ファンサービスではありませんっ!

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22☆ファンサービス!?

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心地よい眠りから、ぼんやりと目を覚ます。
「あれ?僕いつ寝たんだっけ……」
少しずつ覚醒していく頭で、昨日の夜を思い出し、慌てて飛び起きた。
「いったぁー!」
動いた途端、身体のあちこちに痛みが走る。
そうだ、僕は昨日アイツに散々抱かれて、抱き潰されたのだ。身体中が痛くてだるい。ボロボロにされたことが恨めしいのだが、心は驚く程満たされていた。
ふと隣を見ると、十夜の姿がない。シャワーの音もしていないので、風呂場でもなさそうだ。
僕に一言も言わずに、もう仕事に行ってしまったのだろうか。
――あんなに愛し合ったというのに。朝起きたらさっさと行ってしまうなんて、薄情じゃないか。

そんなことを考えていると、自分の左手に何かが光るのが見えた。
「え……?指輪……?」
シンプルだが、美しく輝く指輪が、僕の左手薬指にはめられていた。
「これって、まさか……」
意味を理解し、顔が熱くなる。アイツが、こんなサプライズをするなんて。思わずその場で、じたばたと小さく暴れた。動揺と恥ずかしさで、何か身体を動かしていないと耐えられない。
「お、気づいたか」
「ぎゃー!!」
突然後ろから聞こえた声に、驚いて叫んでしまった。
「お前、どこから……!」
「ずっと後ろにいたよ。何してるんだ?」
今の挙動不審な様子を見られていたのか。ますます恥ずかしくて、彼の顔を直視できない。
わざと見えないところに隠れて、僕の反応を面白がって見ていたのだろう。悔し紛れに何か言っててやろうと、口を開いた。
「お前、なんで起きた時に隣にいないんだよ!」
言ってから、ハッと気づく。責めようとしたのに、これでは僕が恥ずかしい。つい本音が出てしまった。居たたまれなくなりこの場から逃げ出したいが、まだ身体が動かせない。顔を真っ赤にしながら、俯いて耐えるしかなかった。これはからかわれるだろうな、と覚悟する。
「ごめん……」
「えっ……」
予想に反して力のない声が聞こえた途端、抱き締められた。
「光輝が目を覚ました時に、どんな顔で何を言えばいいのか悩んじゃってさ……」
コイツらしからぬ、しおらしい様子にどぎまぎする。顔が見たくてもがいてみるが、がっしりと抱き締められていて動けなかった。まさか、コイツも照れているのだろうか。信じられないようなことだが、もしそうだとしたら嬉しい。悩んだ末に後ろに隠れていたなんて、可愛いところもあるじゃないか。
「その指輪……貰ってくれるか?」
「うん、嬉しい……」
僕はそう言って抱き締め返す。夢のように幸せな気分だ。
こんなちゃんとした指輪、一体いつから用意していたのだろうか。
「実家の店のだけど、ちゃんと給料三ヶ月分支払ったからな」
「そ、そんなに高いの!?」
「当たり前だろ」
十夜が真面目な顔で僕を見つめる。
「一生に一度のプロポーズなんだから、妥協できないんだよ……」
「……っ、十夜……ありがとう、大切にするね」
十夜の言葉に、胸の奥が熱くなった。幸せ過ぎて、涙が出そうになる。

「はぁー、良かった。危うく指輪を渡す前に別れるところだったよ……」
急に脱力したように言う十夜に、思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんだよ」
「だって、十夜らしくないんだもん」
「お前のことになると、必死なんだよ」
そう言いながらも十夜も笑う。二人で笑い合っていると、さらに幸せで胸がいっぱいになった。

「それにしても、生放送でキス拒んじゃったから、また変な噂されてるのかなぁ……」
昨日のことを思い出して、少し憂鬱になってしまう。
「ああ、それなら多分もう大丈夫だ」
「え?どういうこと?」
十夜がスマホの画面を僕に見せてきた。そこには、SNSの書き込みが表示されている。
『十夜と光輝がついに結婚した……尊い……最高のカップル……』
『十夜くんと光輝くん、おめでとう!お幸せに!』
予想に反して、好意的な……というか、なぜか祝福するようなコメントが多く寄せられていた。
「なんで……?」
「さっきの俺の投稿がきっかけだろうな」
「え、投稿って……?」
十夜の投稿を確認してみると、『愛する光輝へ』という文章と共に、二枚の写真が載っている。
一枚目は指輪単体の写真で、二枚目は指輪を嵌めた僕の手の写真だ。
「ちょっと!?いつの間に……!?恥ずかしいんだけど……」
「勝手に写真撮ったのは悪かったけど、これが一番いいかなって」
確かに、これは効果があるだろう。でも、ちょっとやり過ぎじゃないか……。
スマホを再度よく見ると、その投稿にもたくさんコメントが付いていた。
『もしかして、寝てる間にサプライズプレゼント?最高!』
『え、つまりこれって事後では……』
『おいコラ、何してんだよ』
最後のは翔だったけど。
「翔までコメントしてるし……。って、ちょっと!事後ってバレてるじゃん!」
「別にいいだろ。もう隠すことないし」
それはそうなのだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
呆れる僕を、十夜は優しく抱き寄せる。
「光輝、好きだよ」
耳元で囁かれて、顔が熱くなる。こんなことをしている場合ではないのだが、幸せすぎて何も考えられない。
「うぐぐ……」
僕は十夜の胸に顔を埋め、ただただ赤面していた。

***

――それから数週間後。
今日は僕達のコンサート当日。チケットは完売し、会場は超満員となっていた。
順調に演目が進んで行き、終盤が近づいたところで、突然教会のようなセットが運び込まれてくる。
「え……?」
突然の出来事に戸惑っていると、メンバーに促されて十夜の隣に立たされた。祭壇の前に二人で並ぶような形になる。
十夜はマイクを握り、客席に向かって話し始めた。
「俺、十夜は、愛する光輝と、一生を共にすることを誓います!」
そう言った瞬間、観客席から悲鳴に近い歓声が上がる。
「は、はぁ!?」
あまりの急な展開に、頭がクラクラした。コイツは一体何を言い出しているのか。
「光輝、おめでとう!」
メンバー達が拍手をしながら、笑顔でこちらを見ている。暴走男を止めてくれる人がいない。というか、どうやら僕だけに知らされていなかった、サプライズのようだ。
「皆さん、どうか見届けてください!俺達の結婚式を!」
こんなに生き生きとした十夜を見たのは初めてかもしれない……。
「ちょっと、何言ってんの!?大事なコンサートの最中にこんな……」
必死に抵抗するが、十夜はいたずらっぽく微笑んで囁いた。
「俺達を応援してくれているファンへのファンサービスだよ」
「な、なるほど……?」
思わず納得しそうになったが、やっぱりおかしい気がする。
「ほら、光輝」
呆然としている僕に、手が差し出された。もう、逃げられないと悟る。
でも、それを嬉しく思ってしまう自分もいた。強引なことばかりする奴だけど、それ程に僕を想ってくれているということだろう。

僕は観念して、差し出された手を取った。せめてもの抵抗に、勢いでそのまま抱きついてやる。意表を突かれて驚いている彼に、小さな声でそっと気持ちを伝えた。

――十夜、愛してるよ。

目を見開いて言葉を失っている十夜に、僕から口付けをする。
観客席からは、歓声と悲鳴と拍手が鳴り止まなかった。

ファンのみんな、ありがとう。でも、ごめん。
これは……ファンサービスではありませんっ!
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