑には緻密な彫刻が施されており、神聖な雰囲気に緊張感が高まる。俺は深呼吸をし、遺跡の中へと足を踏み入れた。王子も俺の後ろからついてきてくれている。
しばらく進むと石室が現れ、その中心には見事な輝きを放つ聖なる石が鎮座していた。その美しさに目を奪われつつも、俺は用心しながら石に近づく。
「心を鎮めて、集中するんだ」
王子のアドバイスが耳に届いた。俺の緊張を和らげるように、彼はそっと肩に手を置いてくれる。王子に励まされ、俺は深呼吸を繰り返した。
そして、決意を新たに、ゆっくりと手を伸ばす。指先が石に触れると、予想以上に強い暖かさが手のひらに広がり、俺は一瞬、驚きで後ずさりしそうになった。
「大丈夫、落ち着いて」
王子の声が優しく響き、俺の心に染み込んでいく。俺はもう一度呼吸を整え、石を両手でしっかりと包み込んだ。
「一緒に運ぼう」
王子が俺のそばにそっと寄り添い、優しく手を添えてくれる。彼の手の温もりが伝わり、緊張していた俺の心が少しだけほぐれていった。まだ不安はあるけれど、王子が一緒なら大丈夫だと、そう思える。
慎重に石を持ち上げると、緊張は再び高まるが、王子が一緒にいることで心が落ち着いていた。二人で一歩一歩、注意深く石を運んでいく。
やがて庭園の中心にたどり着き、台座の前に立った。周囲からの視線が痛いほど突き刺さるが、王子が俺を支えてくれている。彼が隣にいるだけで、不思議とプレッシャーが薄れていった。王子が優しく頷き、それに応えるように俺も深呼吸し、静かに息を整える。
二人で息をぴったりと合わせながら、石を台座にそっと置いた。
次の瞬間、周囲の空気が一変し、庭園全体がまばゆい光に包まれる。周囲から驚きの声が上がる中、王子は満足そうに微笑んだ。
「これで証明されたね。ルセルは真の聖女だ」
王子が誇らしげに言うと、辺りは歓声に包まれた。
「くっ……まさか、成功するとは……」
冷たい笑みを浮かべていた貴族が、歯を食いしばり悔しそうにこちらを睨んでいるのが目に入る。
「さすがアルティス王子だ。聖女をここまで導くとは」
神官たちの感嘆の声も聞こえてきた。
「そうですね、王子のおかげです」
俺が感謝の言葉を伝えると、王子は穏やかに微笑みながら俺の肩を軽く叩いた。
「君の力だよ、ルセル。君は本当に素晴らしいね」
その言葉に、胸が熱くなる。試練を成功させたことで、少しずつ自信が湧いてくるのを感じた。


試練が終わり、ホッと一息をついたその瞬間、庭園の隅でわずかな物音がした。風に揺れる木々の音かと思ったが、背筋に不穏な寒気が走る。
次の瞬間、鋭い風切り音が耳を刺した。
「ルセル、危ない!」
王子の声が響き、反射的に体が硬直する。その直後、王子が目の前に飛び出した。時間が一瞬止まったかのように、目の前の景色がスローモーションで動く。王子はその身を盾にして、迫りくる刃を受け止めていた。
「お……王子っ!」
叫び声が喉から飛び出すも、まるで自分の声ではないかのように遠く聞こえた。倒れた王子が押さえている胸元からは、血がじわりと染み出している。
「そんな……っ、王子、しっかりして!」
震える手で彼の体に触れるが、その温もりが次第に冷たくなっていくのが伝わり、俺は凍りついた。
「ルセル……逃げろ……」
王子は息も絶え絶えに、弱々しい声で言う。しかし、俺はその場から動けなかった。
「嫌だ……! 俺は、王子を置いて逃げたりなんかしない!」
感情が溢れ出し、目の前の現実が信じられずに言葉を絞り出す。目に映るのは、王子の苦しそうな顔と、胸から流れ出る鮮明な赤色。まるで時間が永遠に止まったかのような絶望に、息ができなくなった。
「曲者め! ひっ捕らえろ!」
護衛の兵士たちが駆け寄り、刺客に向かっていく光景が視界の端に映る。刺客は舌打ちをし、形勢不利と見たのか、影のように素早く姿を消した。もうこれ以上襲われる心配はないだろう。だが、俺の意識は刺客ではなく、完全に王子に向けられていた。
襲撃は終わっても、王子の負傷の深刻さが容赦なく俺に現実を突きつける。胸が締め付けられ、無力感と絶望が全身を覆った。
ついさっきまでは、試練を乗り越えた達成感で胸がいっぱいだったのに。一瞬でこんな悪夢のような状況になるなんて、思いもしなかった。
「王子、お願いだから死なないで……」
俺は涙をこぼしながら、王子の顔を見つめる。すると、彼は信じられないような言葉を口にした。
しおりを挟む
■その他作品
   

感想 33

あなたにおすすめの小説

アルファ王子ライアンの憂鬱 〜敵国王子に食べられそう。ビクンビクンに俺は負けない〜

五右衛門
BL
 俺はライアン・リバー。通称「紅蓮のアルファ王子」。アルファとして最強の力を誇る……はずなんだけど、今、俺は十八歳にして人生最大の危機に直面している。何って?  そりゃ、「ベータになりかける時期」がやってきたんだよ!  この世界では、アルファは一度だけ「ベータになっちゃえばいいじゃん」という不思議な声に心を引っ張られる時期がある。それに抗えなければ、ベータに転落してしまうんだ。だから俺は、そんな声に負けるわけにはいかない!   ……と、言いたいところだけど、実際はベータの誘惑が強すぎて、部屋で一人必死に耐えてるんだよ。布団握りしめて、まるでトイレで踏ん張るみたいに全身ビクンビクンさせながらな!  で、そこに現れるのが、俺の幼馴染であり敵国の王子、ソラ・マクレガー。こいつは魔法の天才で、平気で転移魔法で俺の部屋にやってきやがる。しかも、「ベータになっちゃいなよ」って囁いてきたりするんだ。お前味方じゃねぇのかよ! そういや敵国だったな! こっちはそれどころじゃねえんだぞ!  人生かけて耐えてるってのに、紅茶飲みながら悠長に見物してんじゃねぇ!  俺のツッコミは加速するけど、誘惑はもっと加速してくる。これ、マジでヤバいって!  果たして俺はアルファのままでいられるのか、それともベータになっちゃうのか!?

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...