3 / 22
03☆土下座アイドル
しおりを挟む
「……で、何か言いたいことは?」
「た……大変……申し訳ございませんでした……」
僕は大っ嫌いな男の部屋で、ただただ土下座をしていた……。
なんとか婚約の阻止をしようとした僕は、よりにもよって、とんでもないことを口走ってしまった。
あの時のスタジオの空気といったら。気まずいなんてもんじゃない。まるで時が止まったかのようにシーンとしていた。
その後、すぐに撮影は再開されたのだが、僕は生きた心地がしなかった。十夜の顔を見ることが出来ず、終始俯いていた。
撮影が終わり、気づいた時にはコイツの家に連れて来られて、今に至る。
どうして僕は、コイツと付き合っているなんて言ってしまったのだろう。
しかも、さっきの女性についての真相を聞いて、更に後悔することになった。
彼女は水木プロデューサー――僕達をデビュー当時からサポートしてくれている敏腕プロデューサーの、娘さんだったのだ。
「ミズキ」は名前ではなくて名字だった。
彼女は恋人との婚約が決まり、婚約指輪を注文に行った店が、たまたま十夜の実家だったらしい。
世間には公表していないが、十夜の実家はジュエリーショップなのだ。
普段は家の仕事には関わらない十夜だが、お世話になっているプロデューサーの娘さんということで、オーダーメイドのデザインなど、相談に乗っていたということだった。
早とちりして余計なことを言ってしまった、さっきの自分を殴りたい。
プロデューサーの娘さんにも失礼なことをしてしまったし、あの場にはスタッフも大勢いた。
しかも、よりによって今日は雑誌の取材も来ていたのだ。あの出版社はゴシップ週刊誌も発行しているところだから、注意するようにマネージャーに言われていたのに。きっと、近いうちに記事にされて、世間に広まるだろう。そうなれば大騒ぎだ。
ああ……終わった……。もうクビだ。クビに違いない……。
「これから先、どうやって生きていこう……」
つい声に出して絶望に打ちひしがれていると、十夜が口を開く。
「光輝、こうなったらもう、腹を括るしかないな」
「えっ!?どういうこと?」
驚いて顔を上げると、目の前に真剣な表情をした十夜がいた。その迫力に押されてゴクリと唾を飲み込む。
「俺達、付き合おう」
「……へっ?」
何を言われたのか理解出来ず、僕は固まった。
なんだ?今、何て言ったんだ?ツキアオウ?何を?あ、お餅つきかな?もうお正月は大分過ぎてるけどなぁ。
口を開けてぽかんとしながらお餅のことを考えていると、十夜に手を握られる。
「光輝……」
熱く囁くように名前を呼ばれ、ドキドキして動くことができない。目の前の男は、真剣な顔で僕を見つめている。
どうしてコイツはそんな目で僕を見ているんだろう、と回らない頭で考えるが、理解が追い付かない。
「俺とお前は、今日から恋人同士だ」
「はい……」
頭がぼうっとして無意識に返事をした瞬間、コイツの顔はいつも通りになり、手を離された。
「じゃあ、すぐに事務所に報告しよう」
仕事中のようなハキハキした声を聞いて、僕は我にかえる。
「いや、待って、付き合う!?恋人!?」
さすがにお餅つきの話ではなかったと分かったが、何をどうしたらそんな展開になるのか。
「俺達が本当に真剣に付き合っているなら、何も問題ないだろう?」
「いや……問題あるよな!?」
男同士だし、同じグループのメンバー同士だし、そもそも仲も悪いし……。
「正直に嘘だったって言う方がまだ……」
「水木さんに嘘を言ったって、言うのか?」
そうだった。よりによってプロデューサーの娘さんに向かって言ってしまったんだった。
どう転んでもダメなこの状況では、確かに、真剣にお付き合いをしていると先に公表する方がだいぶマシなのかもしれない。
「俺達のファンは、ふじょし?っていう男同士が仲良くしているのが好きな層も多いって聞くし、受け入れてもらえるんじゃないかな」
「それは確かにそうだよな……」
それもあって、今回の撮影も絡みが必須だったのだ。もちろん、こういうことが苦手なファンもいるだろうけれど、週刊誌に好き勝手なことを書かれるよりは良いだろう。
「……分かった……そうしよう」
僕がうなだれて認めると、手が差し出される。
「じゃあ、これからは恋人として、よろしくな」
握手をしながら、恋人ってこういうものだっけ……と、ぼーっと考えていた。
「た……大変……申し訳ございませんでした……」
僕は大っ嫌いな男の部屋で、ただただ土下座をしていた……。
なんとか婚約の阻止をしようとした僕は、よりにもよって、とんでもないことを口走ってしまった。
あの時のスタジオの空気といったら。気まずいなんてもんじゃない。まるで時が止まったかのようにシーンとしていた。
その後、すぐに撮影は再開されたのだが、僕は生きた心地がしなかった。十夜の顔を見ることが出来ず、終始俯いていた。
撮影が終わり、気づいた時にはコイツの家に連れて来られて、今に至る。
どうして僕は、コイツと付き合っているなんて言ってしまったのだろう。
しかも、さっきの女性についての真相を聞いて、更に後悔することになった。
彼女は水木プロデューサー――僕達をデビュー当時からサポートしてくれている敏腕プロデューサーの、娘さんだったのだ。
「ミズキ」は名前ではなくて名字だった。
彼女は恋人との婚約が決まり、婚約指輪を注文に行った店が、たまたま十夜の実家だったらしい。
世間には公表していないが、十夜の実家はジュエリーショップなのだ。
