318 / 329
第5章
ハルフリートとオーランド
しおりを挟む
私はハルフリート=マグライナー。アスタリア皇国のエスカートとして、数代前の皇王からずっと皇国を陰ながら支えてきた。もうあれから200年は優に経っているので、今では当時からの友人知人などは片手で数えられるほどしか残っていないが、その時々で浅いながらも交友関係を築いているので別段寂しさは感じていない。
私が普通の人間と違って老いずに生きながらえているのは特殊な故あっての事だ。エスカートとなる少し前に友人と共にある山で見つけた洞窟を探検し、最奥にあった盃型の鍾乳石に溜められていた水を飲んだせいで、私の黒かった髪や目の色は緑に変わり、その当時の容姿から全く変わる事が無くなってしまったのだ。
おかげで私は世界中のエスカートの中でも稀有な代替わりすることのないエスカートとなった。本当に終わりなく生きられるのかはわからないが、それでも今まで何の変化もなく、周りのエスカートも代替わりする中でただ一人そのままでいるのだから、あの水の効果によってはこれからもずっと皇国のエスカートとして在り続けるだろう。
さて、先程私は当時からの友人知人は片手で足りるだけしかいないと言ったが、その一人が今私の目の前で優雅にお茶を楽しんでいる。友人の方ではない。知人というほど遠い存在でもないが。言うならば腐れ縁というものだろう。
オーランド=ラディン。レゼシア王国のラディン男爵家の長男として家督を継ぎ、一つの街を統治しているだけのそこら辺にいるような底辺貴族に扮した怪物である。
実際には自身の部下を王国の貴族に仕立て、それから4代の内に貴族としての立場を固めてから誰にも気づかれないように王国の貴族に入り込んだのである。
今ではそのあまりにも強大な影響力から家の名前ではなく個人名をあげて、オーランド男爵と呼ばれているその男は、私がエスカートになってからほどなく出会った者で、これまで3度も共に旅してきた仲である。
一度目は皇国の森に異常な進化を遂げたモンスターが現れた時、そのモンスターの殲滅のために少数精鋭で組んだ十人班の中で共になった。その時は人間だと思っていたが、その実力からただものではないことはわかっていた。
二度目は三代前の皇王の治世の時に起こりかけたホーステリア帝国との戦争を回避するために、ホーステリア帝国からやってきた貴族に扮したオーランドと共に両国間を行き来していた。初めて会ったあの時から一切姿が変わっていなかったことから、もしやオーランドも私と同じく不老の力を得てしまったのかと思ったが、理由は全く違うものだった。
三度目は二代前の皇王の時代に魔王が動き出し、世界が危機に瀕したとき、魔王を討つための特殊暗殺部隊として各国のエスカートや強者が集められた時、海を隔てた南方の大陸にある国の強者としてオーランドが仲間に加わった。性格も実力も変わらずそのままでいることに懐かしさを感じつつ、最初に会った時から考え方が合わないところもそのままであり、相変わらず好かん奴だった。
そして今日。オーランドはまたも私の前にいる。老いることも性格などが変わることもなく、そのままの姿でここにいるのだ。そう考えるといくら腐れ縁とはいえ感慨深いものがある。
私はゆっくりと茶を飲み、アナトリアとナティーシャが部屋に来るのを待っているオーランドに明らかな不満顔を見せ、悪態をついた。
「オーランド。話ならば二人がいなくとも私たちだけでも十分できる。始めてくれないか?」
この場には私とオーランド、オーランドが連れていた従者、そしてエレアがいる。少なくとも私とオーランドとエレアがいれば話は進められるのではないかと思うのだが、この男は微笑みながら首を横に振った。
「いえ、全員が揃ってから始めます。その方が都合がいいので。」
「それは誰の都合だ?」
あまり他の人にはしない荒れた言葉遣いでオーランドを問い詰める。隣に座っているエレアは私の態度に目を丸くしているが、今はそちらに構っている暇はない。
「私はいつでも全員の事を考えていますよ。」
「そう言いつつ、最も自分に都合がいいように持っていくのがあなただろう?」
「それは偏見というものですよ。仮に私にとって一番都合がいい状況になっているとすれば、それが一番全体のバランスを保つことができると考えたからでしょう。」
ぬけぬけとそう言ってのけたオーランドはお茶のお替りを従者に注がせる。この従者もこの男の部下であることから特殊な力や能力があるのだろうが、それを一切感じさせずに影に徹している。
