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02☆婚約者現る!
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「はい、これ飲んで」
翔が温かいお茶を差し出してくれる。
「ありがとう……」
それを受け取りながら、僕は先程のことを思い出していた。
いきなり首筋にキスをされてしまった……。幸い誰にも気づかれていないようだから良かったが、アイツ、一体どういうつもりなんだ。嫌がらせにしても悪質すぎる。後で文句を言わないと。
(でも……なんかいい匂いしたな……)
ハッとなって首を横に振る。何を考えているんだ僕は。相手は男、しかも大っ嫌いな十夜だ。
あの時の感触を思い出してドキドキなんてしてない!してないぞ!!
ブンブンと頭を振っていると、翔に心配そうな目を向けられた。
「どうしたんだ?体調悪いのか?」
「だ、大丈夫!何でもないよ!」
慌てて誤魔化しながらお茶を飲む。
落ち着け、これは仕事なんだ。良い写真を撮るためにやっただけだ。そう自分に言い聞かせて、必死に気持ちを切り替えようとする。
そんなことをしていると、スタジオの扉が開き、一人の女性が入ってきた。
特別美人というわけではないが、黒髪ロングで清楚な雰囲気だ。スタッフにしては身綺麗過ぎるし、女優でもなさそうである。一体何の関係者だろうか。
そう思った途端、その女性は十夜の姿を見つけて、駆け寄っていく。
「十夜さん!お疲れ様です」
ニコニコと微笑む彼女を見て、僕は思わずため息をついた。なんだ、彼女は十夜のファンか。関係者の中にも僕達のファンはたくさんいる。恐らく彼女は何らかの関係者で、十夜に会いたくてやって来たのだろう。
まあ、そんなことをしたところで、どうせこの堅物には一切相手にされないのだけど。
十夜は学生時代からめちゃめちゃモテていた。しかし、なんと一度も女の子と付き合ったことがないのだ。
最初は理想が高いのか?などと思ったが、どうやら恋愛に全く興味がないらしい。可愛い子にどんなにアプローチされても、まったく靡くことがなかった。
アイドルとしてのファンサービスはしっかりとするが、プライベートで近づいてくる女性には塩対応。落胆して去っていく女の子達を何度も見てきた。
だからこの女性もきっと、無反応な十夜にガッカリするのだろう。可哀想に。落ち込んだところに声をかけて、僕のファンにしてしまおうかな?なんてね。
そんなことを考えていたが、次に目に入ったのは予想外な光景だった。
「ミズキさん……どうしてここに?」
無愛想なはずの男が、驚いたように女性を見つめている。
「今日こちらで撮影があると聞いて……休憩中にごめんなさいね」
女性は親しげな様子で話し始めたのだ。
(え……?どういうこと……?)
本来であれば、素っ気なくあしらう男と、落胆する女性の姿があるはずだったのに。今目の前に見えるのは、少し戸惑っているような表情のイケメンと、楽しそうに話をする女性だ。しかも、名前で呼び合っている。
思いもよらない光景にショックを受け、女性の言っていることが耳に入って来ない。
嫌な予感が頭を巡った。心臓がドクンドクンと大きな音を立てている。
(まさか……いやそんな馬鹿な……)
頭に浮かんでくる考えを振り払うことが出来ず、思わず僕は聞いてしまった。
「ね、ねえ、二人はどういう関係……?」
僕に目を向けた女性は、にっこりと微笑む。
「婚約指輪のことで、十夜さんに相談に来たんです」
彼女の言葉に、頭を強く殴られたような衝撃を受けた。
(十夜が……婚約……!? )
信じられない出来事に動揺し、身体中から汗が噴き出すのを感じる。恋人どころか、婚約者だったなんて。
「あ、その話はここでは……」
十夜が、少し焦ったように女性を止めに入った。それによって、この話が更に真実味を増す。
トップアイドルが婚約だなんて、マスコミに知られたら大変だからだ。アイドル活動に間違いなく支障が出るだろう。
「いや、だめだよ、そいつは……!」
気づいた時には、僕は無意識に叫んでいた。
そうだ、このままでは十夜が婚約してしまうのだ。
(阻止しなきゃ……!)
何故だか、僕の頭はそんなことでいっぱいになっていた。
女性が怪訝な表情を僕に向ける。
「あなたには関係ありませんけれど……」
「か、関係あるよ、だって……」
なんとかして、この婚約を食い止めたい。そう必死な僕が、絞り出した言葉は。
「僕と十夜、付き合ってるからっ!!」
翔が温かいお茶を差し出してくれる。
「ありがとう……」
それを受け取りながら、僕は先程のことを思い出していた。
いきなり首筋にキスをされてしまった……。幸い誰にも気づかれていないようだから良かったが、アイツ、一体どういうつもりなんだ。嫌がらせにしても悪質すぎる。後で文句を言わないと。
(でも……なんかいい匂いしたな……)
ハッとなって首を横に振る。何を考えているんだ僕は。相手は男、しかも大っ嫌いな十夜だ。
あの時の感触を思い出してドキドキなんてしてない!してないぞ!!
ブンブンと頭を振っていると、翔に心配そうな目を向けられた。
「どうしたんだ?体調悪いのか?」
「だ、大丈夫!何でもないよ!」
慌てて誤魔化しながらお茶を飲む。
落ち着け、これは仕事なんだ。良い写真を撮るためにやっただけだ。そう自分に言い聞かせて、必死に気持ちを切り替えようとする。
そんなことをしていると、スタジオの扉が開き、一人の女性が入ってきた。
特別美人というわけではないが、黒髪ロングで清楚な雰囲気だ。スタッフにしては身綺麗過ぎるし、女優でもなさそうである。一体何の関係者だろうか。
そう思った途端、その女性は十夜の姿を見つけて、駆け寄っていく。
「十夜さん!お疲れ様です」
ニコニコと微笑む彼女を見て、僕は思わずため息をついた。なんだ、彼女は十夜のファンか。関係者の中にも僕達のファンはたくさんいる。恐らく彼女は何らかの関係者で、十夜に会いたくてやって来たのだろう。
まあ、そんなことをしたところで、どうせこの堅物には一切相手にされないのだけど。
十夜は学生時代からめちゃめちゃモテていた。しかし、なんと一度も女の子と付き合ったことがないのだ。
最初は理想が高いのか?などと思ったが、どうやら恋愛に全く興味がないらしい。可愛い子にどんなにアプローチされても、まったく靡くことがなかった。
アイドルとしてのファンサービスはしっかりとするが、プライベートで近づいてくる女性には塩対応。落胆して去っていく女の子達を何度も見てきた。
だからこの女性もきっと、無反応な十夜にガッカリするのだろう。可哀想に。落ち込んだところに声をかけて、僕のファンにしてしまおうかな?なんてね。
そんなことを考えていたが、次に目に入ったのは予想外な光景だった。
「ミズキさん……どうしてここに?」
無愛想なはずの男が、驚いたように女性を見つめている。
「今日こちらで撮影があると聞いて……休憩中にごめんなさいね」
女性は親しげな様子で話し始めたのだ。
(え……?どういうこと……?)
本来であれば、素っ気なくあしらう男と、落胆する女性の姿があるはずだったのに。今目の前に見えるのは、少し戸惑っているような表情のイケメンと、楽しそうに話をする女性だ。しかも、名前で呼び合っている。
思いもよらない光景にショックを受け、女性の言っていることが耳に入って来ない。
嫌な予感が頭を巡った。心臓がドクンドクンと大きな音を立てている。
(まさか……いやそんな馬鹿な……)
頭に浮かんでくる考えを振り払うことが出来ず、思わず僕は聞いてしまった。
「ね、ねえ、二人はどういう関係……?」
僕に目を向けた女性は、にっこりと微笑む。
「婚約指輪のことで、十夜さんに相談に来たんです」
彼女の言葉に、頭を強く殴られたような衝撃を受けた。
(十夜が……婚約……!? )
信じられない出来事に動揺し、身体中から汗が噴き出すのを感じる。恋人どころか、婚約者だったなんて。
「あ、その話はここでは……」
十夜が、少し焦ったように女性を止めに入った。それによって、この話が更に真実味を増す。
トップアイドルが婚約だなんて、マスコミに知られたら大変だからだ。アイドル活動に間違いなく支障が出るだろう。
「いや、だめだよ、そいつは……!」
気づいた時には、僕は無意識に叫んでいた。
そうだ、このままでは十夜が婚約してしまうのだ。
(阻止しなきゃ……!)
何故だか、僕の頭はそんなことでいっぱいになっていた。
女性が怪訝な表情を僕に向ける。
「あなたには関係ありませんけれど……」
「か、関係あるよ、だって……」
なんとかして、この婚約を食い止めたい。そう必死な僕が、絞り出した言葉は。
「僕と十夜、付き合ってるからっ!!」
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