俺が聖女なわけがない!

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【03】王宮!?新たな生活の始まり

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広場での混乱が収まり、俺は王子に連れられて王宮を案内されていた。白金の城壁に囲まれた王宮は、足を踏み入れるだけで圧倒されるほど豪華で威厳に満ちている。長い廊下には、精緻な絵画や彫刻が並び、歴史の重みと栄光が装飾の細部にまで刻まれていた。歩を進めるたびに、広大な庭園や壮麗な部屋が次々と視界に広がり、その美しさに息を呑む。まるで夢の中に迷い込んだかのような光景だ。しかし、これは紛れもなく現実であり、俺はこの非現実的な状況にどう適応すればいいのか全く見当がつかないままだった。

「ここが君の部屋だよ」
王子は一際大きな扉の前で足を止め、穏やかに微笑んだ。その扉が静かに開かれると、中には優雅な調度品が整えられた部屋が広がっている。どこを見ても、贅沢で上品な雰囲気に包まれていた。
「部屋って……え? 俺、ここに住むんですか……?」
俺は戸惑いながら王子に視線を向ける。
「そうだよ。君は聖女に選ばれた存在だ。だから、ここで快適に過ごしてもらいたいんだ」
王子は柔らかい口調でそう告げると、優しく俺の肩に手を置いた。
「元々、聖女に選ばれた者は王子と結婚する決まりになっているからね。君は男だけれど、規則に従って僕と一緒に暮らすことになる」
「けっ……結婚!?」
あまりの衝撃に、素っ頓狂な声が自然と漏れてしまった。しかし、王子の表情は真剣そのもので、冗談の気配は微塵も感じられない。

……そうだ、確かに聖女という存在は、王子と結ばれることで神聖な力を安定させ、国を守る役割があると聞いたことがある。それが男である俺にも適用されるなんて、思ってもみなかったけれど……。

改めて目の前の王子を見て、その美しさに思わず息を呑む。整った顔立ち、澄んだ瞳、優雅な微笑み――すべてが完璧で、心臓がドキドキと高鳴ってしまった。
「どうかした?」
王子が少し首をかしげて尋ねてくる。その仕草すらも美しくて、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「い、いえ……なんでもありません……」
慌てて目を逸らし、平静を装う。しかし、心臓の鼓動は一向に収まらなかった。

「疲れただろう。夕飯まで少しここで休んでいてくれ」
王子は穏やかな笑みを浮かべ、そう言い残して部屋を後にした。扉が静かに閉じる音を聞きながら、俺はその場に立ち尽くす。
広々とした部屋に一人きり。目に入るのは、豪華な装飾品、美しい絵画、そして高級そうな家具の数々。現実離れしたこの空間に、自分がいることが信じられない。
「本当に、これは夢じゃないのか……」
ゆっくりと部屋の中を見渡す。自分がこんな立派な部屋に住むなんて、想像もしていなかった。
ベッドに近づき、ためらいがちにその縁に触れてみる。柔らかい触感が指先に伝わり、そのままふっと力を抜くと、ベッドに倒れ込んでしまった。体が沈み込むような感覚に、現実を忘れてしまいそうになる。
「こんなふかふかのベッド、生まれて初めてだ……」
これまでの自分の生活を思い返す。硬いベッドで寝ていた日々とは、まるで別世界だ。
「まさかこんなことになるなんて……」
小さく呟きながら、俺は深呼吸をした。興味本位で聖女選定の儀を見学していただけなのに、平凡な人生を送ると思っていたのに、突然こんな重大な役割を背負うことになるなんて。
俺は部屋の天井を見つめながら、頭の中で先程の出来事を反芻する。選定の儀で自分が選ばれた瞬間、周囲の視線が集まって、混乱して――
俺はどうしていいか分からなくなった。そんな俺の前に、静かに歩み寄ってきたのが、アルティス王子だった。あの時の彼の澄んだ瞳と優雅な微笑みが脳裏に浮かび、胸がドキドキと高鳴る。すべてが現実だとは信じがたく、まるで夢を見ているかのような感覚に包まれた。
「どうして俺が聖女に……」
不安と混乱が入り混じる中、ふと王子の優しい手の温もりがよみがえる。それを思い出すと、ほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。しかし、完全に不安が消えるわけではない。
俺はこれからどうなってしまうんだろう。聖女の責務を果たせるのか、王子と共に歩む未来はどうなっていくのか……。考えれば考えるほど、不安は大きくなるばかりだった。
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