「あの、ハルフリート様とオーランド男爵はどういうご関係なのですか?」
たまらずといったようにエレアが質問した。すぐには誰も答えなかったが、一拍置いてオーランドが口を開いた。
「昔を知る者同士であり、共に死線を潜り抜けた戦友であり、考え方に相違がありどうにもそりが合わない二人。そのような関係ですよ。」
「同じことを考えているというのが癪だが、まあそんなところだ。」
私たちの答えにますます混乱するエレア。エレアが納得する前に、扉をノックする音が部屋に響き渡った。
「アナトリアとナティーシャです。」
「入りなさい。」
私が入室の許可を出すと、笑顔の下に困惑の色が見えるアナトリアと、丸で全てを聡っているような年齢に見合わない落ち着き払った表情のナティーシャが扉を開けて中に入ってきた。
アナトリアは必死でかつての自分と今の自分との状況の違いを見極めて直そうとしており、今でも突然の状況に目をまわしつつも取り繕いながらついてこようとしている。真面目でしっかりとした娘だと思う。
ナティーシャは、実のところまだあまりつかめていない。底が知れないというか、外見と内面の差が激しいせいで読み取りにくいのだ。それは私がまだ予知ができる者と会った経験が少ないせいもあるのだろう。
予知とほぼ同じことをする者なら知っているのだが。
オーランドも予知に近い事を行うが、この男の場合は膨大な情報の中から必要なもののみを抽出し、未来を推測するというのだから、実際に見て感じることのできる予知とはまた違う。
二人が各々席に座ると、オーランドはようやくお茶を飲むのをやめ、話し始めた。
それはこれから王国で起こることと、私たちがそれにどう巻き込まれていくのか、どう対処していき、最終的にどのように落ちつけていくかという、いつもながらに非常に頭の痛い話だった。
私が普通の人間と違って老いずに生きながらえているのは特殊な故あっての事だ。エスカートとなる少し前に友人と共にある山で見つけた洞窟を探検し、最奥にあった盃型の鍾乳石に溜められていた水を飲んだせいで、私の黒かった髪や目の色は緑に変わり、その当時の容姿から全く変わる事が無くなってしまったのだ。
おかげで私は世界中のエスカートの中でも稀有な代替わりすることのないエスカートとなった。本当に終わりなく生きられるのかはわからないが、それでも今まで何の変化もなく、周りのエスカートも代替わりする中でただ一人そのままでいるのだから、あの水の効果によってはこれからもずっと皇国のエスカートとして在り続けるだろう。
さて、先程私は当時からの友人知人は片手で足りるだけしかいないと言ったが、その一人が今私の目の前で優雅にお茶を楽しんでいる。友人の方ではない。知人というほど遠い存在でもないが。言うならば腐れ縁というものだろう。
オーランド=ラディン。レゼシア王国のラディン男爵家の長男として家督を継ぎ、一つの街を統治しているだけのそこら辺にいるような底辺貴族に扮した怪物である。
実際には自身の部下を王国の貴族に仕立て、それから4代の内に貴族としての立場を固めてから誰にも気づかれないように王国の貴族に入り込んだのである。
今ではそのあまりにも強大な影響力から家の名前ではなく個人名をあげて、オーランド男爵と呼ばれているその男は、私がエスカートになってからほどなく出会った者で、これまで3度も共に旅してきた仲である。
一度目は皇国の森に異常な進化を遂げたモンスターが現れた時、そのモンスターの殲滅のために少数精鋭で組んだ十人班の中で共になった。その時は人間だと思っていたが、その実力からただものではないことはわかっていた。
二度目は三代前の皇王の治世の時に起こりかけたホーステリア帝国との戦争を回避するために、ホーステリア帝国からやってきた貴族に扮したオーランドと共に両国間を行き来していた。初めて会ったあの時から一切姿が変わっていなかったことから、もしやオーランドも私と同じく不老の力を得てしまったのかと思ったが、理由は全く違うものだった。
三度目は二代前の皇王の時代に魔王が動き出し、世界が危機に瀕したとき、魔王を討つための特殊暗殺部隊として各国のエスカートや強者が集められた時、海を隔てた南方の大陸にある国の強者としてオーランドが仲間に加わった。性格も実力も変わらずそのままでいることに懐かしさを感じつつ、最初に会った時から考え方が合わないところもそのままであり、相変わらず好かん奴だった。
