公爵令嬢の取り巻きA

孤子

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第1章

エルーナとライラ 1

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 レストランの中に入ってから食事が終わり、食後のデザートが出て一息つくまで、カトラリーと皿が軽く当たる音、食事のための最低限の動きによる衣擦れの音、料理を運ぶウェイターの足音以外の音がまるでなかった。

 つまりは誰も何も言わず、ただ黙って出てきた食事に口をつけるだけであったのである。護衛や侍女は交代しながら別室にて食事をとっているため、そちらではまだ会話があるのだが、エルーナたちがいる部屋は静寂に包まれているのである。

 理由はいくつかあるのだが、その最たるものが、ライラがエルーナを、メルネアがライラを敵視しているのからである。

 ライラは最初からエルーナへの態度が一貫して悪く、メルネアもそんな態度をとるライラの事が気に入らないわけである。エルーナも最初の内はメルネアをなだめていたのだが、一向に空気が良くなる気配がなく、もとはと言えばライラとの関係が悪いにもかかわらず、事を収めるためにライラも食事に誘った自分が悪いと思い直し、黙っていることにしたのだ。

 結果、1時間近く無言の食事が続くことになったわけである。

 (空気は最悪。デザートも半ば食べ終わっているというのに会話の「か」の字もしていない。かと言ってうまく話題を提供できる自身もないし。食事が終わって別れるまでこのままかな・・・。)

 エルーナがそっとため息を吐いた時、しびれを切らしたメルネアがドンッと大きな音を立てて机を叩き、ライラを睨みつけた。淑女らしからぬその行為に周りはメルネアに釘付けになり、メルネアの侍女は驚きのあまり口をハクハクとさせながらメルネアをなだめようと動く。

 けれど、侍女が抑えるよりも早く、メルネアはライラに怒鳴りつけた。

 「いい加減にその態度を改めたらどうなのですか?ライラ=アンセルバッハ!」

 いきなり怒鳴られたライラは多少驚きはしたものの、他の皆よりは幾分冷静で、怒られたことに対しても少し眉を顰めるくらいの反応しか見せなかった。

 「態度、と言いますと?」

 冷静に返されたことで少し頭が冷えたメルネアは、浮かせた腰を下ろし、居住まいを正して軽く深呼吸をした。

 「・・・エルーナに対する態度です。入り口でもそうでしたが、貴女のエルーナに対する態度はとても貴族の令嬢に相応しいとは思いませんよ。」

 エルーナの名前が出た途端、今度はライラの表情がガラッと変わり、怒りの形相をエルーナに向けて静かに答えた。

 「メルネア様は彼女の本性を知らないからそうして庇うことができるのです。」

 「どういうことですか?」

 「エルーナが私にしたことお聞きになれば、すぐにでもメルネア様は目が覚めることでしょう。」

 鋭い目つきでじっと見つめられるエルーナは目をそっと伏せた。心当たりがないわけではない。だからこその反応である。

 それからライラは一年前の出来事を語り始めた。エルーナとライラの仲が決定的に崩れた、ある日の出来事を。
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