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【09】危機!?突如現る不穏な影
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数日後、ついに試練の日がやって来た。
庭園に到着すると、すでに多くの貴族たちが集まっており、儀式の厳粛な空気が漂っていた。神官たちも厳しい表情を浮かべ、静かに待ち構えている。俺を挑発してきた貴族も、冷たい笑みを浮かべながらこちらを見ていた。俺が失敗するとこを見てやろうとでも思っているのだろう。
「ルセル、大丈夫だよ。君ならきっとできる」
王子がそっと肩に手を置き、力強い声で励ましてくれる。
「はい、王子。頑張ります」
緊張で胸が苦しくなっていたが、王子の優しい笑顔とその言葉が、不安を少し和らげてくれた。
試練の内容は、遺跡から聖なる石を取り出し、それを庭園の中心にある台座に置くことだと説明された。その石には特殊な魔力が宿っており、真の聖女だけが安全に扱うことができると言われているらしい。
庭園の奥深くに進むと、遺跡の入口が見えてきた。古代の石碑には緻密な彫刻が施されており、神聖な雰囲気に緊張感が高まる。俺は深呼吸をし、遺跡の中へと足を踏み入れた。王子も俺の後ろからついてきてくれている。
しばらく進むと石室が現れ、その中心には見事な輝きを放つ聖なる石が鎮座していた。その美しさに目を奪われつつも、俺は用心しながら石に近づく。
「心を鎮めて、集中するんだ」
王子のアドバイスが耳に届いた。俺の緊張を和らげるように、彼はそっと肩に手を置いてくれる。王子に励まされ、俺は深呼吸を繰り返した。
そして、決意を新たに、ゆっくりと手を伸ばす。指先が石に触れると、予想以上に強い暖かさが手のひらに広がり、俺は一瞬、驚きで後ずさりしそうになった。
「大丈夫、落ち着いて」
王子の声が優しく響き、俺の心に染み込んでいく。俺はもう一度呼吸を整え、石を両手でしっかりと包み込んだ。
「一緒に運ぼう」
王子が俺のそばにそっと寄り添い、優しく手を添えてくれる。彼の手の温もりが伝わり、緊張していた俺の心が少しだけほぐれていった。まだ不安はあるけれど、王子が一緒なら大丈夫だと、そう思える。
慎重に石を持ち上げると、緊張は再び高まるが、王子が一緒にいることで心が落ち着いていた。二人で一歩一歩、注意深く石を運んでいく。
やがて庭園の中心にたどり着き、台座の前に立った。周囲からの視線が痛いほど突き刺さるが、王子が俺を支えてくれている。彼が隣にいるだけで、不思議とプレッシャーが薄れていった。王子が優しく頷き、それに応えるように俺も深呼吸し、静かに息を整える。
二人で息をぴったりと合わせながら、石を台座にそっと置いた。
次の瞬間、周囲の空気が一変し、庭園全体がまばゆい光に包まれる。周囲から驚きの声が上がる中、王子は満足そうに微笑んだ。
「これで証明されたね。ルセルは真の聖女だ」
王子が誇らしげに言うと、辺りは歓声に包まれた。
「くっ……まさか、成功するとは……」
冷たい笑みを浮かべていた貴族が、歯を食いしばり悔しそうにこちらを睨んでいるのが目に入る。
「さすがアルティス王子だ。聖女をここまで導くとは」
神官たちの感嘆の声も聞こえてきた。
「そうですね、王子のおかげです」
俺が感謝の言葉を伝えると、王子は穏やかに微笑みながら俺の肩を軽く叩いた。
「君の力だよ、ルセル。君は本当に素晴らしいね」
その言葉に、胸が熱くなる。試練を成功させたことで、少しずつ自信が湧いてくるのを感じた。
試練が終わり、ホッと一息をついたその瞬間、庭園の隅でわずかな物音がした。風に揺れる木々の音かと思ったが、背筋に不穏な寒気が走る。
次の瞬間、鋭い風切り音が耳を刺した。
「ルセル、危ない!」
王子の声が響き、反射的に体が硬直する。その直後、王子が目の前に飛び出した。時間が一瞬止まったかのように、目の前の景色がスローモーションで動く。王子はその身を盾にして、迫りくる刃を受け止めていた。
「お……王子っ!」
叫び声が喉から飛び出すも、まるで自分の声ではないかのように遠く聞こえた。倒れた王子が押さえている胸元からは、血がじわりと染み出している。
「そんな……っ、王子、しっかりして!」
震える手で彼の体に触れるが、その温もりが次第に冷たくなっていくのが伝わり、俺は凍りついた。
「ルセル……逃げろ……」
王子は息も絶え絶えに、弱々しい声で言う。しかし、俺はその場から動けなかった。
「嫌だ……! 俺は、王子を置いて逃げたりなんかしない!」
感情が溢れ出し、目の前の現実が信じられずに言葉を絞り出す。目に映るのは、王子の苦しそうな顔と、胸から流れ出る鮮明な赤色。まるで時間が永遠に止まったかのような絶望に、息ができなくなった。
「曲者め! ひっ捕らえろ!」
護衛の兵士たちが駆け寄り、刺客に向かっていく光景が視界の端に映る。刺客は舌打ちをし、形勢不利と見たのか、影のように素早く姿を消した。もうこれ以上襲われる心配はないだろう。だが、俺の意識は刺客ではなく、完全に王子に向けられていた。
襲撃は終わっても、王子の負傷の深刻さが容赦なく俺に現実を突きつける。胸が締め付けられ、無力感と絶望が全身を覆った。
ついさっきまでは、試練を乗り越えた達成感で胸がいっぱいだったのに。一瞬でこんな悪夢のような状況になるなんて、思いもしなかった。
「王子、お願いだから死なないで……」
俺は涙をこぼしながら、王子の顔を見つめる。すると、彼は信じられないような言葉を口にした。
庭園に到着すると、すでに多くの貴族たちが集まっており、儀式の厳粛な空気が漂っていた。神官たちも厳しい表情を浮かべ、静かに待ち構えている。俺を挑発してきた貴族も、冷たい笑みを浮かべながらこちらを見ていた。俺が失敗するとこを見てやろうとでも思っているのだろう。
「ルセル、大丈夫だよ。君ならきっとできる」
王子がそっと肩に手を置き、力強い声で励ましてくれる。
「はい、王子。頑張ります」
緊張で胸が苦しくなっていたが、王子の優しい笑顔とその言葉が、不安を少し和らげてくれた。
試練の内容は、遺跡から聖なる石を取り出し、それを庭園の中心にある台座に置くことだと説明された。その石には特殊な魔力が宿っており、真の聖女だけが安全に扱うことができると言われているらしい。
庭園の奥深くに進むと、遺跡の入口が見えてきた。古代の石碑には緻密な彫刻が施されており、神聖な雰囲気に緊張感が高まる。俺は深呼吸をし、遺跡の中へと足を踏み入れた。王子も俺の後ろからついてきてくれている。
しばらく進むと石室が現れ、その中心には見事な輝きを放つ聖なる石が鎮座していた。その美しさに目を奪われつつも、俺は用心しながら石に近づく。
「心を鎮めて、集中するんだ」
王子のアドバイスが耳に届いた。俺の緊張を和らげるように、彼はそっと肩に手を置いてくれる。王子に励まされ、俺は深呼吸を繰り返した。
そして、決意を新たに、ゆっくりと手を伸ばす。指先が石に触れると、予想以上に強い暖かさが手のひらに広がり、俺は一瞬、驚きで後ずさりしそうになった。
「大丈夫、落ち着いて」
王子の声が優しく響き、俺の心に染み込んでいく。俺はもう一度呼吸を整え、石を両手でしっかりと包み込んだ。