普段は家の仕事には関わらない十夜だが、お世話になっているプロデューサーの娘さんということで、オーダーメイドのデザインなど、相談に乗っていたということだった。
早とちりして余計なことを言ってしまった、さっきの自分を殴りたい。
プロデューサーの娘さんにも失礼なことをしてしまったし、あの場にはスタッフも大勢いた。
しかも、よりによって今日は雑誌の取材も来ていたのだ。あの出版社はゴシップ週刊誌も発行しているところだから、注意するようにマネージャーに言われていたのに。きっと、近いうちに記事にされて、世間に広まるだろう。そうなれば大騒ぎだ。
ああ……終わった……。もうクビだ。クビに違いない……。
「これから先、どうやって生きていこう……」
つい声に出して絶望に打ちひしがれていると、十夜が口を開く。
「光輝、こうなったらもう、腹を括るしかないな」
「えっ!?どういうこと?」
驚いて顔を上げると、目の前に真剣な表情をした十夜がいた。その迫力に押されてゴクリと唾を飲み込む。
「俺達、付き合おう」
「……へっ?」
何を言われたのか理解出来ず、僕は固まった。
なんだ?今、何て言ったんだ?ツキアオウ?何を?あ、お餅つきかな?もうお正月は大分過ぎてるけどなぁ。
口を開けてぽかんとしながらお餅のことを考えていると、十夜に手を握られる。
「光輝……」
熱く囁くように名前を呼ばれ、ドキドキして動くことができない。目の前の男は、真剣な顔で僕を見つめている。
どうしてコイツはそんな目で僕を見ているんだろう、と回らない頭で考えるが、理解が追い付かない。
「俺とお前は、今日から恋人同士だ」
「はい……」
頭がぼうっとして無意識に返事をした瞬間、コイツの顔はいつも通りになり、手を離された。
「じゃあ、すぐに事務所に報告しよう」
仕事中のようなハキハキした声を聞いて、僕は我にかえる。
「いや、待って、付き合う!?恋人!?」
さすがにお餅つきの話ではなかったと分かったが、何をどうしたらそんな展開になるのか。
「俺達が本当に真剣に付き合っているなら、何も問題ないだろう?」
「いや……問題あるよな!?」
男同士だし、同じグループのメンバー同士だし、そもそも仲も悪いし……。
「正直に嘘だったって言う方がまだ……」
「水木さんに嘘を言ったって、言うのか?」
そうだった。よりによってプロデューサーの娘さんに向かって言ってしまったんだった。
どう転んでもダメなこの状況では、確かに、真剣にお付き合いをしていると先に公表する方がだいぶマシなのかもしれない。
「俺達のファンは、ふじょし?っていう男同士が仲良くしているのが好きな層も多いって聞くし、受け入れてもらえるんじゃないかな」
「それは確かにそうだよな……」
それもあって、今回の撮影も絡みが必須だったのだ。もちろん、こういうことが苦手なファンもいるだろうけれど、週刊誌に好き勝手なことを書かれるよりは良いだろう。
「……分かった……そうしよう」
僕がうなだれて認めると、手が差し出される。
「じゃあ、これからは恋人として、よろしくな」
握手をしながら、恋人ってこういうものだっけ……と、ぼーっと考えていた。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された
うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。
※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。
※pixivにも投稿しています
おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話
こじらせた処女
BL
網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。
ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。
櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。
次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!?
俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。
そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──?
【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】
隣の幼馴染のエロ発明に今日も俺は巻き込まれる
あるのーる
BL
花菱健助は隣に住む幼馴染の鳥津秀太に恋をしていた。
しかし秀太との関係を壊さないよう大学卒業まで思いを秘めることを決意している健助は、発明家である秀太の助手としてアルバイトをする日々を送っている。時折好意が駄々洩れになりながらも秀太の世話を焼く健助は、秀太の生み出す発明品によって毎回エロいことに巻き込まれるのだった。
・・・・・
発明家×幼馴染のBLです。
CP固定で♡喘ぎ、淫語、他様々なプレイがあります。基本受け視点ですが、1話だけ攻め視点があります。(pixiv再掲)
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる