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38.魔王と勇者が誓い合っていたんですが!?

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「えっと……、話が逸れてしまったんだけど、ソウタは記憶が戻ったから、魔王を倒しに行こうとしたの?」
「そうなんだ。リオンの家で勇者の剣を持った瞬間に、一気に記憶が蘇ったんだよ」
記憶が戻ったソウタは、同時に勇者の力にも目覚めたため、魔王が村の近くにいる気配を感じたらしい。
どうして自分が勇者なのかは謎だったが、これからレベルを上げなくてはならないリオンよりは自分が魔王を倒しに行く方が良いだろうと考えたそうだ。
「ミノルは、ゲームの2周目以降は内容が変わることがあるのは知ってる?」
「ああ、知ってはいたけど、あまり色々なルートはやっていなかったんだ」
「俺はけっこうやり込んでいたんだけど、魔王がレヴェイユ村の近くに潜んでいるルートがあってね。これはきっとそのルートだと気が付いたんだ」
「なるほど……。それで洞窟の場所とか知っていたんだな」
俺は納得した。ソウタは、効率良く魔王を倒す最短ルートで動いていたのだろう。

「でも、魔王があんな魔術を使ってくるのは予想外だったな……。まさか快楽漬けにしようとしてくるなんて思わなかった……。そして最高に気持ち良かった……」
やはり、そこはゲームの内容とは違っていたということか。気持ち良かったなら何よりだが……。
「さらに、ソウタが魔王と恋仲になってることが予想外だけどね……」
「そうだねぇ。魔王は本当は悪い奴じゃないんだけど、魔王としての宿命を背負っているらしくて……。魔物達に人間を襲わせないといけないのが嫌で、ひっそりと洞窟に潜んでいたみたいなんだ」
「そうだったのか……」
「魔王は、俺が望むなら人間を襲うのをやめるって約束してくれたよ」
「それは助かるな。しかし、本当に信用できるのか?魔王が人間を襲わないからといって、魔物が人間を襲わないとは限らないぞ」
王子が鋭い指摘をする。確かにそうだ。魔王の部下である魔族達は、これからも人間を襲い続けるかもしれない。
「そこは大丈夫です。俺が魔王に頼んで、部下達にもちゃんと話をしてきました。みんな魔王の言うことは聞いていましたよ」
「そこまでしていたのか……」
「さらに、魔王と誓約の指輪を交換したんです」
「ええ!?そんなすごいアイテムを……!?しかも魔王と……」
俺は驚いて声を上げてしまった。

誓約の指輪とは、お互いに自分の名前を刻印した指輪を交換することによって成立するアイテムだ。その効果は絶大であり、約束を破ったり裏切ったりすれば、命を落とすと言われている。
ゲームでは、リオンが幼馴染のレオナと結婚する際に使っていた。この世界の結婚って重いな……ってちょっと思った覚えがある。

「うん、交換したんだ。これで、魔王が裏切ったりしないという証明になるはずだ」
ソウタは、左手の薬指に光る指輪を見せてくれた。
「そうだったんだ……。そこまでしてくれていれば安心だけど、ソウタは自分を犠牲にしていないか?」
世界を魔王の手から守ろうとして、無理していないだろうか。俺は心配になって、聞いてみた。
「大丈夫。最初は怖かったけど、今は魔王を愛してる。魔王と一緒に生きていきたいと思ってるよ」
「そうなのか……。凄いな。いったい何がきっかけになったんだ?」
「一番は、魔王が寂しいって言ってきたところかな。魔王も人間と変わらないんだなって思って……。しかも、立場上、魔王として振舞わないといけないし、大変だったんだなって思ったら、なんか放っておけなくてさ。それからは魔王に付き合ってそのまま一緒に過ごしているうちに、いつの間にか魔王に惹かれていたんだ」
ソウタは幸せそうに笑っている。俺はソウタのことを尊敬してしまった。
俺がソウタの立場だったとしたら、そんな風に思えたか分からない。ソウタは勇者に相応しい、素晴らしい人格を持っていたのだなと思う。
「そうだったんだね……」
「それに、魔王ってけっこうイケメンだし、魔力もあって頼りがいあるし、マッサージも上手いんだよね。普段は無表情なのに、時折見せる笑顔が可愛くて……」
あれ、ノロケが始まった……。けっこうソウタも魔王にベタ惚れなのか……?まあ、幸せなのは良いことだ。
「羨ましいなぁ……」
俺がそう言うと、王子が俺の頭を撫でてきた。
「ミノル……。私では不満か?」
「まさか!王子は美形だし、魔力も強くて、剣術の腕も確かだし、性格だって優しくて素敵な人だよ。マッサージも上手いし……」
「ありがとう、ミノル……。君がいるから私は頑張れるんだ」
「俺も、王子が側に居てくれるから安心できるよ」
俺と王子は見つめ合う。そして、互いに微笑みあった。
「うーん、相変わらずラブラブだね……。まあ俺も魔王にベタ惚れだから人のことは言えないけど……」
ソウタが苦笑いをしている。俺はハッとなって王子から離れた。王子は名残惜しそうな顔をしている……。
「そ、それで、ソウタはこれからどうするの?」
俺は話題を変えるためにソウタに質問した。しかし、ソウタの返事に耳を疑うことになる。

「そうそう、明日あたり元の世界に帰ろうと思うんだけど、ミノルも一緒に行かない?」

…………えっ???
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