「一緒に運ぼう」
王子が俺のそばにそっと寄り添い、優しく手を添えてくれる。彼の手の温もりが伝わり、緊張していた俺の心が少しだけほぐれていった。まだ不安はあるけれど、王子が一緒なら大丈夫だと、そう思える。
慎重に石を持ち上げると、緊張は再び高まるが、王子が一緒にいることで心が落ち着いていた。二人で一歩一歩、注意深く石を運んでいく。
やがて庭園の中心にたどり着き、台座の前に立った。周囲からの視線が痛いほど突き刺さるが、王子が俺を支えてくれている。彼が隣にいるだけで、不思議とプレッシャーが薄れていった。王子が優しく頷き、それに応えるように俺も深呼吸し、静かに息を整える。
二人で息をぴったりと合わせながら、石を台座にそっと置いた。
次の瞬間、周囲の空気が一変し、庭園全体がまばゆい光に包まれる。周囲から驚きの声が上がる中、王子は満足そうに微笑んだ。
「これで証明されたね。ルセルは真の聖女だ」
王子が誇らしげに言うと、辺りは歓声に包まれた。
「くっ……まさか、成功するとは……」
冷たい笑みを浮かべていた貴族が、歯を食いしばり悔しそうにこちらを睨んでいるのが目に入る。
「さすがアルティス王子だ。聖女をここまで導くとは」
神官たちの感嘆の声も聞こえてきた。
「そうですね、王子のおかげです」
俺が感謝の言葉を伝えると、王子は穏やかに微笑みながら俺の肩を軽く叩いた。
「君の力だよ、ルセル。君は本当に素晴らしいね」
その言葉に、胸が熱くなる。試練を成功させたことで、少しずつ自信が湧いてくるのを感じた。
試練が終わり、ホッと一息をついたその瞬間、庭園の隅でわずかな物音がした。風に揺れる木々の音かと思ったが、背筋に不穏な寒気が走る。
次の瞬間、鋭い風切り音が耳を刺した。
「ルセル、危ない!」
王子の声が響き、反射的に体が硬直する。その直後、王子が目の前に飛び出した。時間が一瞬止まったかのように、目の前の景色がスローモーションで動く。王子はその身を盾にして、迫りくる刃を受け止めていた。
「お……王子っ!」
叫び声が喉から飛び出すも、まるで自分の声ではないかのように遠く聞こえた。倒れた王子が押さえている胸元からは、血がじわりと染み出している。
「そんな……っ、王子、しっかりして!」
震える手で彼の体に触れるが、その温もりが次第に冷たくなっていくのが伝わり、俺は凍りついた。
「ルセル……逃げろ……」
王子は息も絶え絶えに、弱々しい声で言う。しかし、俺はその場から動けなかった。
「嫌だ……! 俺は、王子を置いて逃げたりなんかしない!」
感情が溢れ出し、目の前の現実が信じられずに言葉を絞り出す。目に映るのは、王子の苦しそうな顔と、胸から流れ出る鮮明な赤色。まるで時間が永遠に止まったかのような絶望に、息ができなくなった。
「曲者め! ひっ捕らえろ!」
護衛の兵士たちが駆け寄り、刺客に向かっていく光景が視界の端に映る。刺客は舌打ちをし、形勢不利と見たのか、影のように素早く姿を消した。もうこれ以上襲われる心配はないだろう。だが、俺の意識は刺客ではなく、完全に王子に向けられていた。
襲撃は終わっても、王子の負傷の深刻さが容赦なく俺に現実を突きつける。胸が締め付けられ、無力感と絶望が全身を覆った。
ついさっきまでは、試練を乗り越えた達成感で胸がいっぱいだったのに。一瞬でこんな悪夢のような状況になるなんて、思いもしなかった。
「王子、お願いだから死なないで……」
俺は涙をこぼしながら、王子の顔を見つめる。すると、彼は信じられないような言葉を口にした。
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