そして今日。オーランドはまたも私の前にいる。老いることも性格などが変わることもなく、そのままの姿でここにいるのだ。そう考えるといくら腐れ縁とはいえ感慨深いものがある。
私はゆっくりと茶を飲み、アナトリアとナティーシャが部屋に来るのを待っているオーランドに明らかな不満顔を見せ、悪態をついた。
「オーランド。話ならば二人がいなくとも私たちだけでも十分できる。始めてくれないか?」
この場には私とオーランド、オーランドが連れていた従者、そしてエレアがいる。少なくとも私とオーランドとエレアがいれば話は進められるのではないかと思うのだが、この男は微笑みながら首を横に振った。
「いえ、全員が揃ってから始めます。その方が都合がいいので。」
「それは誰の都合だ?」
あまり他の人にはしない荒れた言葉遣いでオーランドを問い詰める。隣に座っているエレアは私の態度に目を丸くしているが、今はそちらに構っている暇はない。
「私はいつでも全員の事を考えていますよ。」
「そう言いつつ、最も自分に都合がいいように持っていくのがあなただろう?」
「それは偏見というものですよ。仮に私にとって一番都合がいい状況になっているとすれば、それが一番全体のバランスを保つことができると考えたからでしょう。」
ぬけぬけとそう言ってのけたオーランドはお茶のお替りを従者に注がせる。この従者もこの男の部下であることから特殊な力や能力があるのだろうが、それを一切感じさせずに影に徹している。
「あの、ハルフリート様とオーランド男爵はどういうご関係なのですか?」
たまらずといったようにエレアが質問した。すぐには誰も答えなかったが、一拍置いてオーランドが口を開いた。
「昔を知る者同士であり、共に死線を潜り抜けた戦友であり、考え方に相違がありどうにもそりが合わない二人。そのような関係ですよ。」
「同じことを考えているというのが癪だが、まあそんなところだ。」
私たちの答えにますます混乱するエレア。エレアが納得する前に、扉をノックする音が部屋に響き渡った。
「アナトリアとナティーシャです。」
「入りなさい。」
私が入室の許可を出すと、笑顔の下に困惑の色が見えるアナトリアと、丸で全てを聡っているような年齢に見合わない落ち着き払った表情のナティーシャが扉を開けて中に入ってきた。
アナトリアは必死でかつての自分と今の自分との状況の違いを見極めて直そうとしており、今でも突然の状況に目をまわしつつも取り繕いながらついてこようとしている。真面目でしっかりとした娘だと思う。
ナティーシャは、実のところまだあまりつかめていない。底が知れないというか、外見と内面の差が激しいせいで読み取りにくいのだ。それは私がまだ予知ができる者と会った経験が少ないせいもあるのだろう。
予知とほぼ同じことをする者なら知っているのだが。
オーランドも予知に近い事を行うが、この男の場合は膨大な情報の中から必要なもののみを抽出し、未来を推測するというのだから、実際に見て感じることのできる予知とはまた違う。
二人が各々席に座ると、オーランドはようやくお茶を飲むのをやめ、話し始めた。
それはこれから王国で起こることと、私たちがそれにどう巻き込まれていくのか、どう対処していき、最終的にどのように落ちつけていくかという、いつもながらに非常に頭の痛い話だった。
0
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を
紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※
3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。
2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。
いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。
いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様
いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。
私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる